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一見すると第四の壁を破って鑑賞者に語りかけているように見えるが、じつはそうではなかった ~ドラマ「ブルックリン・ナイン-ナイン」(シーズン1)の場合

ジェイク「『フェイク』の真似だよ!」

ドラマ「ブルックリン・ナイン-ナイン」(シーズン1の第1話)


◆概要

【一見すると第四の壁を破って鑑賞者に語りかけているように見えるが、じつはそうではなかった】は「メタフィクション、第四の壁」に関するアイデア。


◆事例研究

◇事例:ドラマ「ブルックリン・ナイン-ナイン」(シーズン1の第1話)

▶1

本作の主人公はジェイク(30代の男性)。

「ニューヨーク警察第99分署」の刑事である。仕事はできるが、いつもふざけてばかりのお調子者だ。


本作の第1話は、そんなジェイクがカメラに向かって語りかけるシーンから始まる。

・Step1重々しい表情のジェイク。彼がカメラ目線で語る「潜入捜査は過酷だ。俺は仕事に蝕まれている。ずっと正義のために戦ってきた。だが、悪人と接する内に悪に染まった」。一見すると、彼は私たち鑑賞者に語りかけているように見えるが……。

・Step2:その時だった。ふいに「ねぇ、何してるの?」という女性の声。

・Step3:ここでカメラが切り替わり、①ジェイクがいま街の小さな電器屋にいること、そして、②彼が棚に陳列されているビデオカメラに向かって演技していたことが明らかになる。また、③彼の傍には同僚刑事のエイミーがおり、「あんた何やってんのよ……?」という顔でジェイクを見つめている(つまり、Step2の声はエイミーのもの)。

・Step4:エイミーの問いかけに、ジェイクは嬉しそうに答えた「『フェイク』の真似だよ!」(「フェイク」は実在する90年代の刑事映画)。

・Step5:エイミーは呆れる「仕事に集中してよね!」。……じつは2人は、この電器屋で発生した強盗事件の捜査にきていた。そして真面目に捜査するエイミー。一方、ジェイクは店の商品で遊んでいたというわけだ(私たち鑑賞者に語りかけているわけではなかった)。


▶2

この冒頭シーンは2つの意味で巧いと思う。


<1>

このシーンは、鑑賞者の興味をぐぐっと惹きつけるのに役立っている

まず、上述のStep1。ここで「この男は何の話をしているんだ?」「一体何が始まったんだ?」と好奇心をそそられた鑑賞者は少なくないはずだ。

さらに、Step2-5。【一見すると第四の壁を破って鑑賞者に語りかけているように見えるが、じつはそうではなかった】と判明した時に、「うわっ、騙された(笑)」と噴き出したり、「これから始まるこの物語、結構面白そうじゃん!」とワクワクしたりした鑑賞者は多いだろう。


<2>

このシーンは、「これがどのような作品なのか」「主人公のジェイクがどのようなキャラなのか」を端的に描いているという点でも注目に値する。

すなわち、冒頭から鑑賞者をおちょくるようなシーンをぶちこんでくる作品、そして捜査中にも関わらず映画の名シーンの真似をして喜んでいる主人公……多くの鑑賞者は「あー、なるほど。こういう作品ね(笑)」「肩ひじ張らずに楽しめばいいわけか(笑)」と直感したはずだ。

かくして「これはどのような作品だろうか」「主人公はどのようなキャラだろうか」「どんな風に楽しめばいいのだろうか(集中して見るべきか、それとも家事をしながら見ればいいのか)」などと悩むことなく、ストーリーにすっと入っていけるという次第である


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