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二十年ぶりに小説を書いた話(逆噴射小説大賞2021ライナーノーツ)。

①と⑤はおれの自分語りだ。ライナーノーツを読みたい人は②③④だけ読んでくれ。

おれの記事はいつだって長文だ。それを踏まえても、今回はひときわ長い話になる。


①はじめに

パルプスリンガーの先輩方、はじめまして。おれはエッセイストのRTGだ。
ふだんは胡乱なエッセイやコンテンツ語りを書いているが、思うところあって今回このMEXICOに足を踏み入れた。

いきなりだが、おれはこれまで小説を書いたことがない。逆噴射プラクティスも未経験だ。せいぜい中学生の頃にラノベの真似事を書いてみたくらいで、それを勘定に入れたとしても、約二十年ぶりに小説を書いてみたということになる。
もっとも、この大賞を主催するダイハードテイルズや逆噴射聡一朗先生のコラム、そして過去大賞のバックナンバーは前々から読ませてもらっている。だから、界隈の空気やパルプスリンガーの有名どころは(多少でしかないが)一方的に知っている。
おれの紹介はこんなところで十分だろう。

ほんとうは、普段おれの記事を読んでくれている常連さんのために、この界隈の空気とか専門用語をみっちり説明する記事を先に上げたいと思っていた。だがそれだとあまりに時間がかかるため、必要最低限の知識だけ伝えたら本題の応募作解説ライナーノーツに入ることにする。


以下、必要最低限の知識

【逆噴射小説大賞】
創作集団ダイハードテイルズが主催する、パルプ小説の書き出し800字以内で面白さを競うコンテスト。今回の応募作の上限は一人三作。「続きを読みたい」と思わせたら勝ち。スキの数は関係ない。
参加資格不問だが、その実態は小説ガチ勢が熾烈な争いを繰り広げる魔境。あと参加者はおしなべてキャラクターが濃い。
優勝商品はCORONAビール24本or同額分のドリトス。どちらも審査委員長の大好物。

【逆噴射聡一朗】
匿名コラムニスト。コンテストの発起人にして審査委員長。
映画「デスペラード」由来の誤ったメキシコ観を振りかざす狂人。だけど文芸への批評眼と確信に満ちた姿勢アティテュードは紛れもなくプロのそれ。

【メキシコ/MEXICO】
現実のメキシコ共和国とは異なる概念。審査委員長の妄想によればサボテンと毒サソリとダニートレホがひしめき合う地獄。
そこから転じて、戦場にも等しい過酷な創作の世界、ひいては人生のメタファーとして用いられる。

【パルプ/パルプ小説】
書き手が全人格を叩きつけて面白いモノを生み出そうとする姿勢。ノンジャンルのエンタメ小説と言い換えても可。
最終的には自分で定義/確信するもの。よって、ここに書かれているのもおれなりの解釈でしかない。

【パルプスリンガー】
パルプ小説の書き手。ガンスリンガー(ガンマン)由来の造語。
創作に臨む者は皆、過酷なメキシコの荒野を己の腕ひとつで渡り歩く、タフなガンスリンガーのように在れかしとの思いが込められたもの。


これ以外に読んでてわからない言い回しが出てきたら、雰囲気で読み進めてくれると助かる。

じゃあ、始めさせてもらう。


― ― ―

②老いたる女神を穿つべし

○一作目。所要時間は8時間。

○パルプというかあんこく宇宙ポエム。だけど書き上げたときの脳汁の出方はハンパじゃなかった。

○元ネタは松任谷由実の”VOYAGER ~日付のない墓標~”。


自分語りで恐縮だが、発端はおれが高校生だった頃に遡る。自営業を営んでいたおれの親父は事務所でユーミンのベストアルバムを流しながら仕事をしていた。おれも親父の事務所で勉強しながらユーミンを聴いていた。
そのたびに耳に入ってきた、この曲の一節。これが妙に印象に残った。


冷たい夢に乗り込んで
宇宙おおぞらに消えるヴォイジャー
いつでも人々を変えるものに
人々は気づかない

行く先は どれくらい遠いの
もう二度と戻れないの


ボイジャー1号とボイジャー2号。生まれ故郷の太陽系から遠く在り続け、最後にはそのまま朽ち果てることを運命づけられた、一対の宇宙探査機。
その二機の詳細を知ったとき、陳腐な物言いだが胸が締めつけられるような思いがした。この世にこれ以上ない孤独を背負わされて、何てかわいそうな奴らなんだと思った。

