詩11「真紅の坂道」

濃淡
様々な
緑が広がる

稲は風に揺れ
雑草は力強く
山の樹々は高く大らか

私は原風景に佇んで
思い切り
吸って
吐く

連なる山々は
ところどころ
土色の肌を露わにし
削り取られた傷痕が
痛ましい

札束を振りかざした
開発業者の
風の噂は
いつの間にか消えた

空や森から
盆地に響く
鳥たちの声は
獣めいている

キラキラ光るのは
太陽光パネルに
覆われた
主を亡くした元水田

確実に
時が流れ
風景は変わり行く

緑の世界に
ポツリポツリと
群れる
真紅の花

夏が
どんなに暑かろうが
どんなに涼しかろうが
季節を違うことなく
畦道を鮮烈に彩る

帰る家は
なくなったが
参る墓は
なくならない

今年に入り
相次いで亡くなった
叔父二人も
墓場で待っている

いつもより
線香を多めに
リュックへ入れ
私は
都会から田舎へ戻った

今秋の彼岸は
墓回りで
忙しい

祖父母と
父母への
顔見せは
最後にする

四人が眠る
墓地へと続く
坂道には
毎年
鮮やかな
曼殊沙華が群れて咲く

きっと
夕陽に
映えると
なお麗しい

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