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詩(投稿作品)その①

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ネット詩誌MY DEARなどへ投稿した詩をまとめました。 「1 息子の息子と息子」が一番古い作品(2021.8.19)となっており、投稿順に並んでいます。1~100+1で「その①…
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2024年5月の記事一覧

詩22「老木」

心配した程の 強い風は吹かず 安堵の思いで 台風一過の土曜日 朝の公園を歩く 近寄るな、危険 一本の老木が 周辺をポールとロープ 張り紙で囲まれている それほどの 大風ではなかったが 長年に渡り 風雨雪に耐えたから 老木は ゆっくりと 傾いたのだろう 倒れてはいないので 支柱があれば まだ大丈夫そうだ 翌週の土曜日 朝の公園を歩くと 老木は姿を消しており 切株と 地面に隆起した 太い根だけになっていた 切断面から 樹液が漏れ出ている 黒い涙 見ているだけで 苦

詩21「視線」

ほんの少し前へ 足を伸ばしてみる 昼間の 空席目立つ 地下鉄で 膝のトートバッグと買物袋を 横に置いてみる 私しかいない シートだから 誰にも気兼ねなく ずっと 真面目に きちんと 生きてきた 些細なこと かもしれないけど 私にとっては けっこう 思い切りがいること 私は 常に 視線を気にしている いつも 誰かに 見られているのだ 車内を 見渡すが 一人も こちらを見ていない 優先席からは 鼾が聞こえる 私は 視線に 初めて 気づいた 私を 監視する 私

詩20「二人の大きな少年」

ランドセルが 小さく見える 大きな少年は いつも 一人で歩いている 周りは 二人や三人で 身を寄せ合い 大笑いして 楽しそうなのに 僕も 小学生の頃は 背が高くて ランドセルが 似合わない少年だった 電車に 小人料金で  乗ると 駅員から疑われるような 彼は どうして 一人なのだろう 仲間外れに されている ようには見えない むしろ 堂々としている とても気になるのだが 声を掛けて 聞く訳にもいかない 土曜日の昼過ぎ 母親と 嬉しそうに 並んで歩く 彼を見かけ

詩19「王子と怪物」

まだ 続けるのか もう 無理だろう ここ数年 秋になると ため息を吐いた 王子と 呼ばれて 十数年経つが 今でも あの夏の雄姿を 思い出す 記憶と 期待と 現実の 深い溝 最高の 好敵手は 遠い存在になってしまった 怪物と 呼ばれて 二十年以上経つが 今でも あの春夏の躍動感を 思い出す 記録と 栄光と 復活の 高い壁 流れ流れて 獅子に戻り 最後の輝きを目指した とにかく 甲子園の頃から 二人が大好きだった だから 打ち込まれ 怪我を繰り返す姿を 見るのが

詩18「夢語」

カタコトの日本語を話すアナタには カタコトの夢語を話せる いつもは みんなが 熱く 活発に 夢語を話す輪で 何も言わずに ぽつんと座っている 君は? と聞かれれば 夢なんてないよ どうして? と問われれば 好きなものも 得意なものもないから 説明にもならない説明で 嘘をつく みんなみたいに 流れるように話せればいいけど ボクはカタコトの夢語しか話せない ボクのカタコトの夢語を アナタは真剣に聞いてくれる 夢語も得意ではなさそうだが カタコトの日本語で 思ったこと 感

詩17「真夏日の秋」

十月に入り 歳を一つ重ねた 秋に生まれたはずなのに 半世紀後は 真夏日で 半袖のポロシャツを着て 汗を拭きながら歩く 服屋には 秋冬物が並び スーパーでは 秋刀魚、栗、松茸を見かける 暦と 季節と 気候が ずれて ゆがみ 身体と 心は 振り回される せめて 気分だけでもと思い 吸い物の粉末と エリンギで 松茸風の炊き込みご飯を作った 本物には 手が出せないから 風味で我慢する 鼻から 口へと 秋を感じる 本当は 松茸ご飯を 最後に食べたのが いつなのかも 覚えて

詩16「好きな色」

朝から ずっと 仕事に追われ 心と体が 離れたまま 一日過ごした 昼は 何を 食べたんだっけ? 駅前の 花屋を 通り過ぎてから 忘れものに 気づく 小走りで 花屋に戻り 金額を伝えて 誕生日のアレジメントを 注文する イメージを聞かれたから お任せでと答えると 好きな色を尋ねられ お任せでとは答えられないので 天井を見上げる 妻は 何色が 好きなんだっけ? 白シャツにジーンズの 普段着しか 思い浮かばない 記憶を巻き戻し続けると 結婚式のお色直しで 華やかなドレ