それから長いこと経って、今年上映されたシン・エヴァ最終章を観たときのこと。
劇中歌として流れた”Voyager”を聴いて、昔抱いていた思いがゼロ秒でフラッシュバックした。

泣いた。エヴァではなく歌に泣いていた。
なんだよやっぱりボイジャーかわいそうじゃねえか。シンジは救済されるけどボイジャーは孤独のまんまじゃねえか。誰かボイジャー助けてやれよ。誰か開放してやれよ。

そういうくるった情念が、そのまま小説のていを成した。それがこの作品だ。


○いざ書きはじめてみて、いろいろ苦しめられた。
ボイジャーを貫く(開放する)手段にケルトの魔槍ブリューナクを選んだのはまあ良いとして、なんでそいつをわざわざ弾丸に内包せにゃならんのか。だいたいおれはケルト神話なんてほぼ知らんのになんでブリューナクをチョイスしてんだ。というかブリューナクって日本でしか使われてねえ呼称じゃなかったか。
そして何より、なんでボイジャーの呼称が"女神"なんだ。その呼称を裏付けるエビデンスなんてどこにも存在しねえじゃねえか。

懊悩したあげく、全部放り投げた。話の整合性も姿勢アティテュードも一次選考落ちだ。

○特に苦しかったのは、なぜボイジャーを破壊しなければいけないのか、その理由を言語化することだった。自分の中のくるった情念を初見の人にも理解してもらえるように腐心したが、そのおかげで字数を食って話が全然動いていない。真っ先にダメなのは付け焼き刃のケルト知識とかではなくこの点だと思っている。

○語り口について、ほんとうは古川日出男の『ベルカ、吠えないのか?』みたいなのを目指していた。だが書いてるうちに似ても似つかぬモノになった。
自分では講談のようなノリだと思う。もっと言うと、マイベスト作家である浅田次郎の『天切り松 闇がたり』のような大仰な語り口だ。
何も下地がないままいきなり小説を書こうとしても、真に自分の血肉に成っているモノしか出せねえんだなと変に感心した。この事実を体で知ったことが、三作目を生み出す上で大いに活きた。

○ケルト魔術師の長い長い独白を終えた後のラストシーン。ブリューナクが遠く離れたボイジャー目指して驀進し、手始めに月をブチくくだりはアドリブで生まれた。
ほんとうは小惑星群を砕かせようと思っていたが、いきなり脳裏にデカい月が浮かんだから景気良くブッ壊した。字数制限もあって単語の羅列だけになったが、これがかえって自分好みの表現になった。

○このラストシーンを一気に書き上げた瞬間、未だ嘗て経験したことのない脳汁が噴き出た。これまでもnoteで記事を書いてて何度か脳汁が出たことはあったが、それまでの比にならないトび具合だった。
たぶんあれはガチの脳内麻薬だと思う。脳内で精製されるから合法なだけで、文字通りの麻薬だ。

溢れ出る脳内麻薬をキメて馬鹿笑いしながら、何故ああもパルプスリンガー達が創作を楽しめているのか、その理由をはじめて体で理解できた気がした。

そうか、皆こんな美味いモン食ってたのか。全力で苦心惨憺しまくった挙句、どうにか物語を創りあげた奴だけが味わえる脳内物質を。

そりゃあ止められねえわけだよな。パルプの弾丸撃ちまくることが。


○だいぶ話が逸れたが、さっきも言ったとおりこの作品が一次通過することはまずあり得ないと思う。この大賞は一次を飛ばして二次選考通過作が発表されるから、実際には一次落ちか二次落ちかはわからない。それでも色々と稚拙すぎる。バケモノ揃いの競争相手をブチ抜くだけの力があるとは思えない。まず一次落ちだろう。

だが、それはそれ。そこまでの話だ。
こいつは普段の常連さん方のみならず、パルプスリンガーの先輩方にも幾つかのスキを頂戴している。応募作三つのうち最も稚拙だと思う、この作品ですらだ。どの程度の思いが込められたスキなのか知る由もないが、少なくとも温情でくれてやったという事はありえないだろう。

