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鼠おばさん

 娘が小学校に入って最初にできた友達がNちゃんだった。何だかチワワに似た子だった。
 Nちゃんは集団登校の班が一緒だから、母親同士も登校初日に知り合った。妻とN母はそれからずっとママ友として交友を続けている。

 何かの折に妻からN母に紹介されたが、顔が鼠だったから驚いた。頭の上に耳があって、顔中灰色の毛に覆われている。
「こちら、Nちゃんのお母さん」と、妻は何事もないみたいに言うけれど、どう見たって鼠である。
 戸惑いながら「…あ、どうも。お世話になってます」と挨拶したら、先方は何だか面白くなさそうな様子で、会釈もせずに黙っている。
 随分感じの悪い母親だと思ったから、こちらもそれ以降挨拶するのはよして、空気対応に切り替えた。

 1年前ぐらいから、学校行事などで顔を合わせるとN母がボソッと、「あと四回」と云うようになった。陰鬱な声で云うから気持ちが悪い。オカルト動画などである、男か女かわからない低い声に近い。どうやったらそんな声を出せるのかと、いつも思う。
 全体、何があと四回なのかも判然としない。そうしていつも「四回」から減りもせず、増えもしない。
 後から妻に何が四回なんだろうかと訊いても、「え? そんなこと言ってた?」と、気付いていない様子である。だからといって当人に訊くと、薄ら笑いで返されそうだから嫌だ。
 そうするうちに、Nちゃんの顔は段々シーズーに似てきたようだった。

よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。