『メトロノーム』

煙たい店内には、その速度と同じくらいの気怠いメロディーが流れている。ほとんどの客は1人客で、皆、誰かを待っているようだった。密閉されたその空間には、コバエも入って来れないのに。訪れもしない相手を永遠と待ち続ける。皆、せっかちに、なるだけゆっくりと最後の1本を吹かし、ふと腕の時計を眺める。その秒針もメロディーに合わせ……メトロノームのように。

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