だから、おれの方でこの作品を無闇に断罪することはしたくない。
おれの尊厳を守るためではなく、この作品を楽しんでくれたやつの気持ちを守るためにだ。

おれの方はおれの方で、この作品を創ることで得難い経験をさせてもらった。それについてはさっきも言ったとおりだ。それで充分に満足している。


○余談だが、こいつは最初

「第4回逆噴射小説大賞応募作」

という引用文を頭につけて投稿していた。
これを含めても800字のレギュレーションは守られていたが、誰もそんな事していねえと気づいて慌てて消した。それは大会終了後にすべきことだと思い至っていなかった。あと【続く】を示す文もつけていなかった。これは明確にレギュレーション違反だ。さらに慌ててつけ直した。
別に恥ずかしくはない。ただ、素人は何をしでかすかわからねえなと我ながら呆れかえっている。

― ― ―

③代書屋ゴンドウ

○ニ作目。所要時間は3時間。

○いわゆる”お仕事もの”或いは”ジャンルもの”。実は最初に書き上げたのはこいつだった。

○応募作群の主流ではないが、こういうノンファンタジーも有りだという事は過去大賞のバックナンバーを通じて知っていた。これならおれでも書けそうだと思い、手始めにこいつから手をつけることにした。

○書きはじめるにあたって、お仕事ものならびにジャンルものに対する逆噴射聡一朗先生のアドバイスを再読した。以下に引用させていただく(※本文の引用がマズかったらコメントで教えてもらえると助かる。その時にはすぐに対応する)。


お仕事ものは、キャラ造形よりもまず、プロフェッショナルの仕事ぶりを垣間見たいという読者の知的欲求を強く満たせるかどうかがフックになる。それは気の利いた一文の描写かもしれないし、あるいは全体的な言葉選びや筆致から言外に滲み出す「作者はこのジャンルに詳しそうだ」という信頼感かもしれない。どちらにせよ、そのようなプロの仕事に関する説得力が必要なのだ。(出典:第2回逆噴射小説大賞:結果発表
ジャンルものは、読み手にフレッシュな知識欲を刺激として送り込む事ができるので、それだけでもとにかく強い。(中略)おまえがなにか特殊な職業の経験があったり、特殊な趣味に通じている場合、それだけでアドバンテージだという事は忘れるべきではない。
そして、それを小説に落とし込むとき、おまえ自身のR・E・A・Lな体験を無理して茶化したり、変なヒネリを付け加えてスポイルすることがないよう気をつけろ。おまえ自身の体験は、ただそれだけで既に、読者にとっては新規の情報だ。知らない知識を頭に入れる行為は、読者にとって快楽そのものだ。ここに変な完成度の低い世界観を溶接すると、とっちらかってハイコンテクストになりすぎ、素材を殺してしまう可能性がある。
ユニークな題材を見つけたと思ったのなら、まずはそのジャンルで、ただストレートにやってみるのがよい。遊ばずにグーで殴れ。(出典:逆噴射小説大賞2020:結果発表

もとよりおれはド素人だ。遊ぶ余裕などあるはずもない。
ただ淡々と、法律にまつわるトラブルとその問題点、そして解決策の三つを800字でまとめることに専念した。聡一朗先生によるアドバイスの遵守、ただそれだけを考えていた。

○法律モノは切迫したトラブルの解決を描く、それ自体が強い訴求力を備えたジャンルだ。それ故に、書けるならそれだけで強いとは前々から思っていた。おまけに競合相手も今のところはほとんど見当たらない。素人のおれが百戦錬磨の玄人たちと事を構えるにあたって、この飛び道具を使わない手はないと思った。

○もっとも、法律というものはただでさえややこしい。真正面から説明していたら800字なんて秒で埋まる。
ゆえに、説明すべきポイントは絞りに絞った。何を書き何を書かないかの取捨選択には骨が折れたが、他二作の苦労に比べたら屁でもなかった。

○書き上げたときの手応えはあまり無かった。「ほほーう素人にしちゃあ一応カタチになってるじゃねえか」とニヤついたが、それ以上の感想は出てこなかった。今もさほどの感慨はない。
断っておくと、これは自作品への卑下めいた感情ではない。ただ単純に、物語をゼロから創った実感に欠けるという話だ。純粋な創作物である他二作に対し、こいつは事実を羅列した以上の感触が得られていない。ゆえに、作者であるおれ自身が、この作品の面白さを噛みしめる事ができていない。
これが聡一朗先生の言う「遊ばずにグーで殴る」という事なんだろうか。未だにわからない。

