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いい波に乗る(2023/07/04)

 定時の30分前に、出荷担当のオーウェン氏が「お先に失礼します」と退社した。早退にしては随分変な時間だが、元来奇行の目立つ人だから何も訊かずに「おつかれさま」とやっておいた。
 後から彼の上司のクリス・マッコウリー君にオーウェンさんはどうしたのかと訊いてみたら、今日は早番だから早上がりなのだと云った。

「出荷部門には早番があるのかい?」
「残業なしで回せるように、今日から始まったんですよ」
「今日から?」
「オーウェンさんが定年で再雇用者になったんで」

 昨日、オーウェン氏に任せている仕事で漏れがあったのを指摘したら、それは本来僕がやるべき仕事ではありませんみたいな調子で詫びの一つもない。
 彼のヌケモレは日常茶飯事で、これまでも何度かきつめに注意している。あれだけ云って変わらないならダメなのだろうと思ったから、態度にいささかカチンと来たものの黙って担当を外しておいた。
 定年再雇用となれば、あの強気な反応も腑に落ちる。あんまり面倒なことを云われたら辞める構えでいるのかも知れない。

 オーウェン氏は「使えない」とか「ヌケモレの帝王」とか陰で云われ続けて役職は上がらなかったが、おかげで残業手当が付くから下手な管理職より稼ぎは良かっただろう。
 仕事内容は簡単な作業で、給料はそこそこで、会社がやばくなる前に逃げ切ったとなると、ある意味勝ち組じゃあないかと云ったら、マッコウリー君は、そうですかね、と云った。あまり興味がなさそうだった。


よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。