詩15「自失」

あそこの二階は 怖いくらいに 当たるらしい そう聞いて 階段を昇ったら 顔の四角い占い師が 付き合い始めたばかりなのに 別れることをすすめる 転職したばかりなのに 転職をすすめる 引っ越したばかりなのに 引っ越しをすすめる 彼女と別れてから 転職をして 引っ越し 新しい恋を始めた ところが 占い的には 間違いだったらしい つまり 元鞘に戻れば いいのだ 一週間考えて 彼女に電話する  ということなので  やり直さないか?  あぁ、そうなの  占い的には、は分かっ

詩14「風の正体Ⅱ」

風を 見るのが 嫌いです カーテンを揺らし 樹々を駆け抜け 仕舞い忘れた風鈴を鳴らす 見て欲しいくせに 姿をなかなか見せない ひねくれ者で 気分屋なのは 遠くで暮らす 彼にそっくりだ スカートを巻き上げ 帽子を飛ばし 調子に乗って傘を壊す かまって欲しいのに 素直になかなかなれない はじかれ者で 淋しがり屋なのは しばらく会えていない 彼にそっくりだ 風を 見るのが 好きです

詩13「風の正体Ⅰ」

風を 見るのが 好きです カーテンを揺らし 樹々を駆け抜け 仕舞い忘れた風鈴を鳴らす 見て欲しいくせに 姿をなかなか見せない ひねくれ者で 気分屋なのは 遠くで暮らす 彼にそっくりだ スカートを巻き上げ 帽子を飛ばし 調子に乗って傘を壊す かまって欲しいのに 素直になかなかなれない はじかれ者で 淋しがり屋なのは しばらく会えていない 彼にそっくりだ 彼は もう 私を 忘れている かもしれない 風を 見るのは 嫌いです

詩12「いちにち」

のんびりと 静かに過ごす あれもこれもと 何かに追われる どちらも 同じいちにち あれもこれも ばかりだから 今日は 電源を 全てオフにする のんびり ぼんやり うとうと うつらうつら 人間の電源も オフにして 空っぽになると あれがしたい これもしたいと 忘れモノを思い出す 追われてばかりだと 追うことが億劫になり 生きている意味が分からなくなる 時間は有限なのに と焦らず のんびりと 静かに過ごす いちにちを

詩11「真紅の坂道」

濃淡 様々な 緑が広がる 稲は風に揺れ 雑草は力強く 山の樹々は高く大らか 私は原風景に佇んで 思い切り 吸って 吐く 連なる山々は ところどころ 土色の肌を露わにし 削り取られた傷痕が 痛ましい 札束を振りかざした 開発業者の 風の噂は いつの間にか消えた 空や森から 盆地に響く 鳥たちの声は 獣めいている キラキラ光るのは 太陽光パネルに 覆われた 主を亡くした元水田 確実に 時が流れ 風景は変わり行く 緑の世界に ポツリポツリと 群れる 真紅の花 夏が

詩10「たぶん、大丈夫」

回れ右ができず いつも居残りで 泣いていた私 けんけんで 前に進めず くるくる回っていた たっくん 幼馴染は どんくさいことも 沢山知っている 左手と言われ 迷いに迷って 右手を上げる娘 足ジャンケンで チョキができずに 二択しかない息子 どちらの 遺伝かなんて 言えない 似た者同士だから 二人の 遺伝だと思う 似た者同士が 二人から 三人 四人に増え にぎやかに 私達は 幼馴染から 夫婦になり 父になり 母になり 家族になった 父のあなたは 子供達を 心配

詩9「ぼくらは」

音が 消えたら 僕らは 色が 消えても 僕らは きっと また 何かを 探し出す きっと 消えない 何かが 在るはず 聞こえなくても 見えなくても 近くにいるから 笑っているのか 怒っているのか 泣いているのか あるいは 心で泣いているのか きっと 僕らは 通じ合う いくつもの壁 幾筋もの光 時には穴 何度となく やり直し 生きて 生きて 強くなった 僕らは 違う命だけど 溶け合うことだって できるのだから