○もっとも、おれの応募作の中ではこいつが最も好評を博している。
中でも、しゅげんじゃさん居石信吾さんがTwitterで紹介してくれたのには驚いた。どちらもこの大賞の常連にして、オリジナルの世界観をバチバチに練り上げることに定評のある方達だ。おれなど影すら踏めないお二人が評価してくれたことに喜びを禁じえない。大変にありがとうございます。

※投稿直前、復路鵜さんもTwitterで紹介してくれたのに気づいたので慌てて追記する。この人もとんでもない実力者だ。”奨励会を抜けてアヴァロンへ”は、後述する摩部甲介さんの”よごれ仕事”と並んで擦り切れるほど読んだお気に入りだから滅茶苦茶嬉しい。脊髄を静かに貫かれるオンリーワンの面白さがある。是非読んでもらいたい。ありがとうございます。


また、しゅげんじゃさんに至っては特別枠(特に強烈な印象を感じた作品群)の一つにこいつをピックアップしてくれた。

畏れ多くて声も出ねえ。御礼のコメントは残していったけど。

○上記の記事での寸評は当然嬉しかったが、それ以上に興味深い内容だった。勝手で申し訳ないが、ここに引用させていただく。


お仕事もののなかでも、この作品は主人公のキャラクター造詣含め、きっちりとパルプに寄せてきている点が新しいなと思いました。

恐らくは、主人公であるゴンドウの口汚さがお仕事ものの主人公として新鮮だったのではと思われる。確かにおれが記憶する限りでも、過去大賞のお仕事もののキャラクターは社会人としての行儀良い言動を弁えていたように思う。
だが、おれはその行儀の良さが嫌いだ。

○ここから先は他者へのDisではなく、飽くまでおれ個人の価値観として聞いてもらいたい。
トラブルに相対すれば悪態の一つもつきたくなるのが人間として自然な反応だと思う。加えて、ゴンドウは他人の人生の瀬戸際をメシの種にする男だ。トラブルにおろおろ困惑するような線の細いキャラではメシが食えようはずもない。

○口汚く悪態をつくことでひそかに己を鼓舞し、解決の糸口を泥臭く執念深く探り続ける。どんな人生だろうと、必死に生きていればそういうタフな姿勢になるものだとおれは思う。そこに行儀の良い言動が挟まれるのは、おれにとってはリアリティある描写だとは思えない。
だから、ゴンドウの悪態やキャラ付けは対パルプ専用に書いたものではない。自分の中からスッと出てきた表現、おれが信じるタフでカッコ良い男の姿勢をそのまま書いた。ただそれだけの話だ。

○口荒く書いたが、しゅげんじゃさんのコメントに怒りを抱いているわけではない。むしろ、自分では意識していなかったゴンドウのキャラクターに目をつけて頂いて、とても嬉しく思っている。

○二次選考を通る可能性があるとしたらこいつだろうか。物珍しさはあるが、素人ゆえの表現の稚拙さはどこまで行ってもついて回る。それが足を引っ張ることも十分に考えられる。
もっとも、一次選考落ちでも別に文句はない。常連さんにも初見のパルプスリンガー達にも楽しんでもらえているようだし、面白かったならそれが何よりだと思う。

― ― ―

④アンジー・ラナウェイ・オーヴァドライヴ

○三作目。所要時間は6時間。

○クライムものと見せかけたファンタジー。
と言いたいが、書き上げるのに必死で何も考えていなかった。あえて言うならファンタジーだと思う。

○元ネタはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのナンバー”ゴッド・ジャズ・タイム”。そして、ROSSOのナンバー”モンキー・ラブ・シック”の歌詞と演奏。
どちらのナンバーも、おれにとってのロックンロール・ジーザス、チバユウスケがフロントを務めるバンドの曲だ。


○多くのパルプスリンガーがそうであったように、おれも三作目は難産だった。END OF MEXICOと紙一重の状態だった。

○ゴンドウはまだしも、一作目の暗黒宇宙ポエムを上げたことが恥ずかしくてたまらなかった。ダニートレホの投げナイフが形を変え、「もしかしてこれ駄作なんじゃね・・・?」という声になって脳内に突き刺さっていた。他のパルプスリンガーの作品を読みに行って、天地もかくやのクオリティ差にますます暗澹となった。自分の作品が銀の弾丸どころか泥団子にしか思えなくなった。

