【未来予測】なぜギャルは暴力を振るわなかったのか?|「病弱なヤンキーの漫画」(2)
前回までのあらすじ
三葉と清水は傑作マンガを発見し、幸せな時間を過ごしたのだった!詳細はこちら(読んでいなくても大丈夫です)。
ケム木村「病弱なヤンキーの漫画」
※pixivでも同じマンガをご覧になれます。
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三葉「ところで、もう1つディスカッションしたいテーマがありまして」
清水「ほぉ、何でしょう?」
三葉「ズバリ……『最後のコマでなぜギャルは暴力を振るわなかったのか?』です」
清水「『暴力』?」
三葉「顔を真っ赤にしたギャルが、少年を蹴飛ばしたり、枕をぶん投げたりするシーンですよ」
清水「ああ、なるほど」
三葉「本作の最後のコマは……」
清水「ギャルが恥ずかしがって『バーカバーカ!バーカバーカ!」と連呼するシーンですね」
三葉「ええ。無論それは大変にかわいらしく実に尊いシーンなのですが……」
清水「ふむ」
三葉「3ページ目に比較的近しい構図・表情のコマがあるんですよ」
清水「ほぉ」
三葉「いえね、もちろん似たようなコマがあってもよいのですが、同時に、それならギャルが暴力を振るうことで変化をつけてもよかったのかなと思うんです」
清水「なるほど」
三葉「また、『暴力』、すなわちアクションシーンがあると画が派手になりますよね。最後に派手なコマをもってくるのはマンガの常道かなと」
清水「ええ」
三葉「とまぁ、そんなところから『なぜ暴力を振るわなかったのか?』と疑問を抱いた次第です」
清水「ふーむ……」
【理由1】「理不尽暴力ヒロイン」は嫌われやすいから
清水「理由は2つ考えられると思います」
三葉「ほぉ」
清水「第1に……『理不尽暴力ヒロインは嫌われやすいから』です」
三葉「ふむ」
清水「最後のコマでギャルが暴力を振るった場合、それは照れ隠しですよね」
三葉「そうですね」
清水「原因はギャルの勘違い」
三葉「ええ」
清水「つまり、少年に非はない」
三葉「その通り」
清水「すなわち……それは理不尽な暴力です。そして理不尽な暴力を振るうヒロインは非常に嫌われやすいものです」
清水「事例は膨大にありますよ」
三葉「例えばどのようなものでしょう?」
清水「理不尽な暴力によって嫌われたヒロインの例としてよく知られているのは……『IS 〈インフィニット・ストラトス〉』の箒や鈴(リン)、『とらドラ!』の大河、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の桐乃、『ベン・トー』の白梅、『ニセコイ』の千棘、『WORKING!!』の伊波まひる、さらに……」
三葉「いや、もう結構!十分にわかりました!」
清水「ふむ」
三葉「……つまり、読者から嫌われるおそれがあるから『理不尽暴力ヒロイン』になることを避けたわけですね」
清水「当然の判断でしょうね」
【理由2】スマホの時代、シンプルに徹するべし!
清水「それからもう1つ。……意識しているかどうかは別問題として、作者は、読者がスマホで読むことを念頭に置いているのではないでしょうか?」
三葉「ほぉ。どういうことです?」
清水「ほら、スマホの画面は、PCの画面や単行本と比べて小さいですよね」
三葉「そうですね」
清水「あまりゴチャゴチャ描くと見づらくなると思うんですよ」
三葉「なるほど」
清水「ところが暴力シーンとなると、ギャルだけではなく、少年やら病室やら、あるいは例えば枕を投げるなら枕やら、色々と描く必要が出てきます」
三葉「ふーむ……なるほど。読者がスマホで読むことを前提にすると、PCや単行本の時代と比べて、グッとシンプルな画にする必要があるわけか……」
【未来予測】つまりそれはどういうことかというと……
三葉「そう考えると、今後、『たくさんの描き込みが求められるシーン』は描かれなくなり、さらに、『そういったシーンが求められるストーリー・ジャンル』は避けられる可能性がありますね」
清水「ふむ」
三葉「例えば『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』に見られる激しいバトルシーン。あれをスマホの小さな画面でも読みやすいように描くのは相当難しいと思いますよ」
清水「ほぉ」
三葉「バトルマンガには、主人公と敵が少し離れたところに立って語り合うシーンがありますよね」
清水「ふむ。決戦前の緊迫感漂う場面ですね」
三葉「ところがこれ、スマホで見ると、主人公も敵も米粒サイズになり、緊迫感がなくなってしまうかもしれません」
清水「ふーむ……」
三葉「かといって、恋人のように肩が触れ合う距離に配置するのはおかしいし……」
清水「まぁ、『そんなに近くにいるならとっとと殴り合え』という感じですね」
三葉「また、『ドラゴンボール』には、悟空がかめはめ波を放つシーンがあります」
清水「ふむ。最高に盛り上がる場面ですね」
三葉「一般的には、悟空は敵キャラから少し離れた位置でおなじみのポーズをとるわけですが……」
清水「ええ」
三葉「スマホの場合、悟空が小さすぎて何をしているのかさっぱりわからなくなる懸念があります。もしくは、敵を米粒サイズにするか」
清水「うーむ……」
三葉「あるいは、悟空が敵のすぐそばで放出準備を行うか……」
清水「『かぁ……めぇ……』辺りで敵にぶん殴られそうですねぇ」
三葉「つまり、スマホに最適化しようとすると、これまで培われてきたマンガの技法が使えなくなる可能性があるということです。いま、『新しいマンガ技法』が求められている!」
清水「一理ありますね」
三葉「その行きつくところは……」
清水「ええ」
三葉「顔芸でしょうか」
清水「……ん?」
三葉「つまり、これまでキャラの行動や、背景(空、街並み、モブなど)で表現していたものを、すべてキャラの表情で代替するということです」
清水「……」
三葉「キャラの顔を大きく描いたコマばかりなら、スマホの小さな画面でも読みやすいマンガになるでしょう!」
清水「……うーむ」
三葉「例えば、これまでは腰に手を当てることで『尊大さ』を、足を細かく揺することで『苛立ち』を、コップに両手を添えることで『育ちのよさ』を表現していたわけですが……スマホの時代です。細かい描写は不可!小さな画面では何をしているのかよくわからない!したがって、これをすべて表情だけで表現する!」
清水「うーむ……」
三葉「さらにまた、夕日で『もの悲しさ』を、町並みの変化で『キャラが別の場所へ移動したこと』を、モブの視線で『いたたまれなさ』を表現していたわけですが……背景なんて描くとゴチャゴチャしてしまう!読みづらいだけ!不可!これもまた表情で対処しましょう!」
清水「……確かに顔だけのコマなら、何が描かれているのかパッと見でわかるでしょうが……メチャクチャ表情豊かなキャラばかりになりそうですね……」
三葉「これからのマンガキャラに求められるのは表情筋というわけですね!」
清水「……」
三葉「そしてこうなると、スマホどころか、スマートウォッチでもマンガを読めるかもしれませんよ!すごい!」
清水「うーむ……面白いんですかね、そのマンガ……」
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(分析:清水、三葉 / 文、イラスト:三葉)
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