百裕(ひゃく・ひろし)

日常をそれっぽく書いてます。 国文学科卒業→外食チェーンの店長→人材派遣屋の営業→ネッ…

百裕(ひゃく・ひろし)

日常をそれっぽく書いてます。 国文学科卒業→外食チェーンの店長→人材派遣屋の営業→ネットでものを売る人→なんか営業。 まとまりのない人生を送ってきました。 大名古屋在住の広島っ子。心の故郷は横浜。

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牛おばさん

 にぎやかだと思ったら近所で祭りをやっていた。この土地に住み始めて10年になるが、こんな近くで祭りをやっているなんて知らなかった。ひょっとしたら今年から祭り会場が変わったのかもしれない。  考えてみれば、地域の祭りなんて中学時代以来行っていない。ちょっと覗いてみようかと思ったけれど、たまたま長く住んでいるだけで自治会にも入っていない “よそ者” がふらりと現れて、「君ぃ、わた菓子を売ってくれたまえ。金ならあるぜ」とやった場合、「おい、あの見慣れない顔は一体どこのどいつだい?

    • 雨、ドキンちゃん

       ゆえあって電車通勤に切り替えたら、早速雨が降った。自宅から駅まで歩きで三十分ほどの距離だから、少しばかりどんよりしたけれど、どんよりしているばかりでは何も変わらない。  意を決し、傘を差して出たら、ものの五分でスボンがびっしょり濡れた。それで愈々嫌になった。  昔、休みの日に商店街の楽器店へ行く用事があった。この時もあいにくの雨だった。その時分には車を所有していたけれど、借りた駐車場が家から遠く、またこれから行こうとする店の周りに車を停められる場所がない。だから歩いて行く

      • レシピ

         十九の時、学生寮の中を宮内と二人でギターを提げて、『笑点』のテーマを演奏して回った。まずは食堂で流し、誰もいなければ誰かの部屋まで押しかけて演奏した。ズボンの裾を捲って風呂まで入って行ったこともあるが、これは先輩に怒られたから止した。  ひとしきり回った後は、食堂の自販機でカップヌードルを買って食った。  ある時、先に買おうとすると「俺はシーフードにするからお前はカレーにしろ」と宮内が言ってきた。普通のカップヌードルが売り切れていて、シーフードまでが切れるのを恐れたらしい。

        • 存在の証、混乱

           ゴールデンウィーク連休で娘を連れて帰省した。  娘がどこかへ出かけるよりも祖父さん祖母さんと家で過ごしたいと云うので、ちょっと買い物へ出た以外はずっと実家にいた。  近所に新しくできたカフェで食事をしながら、母が、伯父さんのお墓参りに行ってきたのだと写真を見せてくれた。  この伯父と云うのは母の妹の旦那さんである。やっぱり元は広島の人なのが、随分以前に仕事の都合で東京へ移住して、先年亡くなった。  出棺の際に広島カープの歌で送り出したと聞いたけれど、お墓は広島でなく東京に

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        • 百卑呂シ随筆
          215本
        • 百卑呂シ言行録
          305本
        • 記憶とカレー
          15本

        記事

          自由と孤独

           再び学生寮で世話になる事になった時の話。  三人の寮母さんは退去時からそのまま変わっておらず、「あんた、もうわかるな」と云って案内を端折った。  部屋の様子も相変わらずだったけれど、周りの顔ぶれは随分変わっていて、懐かしい反面、一人で後戻りしたような焦りも感じた。  戻って三日目ぐらいに、風呂で岩田君と出くわした。岩田君は退去前から面識のあった数少ない寮生である。 「百さん、ちょっといいですか?」 「ん?」 「ラブのこと、聞いてます?」 「何だそれは?」  ラブとは、木田

          準備しない

           随分以前、休日に神保町へ行ったことがある。有名な古書店街へ行って見ようと思ったのである。  わくわくしながら電車を下りて、改札を出た。改札の前には新本屋があるばかりで、肝心の古書店街がどこにあるのかわからない。  迂闊だったと、ここに至って気が付いた。全体、神保町の駅を出たらそこら中か古書店だらけなのだろうと勝手に思っていたので、実際はそういうわけでもないらしい。  まだスマホどころかiモードもない時代で、道行く人に訊くようなコミュ力は持ち合わせない。  結局駅前の新本屋で

          病、知識欲

           二十歳になって間もない頃、夜中に腹痛で目が覚めた。  もっとも、痛いには痛いが大したことはない。一度寝て起きたら治るだろうと思ってまた寝た。  するとじきに、また目が覚めた。今度は先刻よりも痛むようである。それから朝までうとうとしながら、痛みに耐えていた。  ちょうど日曜で、病院は休みである。どうしようと思ったら、学生寮の先輩が休日診療所の場所を教えてくれた。隣の駅近くだった。  では行ってきますと云って、体を「く」の字に曲げながら電車に乗って行った。もうこの時点では真っ直