○応募〆切までは一週間を切っていた。最終日は日曜だから土日をフルに使って書きたかったが、折り悪く土曜は昼まで、日曜に至っては早朝から夜までの仕事が入っていた。

○「状況は最悪だ。もうここらでゴールしてもいいじゃねえか。逆噴射プラクティスもなしで二十年ぶりに小説を書いてみて、素人なりに二作も書き上げたんだ。お前はよくやった、勲章モノだ」
甘い囁きにコーティングされたダニートレホの投げナイフが、雨のように心に降り注いでいた。


○それでも、絶対に三つ書きたかった。
自分の意志でMEXICOに来た以上、自分なりに納得の行く筋を通したかった。

○平日は仕事で書く時間がない。働きながら必死でネタを考えた。
百戦錬磨のパルプスリンガー達に地力で勝てないのは嫌というほど理解している。相対評価を抜きにしても、何の訓練も経ていないおれにはゼロから物語を創る力なんて無い。このどうしようもない戦況を覆す方法は何だ。

○四六時中考えた。考えつめているうちに、一作目を書いて痛感した「真に自分の血肉に成っているものしか出すことはできない」という教訓を思い出した。
だから、自分が一番カッコ良いと思うもの、クールでワクワクさせてくれるものからインスピレーションを得ようと思った。
それで負けるなら仕方がないと納得できるだけの、全力を傾けられるコンテンツ。おれにとっての”それ”は、チバユウスケだった。


○先にインスピレーションを得たのは、チバの全キャリアの中でおれが一番カッコいいと思うナンバー”モンキー・ラブ・シック”の方だった。チバの楽曲でもマイナーな方だが、おれにとってはこれがTHE BESTだ。

(原曲。44:04~)

(PV版。演奏は原曲よりはるかにカッコ良い。あえて原曲も載せた理由は後述する)

最たる理由は歌詞にある。約9分にも渡る長い演奏のあとに訪れるシーン2、そこでチバが抑揚のない声でつぶやく歌詞がたまらなく好きだった(原曲版のみ収録。PV版ではカットされているのが惜しまれる。演奏で劣る原曲版も上げたのはそういう理由だ)。


黒いスピーカーを積み込んだ
そのネイビーブルーの国産トヨタの2本線のライトの先で
よろめいたラスタスーツがびっこを引くマネで車を止めた

「お願いだ 生まれた街まで行ってくれないか」

この歌詞を目にするたび、おれは途轍もないワクワク感を感じる。
目の前の男は明らかに不審だ。負傷してただならぬ状況にあることも伺える。胡乱極まりないそいつが必死に訴える内容も「生まれた街まで行ってくれ」という漠然さと不穏さに満ちたもの。そして恐らくは、クルマを運転している方も只者ではない。

○理屈ではわからない。だが、雰囲気でわかる。
これはロードムービーの冒頭だ。それも最高にクールでドライなやつだ。
その後、そいつらがどんな旅路を経たのかはほとんど明かされていない。一方的にワクワク感を与えただけで終わる。その辺の味わいは、奇しくもこの大賞のコンセプトと似ている。
このワクワク感をおれなりに表現、あるいは翻訳したい。それが発端だった。


○だが、単なる野郎二人のロードムービーでは訴求力に欠ける。舞台設定やビジュアルにもっと華が欲しい。
そこで出てきたのが、”ゴッド・ジャズ・タイム”だった。

○一聴してもらえればわかるとおり、極太のベースラインから始まるこのナンバーはアッパーチューンでありながらも禍々しさが渦巻いている。圧倒的な危険を感じずにはいられない。
そして、チバユウスケの手掛けた歌詞。この時期のチバの歌詞はおしなべて意味不明だが、今回の歌い出しに限ってはよく読めば理解できる。


突き刺さった朝になって
神のジャズ震えて

”何が”突き刺さったのかという主語は明かされていない。
だが、「神のジャズ」が「震え」るというフレーズ、そして重厚でドス黒い演奏と合わせて読み込めば、であることは明白だ。

○よし、まず鬼みたいに雷を落としまくろう。そんで地面に突き刺さったまま雷が消えずに残り続ける、超ド級の危険地帯を創り上げる。そこに調子こいたギャングを一人放り込めば、この曲が孕む危険さは十分に表現できる。そこまではトントン拍子で決まっていった。

