モーニングルーティン
こんばんは。
救護施設のぺーぺーです。
今日は前置きなしで、どーぞ。
モーニングルーティン
娘の声で目が覚めた。
「どーじょ、どーじょ」
寝ぼけながらも、おもむろに見たスマホ画面には、5:07という表示が浮かび上がっていた。
「まだ5時やん」
朝からため息が漏れる。
もう少し寝ていたい気持ちから、ふたたび布団をかぶり直し、スマホを布団の上に放り投げる。
それでも続く声にそっと視線を移すと、早起きの犯人が僕の眼鏡を持って座っていた。
「どーじょ、どーじょ」
僕の眼鏡を持ち、こちらへ突き出す仕草をする娘。
そんな初めての経験に、僕は不本意ながら可愛さを感じてしまった。
その時点で、僕の負けは決定していたんだけれど、再び目を閉じることで、現実から逃げようと試みた。
だめだ、諦めない。
そう、彼女は諦めない女だ。
「ダメよー、どーじょ、どーじょ」
耳元でひたすら続くその呪文は、目を閉じる時間に比例して大きくなり、僕を必死に起こそうと試みる。
“横に寝ている妻が起きるかもしれない“
そんな気持ちに負け、僕は体を起こし、それでも諦めきれないからか同じセリフが口から溢れる。
「まだ5時やん」
本当は寝ていたい気持ちでいっぱいだったけれど、そんなこと娘には関係ない。
娘が起きたら、もう朝なのだ。
今が5時でも、外がほんのり明るくても、僕が夜勤明けだったとしても、娘が起きたら朝なのだ。
「よし、起きるか」
眼鏡を受け取った僕にすかさずスマホを渡し、リビングへ誘う娘。
改めて言おう。早起きは迷惑だ。
しかし、スマホを忘れず渡してくるところに、よく分かってるなと感心させられてしまった。
やっぱり僕は娘に負けたんだ。
その日から毎日、起きれば何時だろうと眼鏡とスマホを渡すことが娘のルーティンになった。これが、いま流行りの寝起きルーティンと言うやつか。
そして、僕には拒否権なんてない。
娘がこのルーティンを行うと、僕はご飯を作り、一緒に食べ、ひたすら遊び、Eテレを見る。
あの日、娘は僕の起動スイッチを手に入れ、使い方もマスターしたんだろう。
“成長したなぁ“
こんな迷惑なルーティンでさえ、僕は娘の成長として喜んでいたし、毎朝起こされるのも悪くない気がしていた。
その日も娘に起こされるはずだった。
なぜか僕は娘より先に目が覚めてしまった。
このまま起きてもいいんだけど、起こされるまで待っていよう。そう思って布団に横になり、その時を待つ。
「ん、んんん、、」
ついに娘が動き出した。
僕は、一部始終を観察しようと、耳を澄ませ、目はいつでも開けれるようスタンバイしていた。
案の定、娘は早起きで、今は5:40という早朝だ。冷静に考えると、僕は何を楽しんでいるんだろう。
そんなこと、その時はどうでもよかった。
「パパ、メガネ」
不意に声が聞こえたが、娘が動く音は、まだ布団中だったし、こちらに来た気配もない。
“まだ待つ時間だ“ そう思った。
「パパ、メガネ」
2回目の声で異変に気付いた。
まだ娘は布団の中でもぞもぞしている。にも関わらず、声だけ聞こえて来る。これは娘の声か?
起こされるのを待っていた僕は、ほんの少しだけ目を開き、娘の方を覗き見る。
“あ、、“
布団の中でもぞもぞする娘に、小声で助言する妻の姿があった。
「パパ、メガネ」
妻が娘にそう言うと、娘が起き上がり、よたよたとこちらに歩いてくる。そして、僕の前に置いてある眼鏡を持って、こちらに突きつけた。
「どーじょ、どーじょ」
僕が目を開くと、そこにはいつもと変わらない景色が広がっていた。
「ありがとう」
そう言って眼鏡とスマホを受け取ると、娘と僕はリビングに向かった。
うん。いつも通りだ。
娘の獲得したルーティンは、僕と妻、誰も欠けることがない、我が家のモーニングルーティンだった。
最後まで読んでくれてありがとう。
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