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空から少女が落ちてくるシーン ~アニメ「中二病でも恋がしたい!」の場合

六花「……見た?……見てみる?」

アニメ「中二病でも恋がしたい!」(第1話)


◆概要

【空から少女が落ちてくるシーン】は、多くの作品に描かれるストックシーンである。原則として①物語の序盤に配置され、②主人公とヒロインはここで初めて出会う。

最も有名なのは、映画「天空の城ラピュタ」のシータが落ちてくるシーンだろう。だがこれ以外にも様々なバリエーションが存在する。また、シータの落下に対するオマージュやパロディもある。


本記事では、アニメ「中二病でも恋がしたい!」(第1話)の当該シーンを取り上げる。


◆事例研究

◇事例:アニメ「中二病でも恋がしたい!」(第1話)

▶1

本作冒頭に、「空から少女が落ちてくるシーン」がある。


・Step0:本作の主人公は勇太(高1の少年)。彼は、家族と共に団地の2階に住んでいる。

・Step1:ある夜のことだ。勇太がベランダに出ると、ふいに上の階からロープが垂れてきた。勇太はぎょっとする。

・Step2:続いて、少女の足が見えた。勇太は仰天する「えっ!?」。

・Step3:間もなく、ゴスロリファッションに身を包んだ少女がロープをつたって降りてきた

・Step4:少女はベランダの手すりの上に着地しようとするものの、なかなか上手くいかない。足をばたばたさせる。……このまま放っておくわけにはいくまい。勇太は顔面を蹴とばされたりしながらもそっとその足を掴み、手すりに誘導してやった。

・Step5:勇太のおかげで、少女は手すりの上に立つことができた

・Step6:少女の顔が見えた。美少女だ。そして眼帯をしている。彼女は言った「……見た?……見てみる?」。勇太は動揺する。パッ、パンツを見たかってこと!?

・Step7:少女は勇太の返事を待つことなく、そのままロープをつたって降りていった。勇太は呆然とする。一体何だったんだ!?


……この少女こそが本作のヒロイン・六花だ。

こうして出会った勇太と六花は、この後次第に距離を縮めていく。そしておよそ半年後には恋人同士になる。


▶2

さて、いまご紹介した「冒頭シーン = 空から少女が落ちてくるシーン」だが、じつはこれ、2つの意味で本作全体を象徴する重要シーンである。

以下、詳しくご説明しよう。


▶3

まずは、【ストーリー】に注目したい。


本作のストーリーを大雑把にまとめると……

・Step1:六花は、現役バリバリの中二病。その言動も格好もなかなかどうしてアレである。

・Step2:では、六花はなぜ中二病になったのか?なぜ中二病的なふるまいを続けるのか?もちろん「格好いいと思っているから」だが……物語中盤(第7話)、じつはそれだけではないことが明かされた。すなわち、六花は数年前に極めて辛い経験をした。そして「現実」を拒絶するようになった。つまり彼女は、「格好いいから + ちょうどいい現実逃避先だから」という理由で中二病をやっていたのだ。彼女は現実を拒否して妄想の世界に引きこもっている……要するに【現実:×/妄想:○】という状態だ。

・Step3:物語終盤(第11-12話)、「現実を直視しなければならぬ。さもなくば周囲の人を悲しませるだけだ」と考え、六花は中二病を止める。つまり、【現実:○/妄想:×】となる。その結果、彼女は覇気を失い、まるで別人のように無気力になってしまう。

・Step4:だがその後、勇太の活躍によって六花は中二病に復帰、気力を取り戻すに至る。そう、「現実」と「妄想」は車の両輪のようなもので、人間にはどちらも必要なのだ。「妄想」に引きこもって「現実」を無視しては生きていけぬ。かといって、「妄想(=夢、理想、目標 etc.)」を捨てたらそれは人間ではない。……というわけで、六花が「現実」と「妄想」を両立できる大人へと成長し始めたところで物語は幕を閉じる。つまりは、【現実:○/妄想:○】である。


以上をまとめると、本作は【「現実」を離れて「妄想」の世界に引きこもっていた少女が → 少年のサポートを得て → 「妄想」を抱いたまま「現実」の世界で生きていけるようになる】という物語なのだ。


さて、ここで「冒頭シーン = 空から少女が落ちてくるシーン」を思い出していただきたい。

ロープをつたって降りてきたものの、手すりに着地できず、足をばたばたさせていた六花……。そして、そんな六花の足を優しく掴み、彼女が着地するのを助けてやった勇太……。

まさにストーリー全体を象徴していると言えるだろう。


▶4

続いて【テーマ】に注目しよう。

本作のテーマは「中二病」だ。六花は現役バリバリの中二病だし、じつは勇太もついこの間まで中二病だった。他にも、中二病やら元中二病やらのキャラが複数登場する。


では、中二病とは何か?

六花に注目すると……彼女は、自らを<邪眼>の持ち主と名乗る。まぁ、そういう設定を自分に付しているわけだ。ところが実際には、六花はそんな面妖なものを持ち合わせていない(当たり前)。ではどうするか?そこで彼女は、カラコンをはめたり眼帯を付けたりしてまるで自らに邪眼が備わっているかのようにふるまう

つまり本作においては、「中二病 = ファンタジックな世界を比較的低コストで再現すること」と定義できそうだ。


で、ここで改めて「冒頭シーン = 空から少女が落ちてくるシーン」を思い返していただきたい。団地のベランダにロープを垂らし、それをつたって降りてきた六花。ところが1人では満足に着地できず、勇太の手を煩わせる……。

映画「天空の城ラピュタ」のシータやその他の少女たちがファンタジックなパワーによって空から落ちてきたのと比べると、嗚呼、あまりにもポンコツだ。これ、「空から少女が落ちてくるシーン」というよりも、むしろ「『空から少女が落ちてくるシーン』を比較的低コストで再現してみたらこうなりました的なシーン」という印象だ。


つまりは、そう!この冒頭シーンは、「中二病 = ファンタジックな世界を比較的低コストで再現すること」というテーマを象徴していると思うのだ。


▶5

以上をまとめると、本作の「冒頭シーン = 空から少女が落ちてくるシーン」は、物語全体の①ストーリーと②テーマを象徴しているというわけだ。

「空から少女が落ちてくるシーン」というストックシーンを見事に換骨奪還した事例と言えるだろう。すごい!


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