5月の夜のバス停で(whole story)
午前2時、土曜日。
5月のシアトルは、長い長い、寒くて、暗くて、湿った季節を越えた。
来週の中間テストもお構いなしに、どこか旅をしたい。
そう思ってベット横のデスクにあるパソコンを開いた。
「決めた。」
そうして、数時間後の6時30分には、予約したポートランド行きの長距離バスに乗り込んでいた。
全く行ったことない土地に、女性一人で旅行だなんて。
「一人旅だけど大丈夫。きっと神様が一緒にいる。」
なぜか、わかないけど窓を眺めながらそう思った。
午前10時、無事ポートランドのダウンタウンについて、ホテルにチェックイン。ショッピング街や庭園などを回って、日本で買った旅本がここぞと役に立つ。
二日目も、街を散策して、最後においしい料理と地ビールなんかも飲んで、一泊二日の弾丸一人旅も悪くない。
シアトル行きのバスが18時30分だったから、そろそろお会計しようと思って、ウェイターを呼ぶ。
でも、どうやら忙しいみたい。
「まだ全然大丈夫。それよりも、ポートランドっていいところだ。」
無事お会計を済ませ、スーツケースを片手に駆け足でバスが止まる場所へと向かう。
すると、そこには、
「バスがない!!?」
もう一度チケットを見ると、バスは午後6時15分発だった。
仕方なく、購入したチケットサイトで探そうにも、今日はすべて「Sold Out」の文字。
そこで、旅本に書いてあった最寄りの駅に向かった。
「すいません。シアトル行きのバスのチケットを買いたいのですが。」
「シアトル行き?今日はもうないよ。」
「じゃあ、電車は?」
「ないよ。シアトルに行きたければ、明日来な。」
「このまま、駅に一泊するべきか…でも、さすがに女性一人は危ないよね。」
そういうわけで、急いで新しいホステルを探し、連絡をした。
時刻は、午後7時。
この辺りは、夜は危険だと旅本に書いてあることを思い出した。
「早くホステルに急がなければ。」
そう思って、暗闇を少ない街灯が照らす中、一人バス停でバスを待つ。
「遅い…。バスは来るのだろうか…。」
「おーい。何をしているの?大丈夫?」
「えっと、バスを待っているんです。でも、なんか来ないような気がして…。」
「そうか、わかった。じゃあ、わしが路面電車の駅まで連れて行ってあげる。スーツケースを貸しな。」
「ありがとうございます。」
そこに現われたのは、サンダル履きで、いかにもタバコを吸いに家の外を出てきたような白髪、長髭のおじいさん。
「どこから来たの?どうして、こんなところにいるの?この辺りは、危ないからね。」
今までのことをすべて話すと、自分がしてしまったこと、何をしているのか、ただ怖さや不安から涙がでた。
「大丈夫、大丈夫。心配しないで。時々、神様はちょっと意地悪するけど、泣かないで。」
そうやって、おじいさんは慰めてくれた。
「え、神様…。」
「ほれ、あれが電車。ほら、来た来た。」
「お姉さん。この女の子が、ちゃんとホステルに行けるように、停まるところ教えてあげてな。」
おじいさんはそう言って、私が電車に乗り込むのを見ると、手を振りながら去っていった。
私は、ぐじゃぐじゃの顔で、ただただ「ありがとう。ありがとう。」としか言えないくらい、たくさんの感情が溢れていた。
「あなた、ちゃんと自分の行き先わかってる?そこの電話番号知ってる?この辺りは、危ないから気を付けてね。ほら、ここが下りるところ。」
そうやって、電車の中にいた若いお姉さんが心配してくれた。
電車を降りると、家々が立ち並ぶ暗い道をひたすら走り抜ける。
時々、地図を見ながら、
「早く、ここを抜けなきゃ。」
そうして、無事予約したホステルに到着し、笑顔で迎え入れてくれた家主。
次の日のシアトル行きの電車のチケットを購入し、後は帰るだけ。
月曜日。
午後12時、シアトルのダウンタウンに無事到着。
なんとか、ギリギリ間に合った中間テスト。
あの時、ポートランドの夜のバス停で出会ったのは、目には見えない救い主だったのかもしれない…。
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