詩22「老木」
心配した程の
強い風は吹かず
安堵の思いで
台風一過の土曜日
朝の公園を歩く
近寄るな、危険
一本の老木が
周辺をポールとロープ
張り紙で囲まれている
それほどの
大風ではなかったが
長年に渡り
風雨雪に耐えたから
老木は
ゆっくりと
傾いたのだろう
倒れてはいないので
支柱があれば
まだ大丈夫そうだ
翌週の土曜日
朝の公園を歩くと
老木は姿を消しており
切株と
地面に隆起した
太い根だけになっていた
切断面から
樹液が漏れ出ている
黒い涙
見ているだけで
苦しくなるが
救われなかった
老木を悼み
写真に収める
リビングで
写真を見返すと
涙ではなく
血だった
老木の
掠れた
叫び声が
聞こる
尊厳死
ではなく
殺人だ
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