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メモとして使っています。

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最近の記事

『牛模様の猫』

多分こいつは鏡を見たことがない。もし鏡を見ても、そこに写る猫を自分だと分からないだろう。美しいか、飛びついてしまうほど美しいか。

    • 『百円ライター』

      君に貰った百円ライター。僕は何の遠慮もなく使っていたのだけど、さっきふと気がついた。僕と君はもう会うことはないし、たまたま、何かの間違いで道端ですれ違ったとしても、お互いに気がつかない。名前も知らない君。何色のライターをあげたのかも知らない君。オイルが無くなる頃に思い出す。いつかまた。また、あの日で。

      • 『アイスコーヒーを待つ間』

        ちょうど昼時に行ったのがまずかったか、99パーセントの席が埋まっていた。僕はその残り1%の席、真四角の2人掛けに座った。なぜか、その席だけ空いていて、予約席なのかなと最初思った。だけど、僕はそこに座り、何か言われたらどけば良い話だ。いつまでたっても店員は注文を取りに来ない。と、言っても、そもそも、僕の存在を知らないからだ。だから、手を挙げ、大きな声で呼ぼうと思ったが、別に喉が渇いているわけでもないし、待ってりゃいつかは来る。多分、皆んなが帰って、閉店する頃、ようやくメニューを

        • 『歳の差』

          男は「歳は関係ない」と言った。 女はアラフォーだし、当の男は30にもなっていない。悟りという言葉で片付けてしまえばそれまでの話だが、男もまだ"それ"ができる歳ではあるし、だけど、それをしないと死んでしまうほどの猿でもないが、男は男だ。男は言う、「俺は人を見ている」と。それは男にとって真実ではないが、嘘でもない。本質的な恋愛を理解している。そしてまた「顔も関係ない」と言う。当の女からすれば、性的な対象としてしか男を見ていない。若い血を吸いたいのだ。つくづく男は思う、「この女は羨

        『牛模様の猫』

          『焦点の合わぬままに』

          ベッドの上には、私と彼女しかいないはずだのに。女は私の目の奥にいるだろう男に向かい、そのどこを見つめているかも分からない焦点の合わないまま、「愛してる」と言うのだ。

          『焦点の合わぬままに』

          『少し小高い丘の家』

          書くこといえば何もない。皆無だ。「あ」だの「か」だのの文字達が「安」だの「加」に見えてきて、文字の意味というか、それらの存在の意味さえ分からなくなってくる。ただ、今私がやりたいことを仮に文字として表現するならば、海の見える少し小高い丘の家に住み、大きすぎる犬と細そすぎる猫と暮らし、時々夜中に海を眺め、その極めて緩やかに曲がっている地平線に、多分地球ってのは案外小さいのだなと、小馬鹿にしたい。

          『少し小高い丘の家』

          ベロアの女

          遥々ベトナムまで仕事で行って来た。"はるばる"と言っても、よくよく冷静に考えてみればたったの15〜20cmぐらいの距離を散歩したようなもんだろうとも思ってはいるが、今回、このような記事を書こうと至った事柄、言わば事象は貴方には理解され難いことであろうことぐらいは私自身理解しているつもりだ。私は、ベトナムの北部、ハノイと云う地域に向かい、そして、そのハノイの北部に行ったり、南部に行ったりと、言わばたったの2、3cmの範囲を徘徊してみた。 て言ってはみるものの、正直な話、そのハ

          ベロアの女

          『チョリソー』

          黒猫は不吉の前兆、詳しい理由は分からないが、何かと縁起が悪いらしい。一方、白猫は縁起が良いらしい。その証拠に、招き猫は白猫だ。何の話をしているかと言うと、この間、仕事帰りに黒猫を見たって話。僕は缶チューハイ片手に真っ暗闇を歩いていた。渋谷駅辺りだったってことは覚えているが(路地裏)、明確な場所は覚えてない。ただ、色んな食べ物の匂いが入り混じって、ゲロ臭いところだったのは覚えている。キラリと光るグリーン。よく見ると、黒の子猫だった。首輪を付けていないから、野良猫かもしれない。ニ