          眼鏡を貶す

           PCの画面が見づらい。輝度を上げてもやっぱり見づらい。それで眼鏡を替えたらはっきり見えたので、眼鏡のせいだとわかった。  二十年近く使ってきた物で、レンズに小傷がつきすぎて随分見づらくなったのである。  そんなに長く使っていたならいかにも気に入っていそうなものだけれど、持っている中で一番癖がないからメインに使っているので、特に気に入っているわけではない。これといった特徴のない金属フレームで、焦茶色の塗装がしてある。   昔、初めて使った眼鏡もフレームはこんな色だった。  

          デッドライン、思惑

           学生時代にいくつかやったバンドからベストメンバーを集めて一緒に演ってみたいと、時々思う。もっとも、どう考えても各々が人間的に合わない人選なのと、もう連絡が取れない相手が大半だから、実現することはきっとない。  それでも考えるだけならこちらの勝手だから、その時のセットリストを作っているAmazonミュージックのプレイリストにしている。  大学時代に在籍していた音楽サークルでライブのリハーサルをやるというから、急いで会場へ行った。  出演することにはなっていたけれど、開催日時

          デッドライン、思惑

          煙草と苺ミルク

           パスタ屋勤務時代の最後に、川崎で新規オープンを担当した。  以前よそでオープンをやった際、隣の爺さんからの言い掛かりに近いような苦情で大いに困ったことがある。相手は建築関係の社長さんで、地元の有力者だったらしい。  よくよく調べてみると、オープン前にこの爺さんだけでなく近隣住民に対して何の挨拶もしていないとわかった。どうやらその辺りから面白くなかったのが、オープン後の苦情につながっていたらしい。挨拶ぐらいは本部のスタッフが当然やっているものと思っていたから大いに呆れたが、本

          汚穢(おえ)

           強い酒を飲みたい時はズブロッカを買う。あれは安くて美味い。そうして手っ取り早く酔える。実に最高の酒だと思う。  冷凍庫に入れておいたらとろみがついて、いよいよ美味い。  桜餅のような香りがするので、何かと混ぜるよりもロックかストレートでちびちびやるのがいい。  昔、軍モノの服を好んで着た時期がある。物が良いのに安価で、見た目も一癖ある。自分のような偏屈者にこれほど適した衣服はないように思われた。  特に気に入っていたのが、異国の海軍の紺ブレザーだった。金ボタンがたくさん付

          言い忘れてましたが、今日は誕生日です。

          言い忘れてましたが、今日は誕生日です。

          雨と靴、横浜

           働くことにようやく慣れた頃、休日に横浜駅前へ行ったら靴屋がオープンしていた。  冷やかしのつもりで入ってみると、リーガルのローファーが半額になっている。新規オープンセールなんだそうだ。リーガルが半額とは中々のものだと感心した。  自分は最初の配属先で西村さんから、折財布は使うな、時計のバンドとズボンのベルトと革靴は色を合わせろ、ブランドロゴのTシャツは着るな、革靴はローファーも持っておけと教わった。  西村さんは随分お洒落な人だったのである。  この時期にはその教えがまだ強

          リーガルの靴の話を書いてるけど、今日中の公開にはちょっと間に合いそうにない。

          リーガルの靴の話を書いてるけど、今日中の公開にはちょっと間に合いそうにない。

          紙一重

           これの続き。  小四で釣りを始めて、最初は一向面白くなかったけれど、要領を掴んだら大いに楽しくなった。  いつも大体、松岡と楠山と行ったが、小五になって松岡も楠本もクラスが別れた。そうして新しいクラスで懇意になった藤沢と上野は、どちらも釣りをやらなかった。  ある時、「釣りやらん?」と二人に問うたら、興味はあるが道具がないと云う。  それで近くの山へ三人で行って、手頃な葦を取って来た。釣竿にする算段である。  家の前で葦の皮を取って糸を付けていたら、近所のおばさんが「釣竿

          因果

           初めて釣りをしたのは小四の時だった。松岡と福田に連れられて、近くの川へ行ったのである。釣りには前々から興味があったので、約束をして実際に行くまで随分わくわくしたのを覚えている。  当日、福田の家に集合したら、福田が小麦粉に水と酒を入れて捏ねていた。釣りの前にクッキーでも焼くのかと思ったら、それが餌だというから驚いた。てっきりミミズとかそういうのを針に刺して使うのかと思っていて、それはちょっと触りたくなかったから安心した。  釣り場は、家と家の間の狭い隙間へ入って、その先の