純文学同人「上陸」

令和の時代の新しい純文学同人。張文經・伊藤浅・宮元早百合、朝倉千秋、直嶋犀次。 ジャン…

純文学同人「上陸」

令和の時代の新しい純文学同人。張文經・伊藤浅・宮元早百合、朝倉千秋、直嶋犀次。 ジャンルやルールに縛られず、自分の表現を追求しています。 23年5月 純文学雑誌「上陸」五号発売予定。 既刊情報はこちらから:https://onl.sc/zvUWh1G

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新荘直大 あるいは「見えない都市」として

上陸第五号掲載作品、新荘直大『薄明かりの海辺の街』によせて。

    • 学び、食べ、たむろする

      上陸という同人は、たのしい。下北沢のファミレスや、居酒屋や、カフェを移ろいながら、いろいろな話をする。お互いの小説について意見を交わしたり、さいきん読んだ小説の話をしたり。ときには、ひいきのスポーツチームの話をしたりする。 けれどそれは、暇だからとか、お酒を飲みたいからとか、そういうことじゃない。僕らがよりよい文学をつくるには、そのゆったりとした時間が必要だ。 いろいろな人が、くる。同人だけじゃなく、そのバイト仲間や、学科の友人や、そのまた友人たちや、恋人たちだっている。もち

      • 上陸第五号刊行・文学フリマ東京36出店のお知らせ

        刊行情報 純文学同人 上陸の同人誌『上陸』第五号が5月21日に刊行されます。特集〈純文学〉と銘打ち、同人の決意を表明する「新純文学宣言」、町屋良平氏へのインタビュー「ことばを、捉える」、同人の座談会「純文学?純文学!」を中心に、小説8編、詩6編、エッセイ2編を掲載。文学フリマ東京36にて販売するほか、通販、電子書籍での頒布も予定しております。 338ページ/A5判/1500円 目次 特集『純文学』 伊藤浅 新純文学宣言 2 座談会 純文学?純文学!9 町屋良平イ

        • 不治 著:張 文經

          死にたくなかったのだろう 水のようなひざしの、いちにち わたし、は運動をやめた 十五、で かんぜんに癒える、ことができたから わたしの口はまだ 顔の中央に刻まれた切り傷ではなかった くうきがいききして 風になでられる草花ににて音が声、 やがて言葉 に なっていた、から わたしのうちに流れる血の河 忘れようとしてよかった 不死は図書室の本と本のあいだから くろい風としてよかんされ 運動をやめさえすれば 海としてそれに 溺れられると思っていた それから永く けれど剥がれつづける

        新荘直大 あるいは「見えない都市」として

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          世界最小のプロポーズ 著:朝倉 千秋

          リリィ、さよなら。さんの楽曲「指輪」を原作としたコラボ小説。 楽曲「指輪」はこちらから! https://linkcloud.mu/be03d2c5 Instagram:https://www.instagram.com/lily_sayonara/ 公式HP:https://www.lilysayonara.jp/ 世界最小のプロポーズ 著:朝倉 千秋あらすじ 図体の割に小さな男。 そんな「僕」は、恋人へのプロポーズに向けて 密かにある決意をしていた……。 ―第1話

          世界最小のプロポーズ 著:朝倉 千秋

          がぶがぶ人間盛衰記 著:新荘 直大

           中津かさねは、新種の人間だった。  彼女曰く、がぶがぶ人間なる新たな人類なのだという。  常人では考えられないほど強靭な顎と丈夫な歯をもち、堅焼きせんべいだろうが、削る前の鰹節だろうが、前歯で軽々と噛み砕く。さらに彼女は、とりあえず何でも噛んでみるという恐るべき習性の持ち主であり、鉛筆から文庫本、電柱から自動車にいたるまで目に入ったものは何にでも噛みついた。 「噛んでみると、そのものへの理解が深まった気がするんだよね」と彼女は言った。  幼い頃、両親は彼女を心配し、小児科か

          がぶがぶ人間盛衰記 著:新荘 直大

          煙草をやめる 著:直嶋 犀次

           煙草を、やめてみようと思う。  もう、というべきか、まだ、というべきかわからないが、今年29歳になる。さすがにそろそろやめておくか、というわけだ。30歳になっても吸っていたら、それからずっと吸ってしまうような気がするから、やめる。なんとなく、一生続ける趣味でもない気がするのだ。  しかしこれはなんだか、僕自身にとって空を掴むようなというか、どうにも、どう捉えたらいいかわからない問題なのだ。たぶん無理だと思っているところがあるし、しかし一方でどうにかなるような気もしている。今

          煙草をやめる 著:直嶋 犀次

          煮込む 著:伊藤 浅

          どら焼きを食べていたらさすがに喉が乾いてきて、温かい紅茶でも飲もうと思って戸棚の抽き出しを開けたら前買ったスープカレーの素があったので、スープカレーを作ることにした。 じゃがいもがあったので一つ切って鍋に入れて、冷蔵庫に入っていたナス、ホウレンソウ、きのこ、ニラ、タマネギをいれて、冷凍庫に豚肉があったのでそのまま入れて、煮込んだ。 くつくつ煮えてきていい匂いがしたので、木の深いスプーンですくってスープを飲んだらうまかった。薬膳みたいな、スパイスの味がして体があったまる。 そ