          『チョリソー』

          『透明人間』

          僕を貫通したところを見ていた。もしくは、僕の前の空を見ているのか。どっちかは分からないけど、僕を見てないのは分かった。だから、多分、彼女にとって僕は透明人間だろう。半透明で今にも消えてしまいそうに。

          『透明人間』

          『鏡』

          鏡の中の自分を凝視する。何者でもない誰かがそこに佇み、こちらをジッと睨んでいる。だから、私はワッと大きな声を出して威嚇してみた。だけども、彼は微動だにせず、ニヤニヤ笑っていた。なぜか私も吊られるように面白くなってきて、真っ当なジョークを言ってみる。すると、彼は呆れたように、首を横に振って、軽く軽蔑し、こっくりと頭を下げたかと思うと、突然ワッと叫んだ。思わず私は転んでしまい、すぐさま立ち上がって鏡の中を覗いたが、そこには誰もいなかった。

          『メトロノーム』

          煙たい店内には、その速度と同じくらいの気怠いメロディーが流れている。ほとんどの客は1人客で、皆、誰かを待っているようだった。密閉されたその空間には、コバエも入って来れないのに。訪れもしない相手を永遠と待ち続ける。皆、せっかちに、なるだけゆっくりと最後の1本を吹かし、ふと腕の時計を眺める。その秒針もメロディーに合わせ……メトロノームのように。

          『メトロノーム』

          『蝉』

          多分、もうすでに生まれ変わっている。聞こえるのは生前の声であって、今まさに泣いている、わけではない。要するに昔、今すら、今まさに昔なのだ。

          『ハチドリ』

          私は幾分酔っていて、それが実像だったのか虚像だったのか今更分かるわけもないのだけれど。 右腕、肘より上に。そいつはノースリーブを着ていて、ハチドリのタトゥーがあった。その鳥はどう考えたって、止まっているはずだのに。HS3倍で4、5回羽ばたいた。きらりと光るそれは何となく昆虫みたいで、その動物の、種目、あるいは何て言うか、何科に属するのか分からない。その中途半端な青なのか緑なのか、青緑の物体の本来の色は今となってはよく思い出せないし、そいつの顔すらもボヤッとしていて、どうしよ

          『ハチドリ』

          『風』

          生温い風だったが、方向性があった。それを辿って行けば、どこかへ行ける気がした。だけども、僕はじっとその場から離れず、もっと強く吹いてはくれないかと、次の風を待った。

          『風』

          『西から来た悪魔』

          店は混んでいた。やっと座れた窓際の席から駅の出口を見下ろし、悪魔が来るのを待った。 その日は雨が降っていて、薄暗く、昼だというのに夜のようだった。悪魔が電車に乗るわけないか。と思いながらも、駅の方を見ていた。傘を刺している人、刺していない人。小走りで軒下に駆け込む人。僕はなぜか、いつも以上に人間を観察していた。予定の時刻になっても悪魔は来ない。時計の針が11分過ぎたところで、黒いトレンチコートを着た長身の男が入って来た。多分、悪魔だろう。僕は手を挙げた。気付いた悪魔は席に座る

          『西から来た悪魔』

          『柳内に連れられて』

          柳内に連れられトンカツ屋に入った。駅から少し離れていることもあり、隣は寂れたスナックということもあり、到底繁盛する店ではなかった。店主の親父と、その嫁らしい厚化粧の女。僕らが入ってきたのがわかると、咄嗟に作った笑顔で「いらっしゃい」と口を揃える。「さっき予約した者です」と、柳内が言う。そして、「ずいぶん混んでるね」と、向こうからすれば面白くない冗談を付け足す。夫婦は作り笑顔のままで「予約されてて良かったです」と無理くり取ってつけたような冗談で返す。「とりあえず、瓶ビールね」と

          『柳内に連れられて』