○そこまで考えて、再び”モンキー・ラブ・シック”の表現を考える。
おれが抱いたインスピレーションは飽くまでロードムービーの冒頭だ。相棒との出会いを描く必要がある。相棒はパルプに付きものの女の子ベイブがいい。舞台だけでなくキャラクターにも華を添えたい。ついでに、異常な舞台にふさわしい特異な能力をベイブに持たせることで、物語へのフックも作りたい。

○よし、舞台設定を踏まえて雷のなりそこないというのはどうだ。髪の色は雷と同じピンク、黒レザーとショートヘアはおれの趣味。いきなりギャングの車に転がり込んで、アタシの家に連れて行けとバカでかい雷の柱を指差す。十全ではないにせよ、これならおれの感じたワクワク感を良いところまで表現できるはずだ。

○平日の夜に二つのナンバーを爆音で流しながら、少しずつイメージの輪郭を浮き彫りにしていく。
土曜の昼に帰ってくるなりPCに向かい、未だ明確にならないイメージに頭を搔きむしりながら、それでもどうにか形にできた。


○最初に、いつもおれの記事を読んでくれているリアル友人二人に感想を聞いた。

一人目の感想:「悪くはない。ワクワクする」
二人目の感想:「個人的には三つの中でダントツに好き。続きが気になる」

おおむね狙い通りの感想が得られたことに安堵した。個人的にも、三作の中で一番物語をドライヴさせられた実感があったから嬉しかった。

○実際、これも他のパルプスリンガー達からそれなりの評価を頂くことができた。流石にゴンドウには及ばないが、読み手としても目の肥えたパルプスリンガー達に評価してもらえた事は本当に嬉しい。

○ひときわ驚いたことが二つある。
一つは、先述の居石信吾さんが再びTwitterで紹介してくれたこと。世界観構築の巧者である居石さんからすれば、ゴンドウはまだしもこの作品は取るに足りないものだと思っていたから心底驚いた。
居石さん、重ねてありがとうございます(※おれはTwitterをやっていないのでシェアに反応できなかった。じゃあどうやって知ったのかいうと、エゴサで知った)。

○もう一つは、依怙贔屓で申し訳ないが、摩部甲介さんがスキを押してくれたこと。
前回の優勝者であるとかを抜きにして、おれは摩部さんの大ファンだ。中でも”よごれ仕事”は何遍読み返したかわからないくらいに惚れている。

この作品に通底する、息の詰まるような緊張感。そして、終盤の畳み掛けはいつ読んでも最高だ。痺れるくらいにカッコ良い。
本人からすればばら撒いたスキの一つでしかないのは承知しているが、おれにとってはアーティストのサインを貰った気分だった。その一点だけでも、歯を食いしばって書き上げた甲斐があったとつくづく思う。

摩部さん、不快であれば遠慮なく言ってください。そのときにはこの部分は即削除します。


○こいつは一次、ひいては二次選考を通るだろうか。それとも通らないだろうか。
良く書けたとは思うが、それは飽くまで素人であるおれの主観だ。相対評価だとこれより上の作品なんてそれこそ幾らでもある。一次を通っても二次で落ちるのが最も有り得るパターンだろう。

だが、前二作にも増して、こいつの結果は最早どうでもよくなっている。
上に述べたとおり、おれはもう腹いっぱいに満足させてもらった。後はどうなろうが余録だ。


― ― ―

⑤おわりに

○ライナーノーツは終わりだ。ここからは本当にただの自分語りになる。

○冒頭にも述べたとおり、おれはエッセイを主軸にnoteをやっている。エッセイは創作か否かという議論もあるが、おれは明確に創作だと思っているし、自分と読み手を楽しませるべく頭と時間を使っている。そこに関しては、パルプスリンガーの先輩方とは差異も優劣もないと思っている。

○そんなおれが、何故このMEXICOにやって来たか。
理由は二つある。一つ目は、もう一度物語を紡ぐ楽しさを味わいたいと以前から思っていたこと。もう一つは、パルプスリンガーの先輩方に同じパルプスリンガーとしてお会いしたかったこと。この二つだ。

○一つ目の方から話す。
二十年前、おれはラノベの真似事を書いてクラスメイトに読ませていた。読者はたったの二人だったが、面白く読んでくれたことが嬉しかった。
それ以上に、おれも一つの世界を創れるんだという実感に酔っていた。物語を紡ぐことがたまらなく愉快だった。この愉悦ばかりは口で言っても伝わらない。物語を書いたやつにしかわかり得ない、極上の密造酒ブートレグだと思う(小説クラスタの方にはそれこそ釈迦に説法だろうが)。