          煮込む 著:伊藤 浅

          レモンケーキ 著:伊藤 浅

          母も、叔母も、私よりずいぶん年上であった。あんまり年上だったので、むしろあまり気にならなかった。 私の叔母は変わった人であったので、私が小学五年生の夏に何度も会って、ああ、こんな人なんだと思って、それで私が中学二年生のときに叔母は死んでしまった。昼に素麺を食べていて、ワイドショーを見ていたら、電話が鳴って、母が電話に出て、ああ、はい、と言って、電話が切れて、こちらを向いて――死んじゃったって、と言った。私は、――ウン、と言って、それでその後どうしたのか、覚えていない。 叔

          レモンケーキ 著:伊藤 浅

          柑橘のように思い出す 著:張 文經

           空がちかかった。冬であり、薄布のような雲がなんじゅうにもひきのばされて、空の青がいっそうふかまるきがした。  きみは雪をみたことがある?  わたしはそう言った。小さな山から下り、海におちていくみたいな道だった。  あるよ。彼が言うから、わたしはそれをわらった。  それはほんとうの雪? 溶けながら空になっちゃうみたいなものではなくて? 彼はあいまいに笑って返した。きっとわたしの話し方は、もう彼には光ではなかった。それだけがわたしにはわかった。  雪がたくさん降ったあとの昼の、

          柑橘のように思い出す 著:張 文經

          レモン 著:宮元 早百合

           タケルは悲しい子どもだった。幼稚園のころから何度も車道に飛び出した。言葉でいいあらわせない悲しみがかれを何度も突き動かして、そうさせた。車はどれも自動ブレーキで止まってしまった。あぜんとして車を見つめる彼の首根っこを、母親がつかんで歩道に引きずり戻した。そのことで叱られると、よけい悲しみに包まれた。  小学校に通いはじめる直前、家族で旅行に行った。また親の目を盗んで抜け出した。母親もこのときばかりはタケルを見つけられなかった。彼はどこまでもあるき続けた。紫の小さい花が一面

          レモン 著:宮元 早百合

          あいことば 著:朝倉 千秋

          即興創作:檸檬 「あいことば」 著:朝倉 千秋  彼女はレモンティーを注文した。メニューを隅から隅まで見て、ようやく決めた、というように見えた。 僕はメニューを見ないでアイスコーヒーを注文した。メニューなんて見なくたって、アイスコーヒーを置いていない喫茶店などない。そもそも別れ話をしに喫茶店に入ったのに、どんな飲み物を飲もうかなんて吟味するのも馬鹿げている。  レモンティーだって、置いてない喫茶店なんてないだろう。それでも彼女はわざわざメニューの中からレモンティーを探し出し

          あいことば 著:朝倉 千秋

          過程嗜好症 著:朝倉 千秋

           世の中には二種類の人間が存在する。過程を愛する者と、結果を愛する者である。  私は過程を愛する者なのだと、最近強く思うようになった。そして実は、そちらの人間の方が数としては少ないのではないかと思っている。  登山をしているとき、このことに思い至った。  最近、三十歳にして人生初の登山に挑戦した。登山を趣味とする人間に手を引かれ、道具を揃えて初めて挑戦した形だ。  事前に聞いていたのは、「道中はとにかく黙々と進むだけで辛いが、山頂からの景色を肉眼で見ると最高に美しくて全て報

          過程嗜好症 著:朝倉 千秋

          詩人というふしぎな言葉 著:張 文經

           詩人という言葉はふしぎだ。詩という言葉と人という言葉がぴったりとくっついて、離れない。詩=人みたいな感じがする。なんとなくそのふしぎさに圧倒されて、僕はずっと「詩人です」と名乗れずにいた。「詩と小説を書いています」と言ってごまかしたりしていた。どこかで、自分の人格と詩がいったいかするほど、自分は突き詰められないと思ってたのかもしれない。  他にこういう言葉には、何があるだろうか? 俳句をつくる俳人、歌をつくる歌人。これは詩人と性質が似てるから納得感がある。他に浮かんだのはた

          詩人というふしぎな言葉 著:張 文經

          『上陸』リニューアルと、サークル名変更について

           皆さんこんにちは。『上陸』編集長の張文經です。  今秋第四号を刊行した『上陸』ですが、第五号よりリニューアルすることとなりました。いままでの作品の質を保ちながら、紙面を拡張し、様々な特集を組んで、純文学雑誌として、より開かれた、より深みのあるものを目指します。出発となる第五号の特集は「純文学」。テーマ創作をはじめとし、様々な企画を考えております。また、これに際してインターネット上での活動も増やしていく予定です。  純粋なものと、純粋ではないものと、そういう世界の多くのも

          『上陸』リニューアルと、サークル名変更について

          イワシとネオテニー 著:朝倉 千秋

           2022年の神奈川文芸賞に応募した作品です。  残念ながら落選となりましたので、文字数の関係で削っていた部分などを多少加筆し、こちらへ投稿します。 イワシとネオテニー  著:朝倉千秋  美しい、と思うと同時に、淡い恐怖も湧き上がった。その二つは深い部分で切り離すことができないのだろうと、幸典は思った。新江ノ島水族館の中でも目玉となる巨大な相模湾大水槽、エイやサメなど大型の魚類が悠然と泳ぐ中、鈍く光る塊は異様なまでの存在感を放ってそこに在った。  全体でひとつの個体のよ

          イワシとネオテニー 著:朝倉 千秋