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沖縄料理「人参しりしり」はいつから食べられていた!?

はいたーい!
沖縄料理研究家 宮澤かおるです。

先月、テレビ番組からご依頼があり、クイズ番組の回答について調査協力をさせていただきました!本来なら昨日、沖縄テレビにて放送予定だった内容ですが、残念ながら調べた部分はオンエアーにならず・・・

収録はされたようですが、
「今後オンエアーがないなら、皆さんにもお伝えしたい!」と、番組の担当ADさんに確認し、許可もいただけたので、調べた内容や、新たに分かった「人参しりしり」の歴史について公開しちゃいます♪


人参しりしりとは!?
人参を千切りにして、油で炒め、かつお節や塩で味付けする沖縄料理です。具は卵を入れますが、家庭料理のひとつで、ツナ缶を入れる家庭もあります。


■番組からの調査内容

沖縄は、にんじんの消費量が最も多い県であるが、その理由は人参しりしり等、にんじんを使う料理が多いからと言われている。では、人参しりしりはいつ頃から、どのような理由で沖縄に広まっていったのか?

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上記の内容でご依頼がありました。
まずは、聞き取り調査を実施。その後、沖縄県内の図書館や博物館を周り資料を集め、人参しりしりの歴史人参しりしり器の文献探し→解読し・・・

明確ではないのですが


人参しりしりの歴史について謎が解けました!



■回答 

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① 沖縄在住の60代以上の女性、さらにその親世代の方に聞き取り調査を実施

沖縄県在住(首里、那覇市、沖縄市、山原、北中城村、中城村、石垣島など)で現在60代以上の女性と、その方の親世代の方に聞き取り調査をしました。その世代では家庭料理として、すでに人参しりしりは食べられていました。

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当時から、沖縄の島人参ではなく、一般的に食べられている人参を使用されています。現在は、ツナ缶を入れる家庭もありますが、当時は人参・卵・かつお節とシンプルな材料でした。また沖縄島人参は、クスイムン料理(薬のような効果がある料理)のひとつ、チムシンジなどに使用されていました。

② 明治ごろの「沖縄の食生活」を聞き取りした書物によると・・・

明治・大正生まれの方から当時の沖縄食生活を聞き取りした書物(※1)によりますと、人参は那覇以外の畑では栽培され、煮物、なます、汁物、ちゃんぷるーなどの料理に使用されていたとの記載がありましたが、こちらの書物では、1度も「人参しりしり」という料理名が登場しませんでした。



しかし現在の、パパイヤを千切りにして炒め煮した料理「パパイヤ—イリチー」は、「パパイヤ千切り炒め」と紹介され、こちらは当時から食べていたようです。

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そのため、
人参しりしり器について調べてみました。

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③ 調理器具 人参しりしり器の歴史とは!?

人参しりしり器と呼ばれるおろし金は、いつどの地域で使われるようになったのかを調べてみました。

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沖縄で最古すり器としては、サツマイモから澱粉を作るときに使われた「ンムクジシーリー」と伝えられています。現在のまな板サイズ木の板に、竹の釘のようなものを打ち込んだ形をしています。(上の写真は、おもろまちにある沖縄博物館民具コーナーに、再現されているものが展示されています。)

その後、木に張ったブリキの板に釘で穴を開けたタイプウムクルカナ(宮古)に進化し、麦用の脱穀に使うこともあったようです。


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文献によると、現在の人参しりしり器と同じ形のものは、「メンガナ」と呼ばれ、台湾から竹富町へ伝わり、使われていた記録が残っています。

用途としては、大根やパパイヤの千切りをする際に使われていたようです。また台湾では、主にキャッサバの澱粉(現在のタピオカの原料)を作る時におろし金として使われていた調理器具だったことがわかりました。

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④ 琉球王国時代の人参は!?

 琉球王国時代 琉球王のために書かれた書物「御膳本草」(※2)では、人参について胡蘿蔔(こらふく)人参と呼ばれ、当時から食べていた野菜です。その時代では煮物や酢の物琉球宮廷料理セーファンなどの料理に使われていました。


⑤ 「人参しりしり」名前の由来とは?

人参をしりしり器で、すり下ろした音がシリシリと聞こえることから「人参しりしり」という料理名になったとの説もありますが、

沖縄で最古の【すり下ろし調理器具】の名前をみてみると、 

■芋をする 芋くずおろし器は
→「ンムクジ(サツマイモ)シーリー」

■大根おろし器は
→「デークニ(大根)シーリー」
と呼ばれていました。


さらに!?
すりおろした野菜を、「シリシリー」と呼んでいた文献を発見しました!


■大根をすりおろしたものは、
→「デークニ(大根)シリシリ―(すりおろしたもの)」と呼んでいたそうです。
そのため、人参をすりおろしたものが「人参シリシリー」で、その名がそのまま料理名として付けられたのではないかと考えられます。


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■まとめ

●人参は琉球王国時代から食べられていた野菜だが、当時にはない料理。
●「人参しりしり」は、100年以上前から沖縄全域で食べられていた。
●沖縄最古のおろし金は、芋用と大根用が使用されていた。
その後、人参しりしり器と同じ形の「メンガナ」が台湾から竹富町に伝わり、大根やパパイヤなどを千切りする時に用いられ、大正・明治以降、「人参しりしり」が作られ沖縄全域に広まったと考えられます。
●人参しりしりの名前は、本来は「人参をすりおろしたもの」が「人参シリシリ」なので、そのまま名前になったと考えられます。

現在、皆さんが使用している人参しりしり器は竹富町から全島に広まったのです!そして、「人参しりしり」より、先に青パパイヤの千切り炒め(現在のパパイヤイリチー)が食べられていたのです!

全国的に知名度が高い【人参しりしり】は、定番料理ですが、パパイヤイリチーが先だったことが意外な感じですね。そして、名前の由来も、調べて初めて分かりました。


オンエアーにはならなったのですが、調べていて心から楽しかった~。
こ依頼がなかったら、調べることもなかったので、番組さんには感謝です♪
そして、聞き取り調査にご協力頂いた皆さん!
ありがとうございました。
いっぺーにふぇーで~びる!!


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人参の栄養価は、体内で必要な分だけビタミンAに変換されるβ―カロテンがたっぷり!ビタミンAは、目や皮膚の健康維持、病気予防や老化防止の働きがあります。また、ビタミンAは、油と一緒に摂取すると吸収が高まります。人参しりしりは、油で炒めているので理にかなった料理ですね。
乾燥の季節になるので、人参しりしり―を食べて風邪予防しましょ♡
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▼参考文献
※1 日本の食生活全集㊼聞き書 沖縄の食事」
※2 御膳本草 復刻版
※ 沖縄の民具と生活 榕樹書林
※ ふるさと沖縄の民具 地方小出版流通
※ 沖縄の民具 新星図書
※ 沖縄県 沖縄博物館


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