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林道、黒いもの

 山の上の住宅地から麓にある隣町の高校へバスで通っていた。
 20分ぐらいで行ける距離だけれど、朝はひどく渋滞して1時間以上かかった。車内はぎゅうぎゅうのすし詰め状態で、ろくに身動きも取れないものだから甚だ気分が悪い。一月ほどで嫌になって、自転車で通うことにした。

 自転車で長い峠道を駆け下りるのも、動かないバスを追い抜いていくのも、随分気持ちが良かった。
 学校までは15分で着いた。隣町へ行くのに15分は随分速い。自分でも驚いたけれど、それより短くなることはあっても長くなることはなかった。
 反面、帰りは延々と坂を登らなければならない。存外車が多くて、蛇行もできない。ひっかけられないよう注意しながら長い峠道を登るのは余計に疲れた。
 おまけに、朝と違ってスイスイ登って行くバスから、こちらを指して笑う者もある。実に朝とは形成逆転だ。
 帰りが大変なのは初めからわかってはいたけれど、それにしたって笑われては面白くないので、帰りはK林道を使うことにした。

 K林道は多少遠回りになったけれど、車両通行止めだから車に注意する必要がないのは楽だった。
 舗装されておらず、随分でたらめな勾配の箇所もあって、初めは大変だったものの、毎日通っていたらじきにスイスイ登れるようになった。
 あの時分の体力測定で持久力だけが突出していたのは、毎日そんなことをしていたせいだろう。

 ある日、登りきる少し手前に何だか黒い大きな物が転がっていた。近寄って見たら黒焦げになった人だった。
 大いに驚いて、それぎり自転車通学は止してしまった。

 という文章をパソコンの中から見つけた。いつ書いたものだかもう覚えてない。自転車通学をしていたのは事実だけれど、黒焦げの人は覚えがないから、随分ゾワッとした。

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