今でこそエッセイが主軸になっているが、あの愉悦は二十年経っても忘れがたい。
そこに来て、小説の書き出し800字限定という絶妙なハードルのコンテストが目に飛び込んできた。しかも主催は、おれが物理書籍(トリロジー三部作)全巻を購読するくらいにドハマリした、”ニンジャスレイヤー”の翻訳を手掛けるダイハードテイルズだ。参加しない道理がない。

○そうしておれはエッセイ用の農耕具を放り出し、二十年経って錆びついた旧式のGUNを握りしめ無法のMEXICOにやって来た。
友人や常連さんは、おれのエッセイストとしての顔しか知らない。「気でもくるったのか」とあらぬ心配をかけられた。MEXICOに棲息するタフなパルプスリンガー達には「お前には生ぬるいオレンジ畑が似合いだ」とパルプの銃弾を浴びせかけられた。

孤立無援のなか、おれは血と泥にまみれてMEXICOの荒野を這いずり回った。しかし、俺なりの姿勢アティテュードを以てサヴァイヴしてみせた。それは既に述べたとおりだ。


○二つ目について話す。
おれは前々から、パルプスリンガーの先輩達に憧れていた。
人間業とは思えないGUN捌きの腕前、そして胡乱窟の住人とも呼称されるキャラの濃さ。他所ではお目にかかれない、最高にクールで愉快な人種だ。出来ることなら一度は交流を持ってみたいと思っていた。

○だが、パルプスリンガー達はすでに独自のコミュニティを形成している。キャラの濃い人間が集い合うからには当然の話だが、新規参入の障壁は非常に高いものに思えた。無手で乗り込んだところで、胡乱な眼差しを突き刺され蜂の巣にされるのがオチだ。

○だから、おれもパルプスリンガーになる必要があった。
スマートな腕利き達が流麗に的確にパルプの銃弾を撃つのに交じり、でっぷり肥えたエッセイ農家の体型のまま、もたもたとリロードしては震える手つきでGUNをぶっ放した。一発撃つごとにひいひい言って、それでも三発全部撃ち切った。

○そうしているうち、おれのパルプに他のパルプスリンガー達からのスキが押された。Twitterやピックアップ記事でおれのパルプが紹介された。Twitterをやっていないため反応できないのが歯がゆかったが、ひとり密かに伏し拝んでいた。

○褒められたことも嬉しい。
だがそれ以上に、どこの馬の骨ともわからぬおれを、同じパルプスリンガーと認識してくれたことが嬉しかった。

○本当に嬉しかった。二十年ぶりにGUNを撃てて、本当に誇らしく思った。



○これだけ語り倒していながら申し訳ないが、おれは今後パルプを主軸にすることは考えていない。これまで通りエッセイとコンテンツ語りが主になる。おれのエッセイが好きで長らく読んでいただいている、これまでの常連さんと友人の好意に応えたいからだ。実際、エッセイの方はリクエストが一本、それとおれが年内に書くと友人に約束したのが一本ある。いつだって時間はない。
今回を機にパルプスリンガーの先輩方から有り難くもフォローいただいているが、パルプでない記事ばかりタイムラインに上がって期待外れになるといけないので先に言っておく。重ねて申し訳ない。

○また、常連さんにおいては、もう一回だけパルプ記事を上げることをご容赦願いたい。おれが読んだ今回の全応募作の中から、おれが好きなパルプをピックアップする予定だ。ふだん見慣れない世界を楽しんでもらいたいのと、おれがいかに無謀な戦いを挑んだのかを理解してもらえればと考えている。

○そのうえで、友人からはたまにはこういうのも読みたいと言われている。だから、たまにパルプも書くかもしれない。要は逆噴射プラクティス(今回と同じレギュレーションでの小説練習)だ。そのときには読んでくれると嬉しい。
今のおれには、応募作三作の続きを書く力はない。PRACTICEを経て、いつかこいつらの続きを書けるようになりたいと思っている。

○これで終わりにする。最高にしんどくて楽しい一週間だった。いくら語っても語り尽くせない。
大変にありがとうございました。





それにしても、つくづくおれの話は長い。


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