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ずらして、ひねって、妄想する DESIGN #30 「メソトロジー4」(実証編)

 新たなアイデアを生み出すための「ずらして、ひねって、妄想する」事例を紹介します。

 ずらして、ひねって、妄想する DESIGN #29 「メソトロジー3」(検証編)において、「枠外」のアイデアを導出するため、目的を再定義する上で、類似事例のフェーズにおいて「ずらす」を行うのではなく、批判的思考が働いたのちのアブダクションの事象・法則(事例)のフェーズにおいて「ずらす」を行い、新たな機会によりカテゴリーを転換してから「ひねる」を行うことによって、カテゴリーが異なる仮説を抽出する必要があることを説明しました。

 今回は、ずらして、ひねって、妄想する DESIGN #29 「メソトロジー3」(検証編)と#28において検証した結果に基づき、目的を再定義した事例の特性を踏まえた上で、「折る刃式カッターナイフ」の事例を活用し、目的を再定義することができるか確認することとします。

 なお、抽出した事例は、思考プロセスを確認するものであり、全て妄想レベルのアイデアとなりますので、技術的な機能が伴ったものではありません。

【「枠内」のアイデア「切り口和紙風ナイフ」】

(「切り口和紙風ナイフ」の思考プロセス)
・「そもそも紙を切るのにナイフが必要であるのか」 コンセプト
・「紙をどのようにして切っているのか」
・「ナイフで切る、ハサミで切る、定規を使ってちぎる」 類似事例 ※ずらす(「ナイフ」→「定規」)
・「どのような場面で紙を切るのか」
・「カードのように書類を小さくする時、工作の時、封筒を開ける時」
・「鋭利なナイフで切るのではなく、定規を使ってちぎるという原理を活用してきれいに紙を切ることができないのか」 類似事例 インサイト
・「紙を切るのではなく、紙を分けるという発想はどうか」 ※ひねる(「切る」→「分ける」) アブダクション事象
・「切る側ではなく、切られる側を検討する」 ※ひねる(「切る側」→「切られる側」)
・「和紙であれば、紙の繊維が出ていても気にならない」 新機会 ※ずらす(「紙」→「和紙」) アブダクション法則(事例)
・「和紙であれば、定規で押さえてちぎる(切る)ことができる」
・「すべての紙が和紙でできているものではない」
・「和紙風に切れる方法を検討する」 アブダクション仮説
・「普通の紙を切ると切り口が和紙風になる」 虚構的機能 ※妄想する
・「切り口和紙風ナイフ(ハサミ)」 アイデア 

(「切り口和紙風ナイフ」の実証結果)
 はじめに、コンセプトである「そもそも紙を切るのにナイフが必要であるのか」を設定したものの、究極的状況に対する類似事例ではなく、一般的な状況である「紙をどのようにして切っているのか」に対する類似事例を想起したことから、一般的な状況におけるテクストを抽出したため、同じ目的(「分割」)・機能(「切る」)として使用する場合がある「定規」という同じカテゴー内のテクストに「ずらす」を行いました。

 また、究極的状況である「そもそも紙を切るのにナイフが必要であるのか」に対して、思考当初よりテクスト(物理)に対する視点が「紙(切られる側)」ではなく、「ナイフ(切る側)」であったため、視点がテクストである「ナイフ(切る側)」に集中し、どのような状況で切るのかというコンテクストにおける全体的な視点となっていなかったことも原因であると想定されます。

 そして、思考途中で、視点が「切られる側(紙)」へ移行し、新機会である「和紙」を抽出したものの、当初の目的・機能である「分割」「切る」がアンカーとなったため、機能が「切る」「切られる」「分ける」と大きく変わらなかったことから、目的・機能を転換することができませんでした。

 その結果、「和紙風に切れる方法を検討する」という仮説を導き出したものの、「ナイフ」という同じカテゴリー内のテクストとなったため、大きく異なる仮説を導き出すことがでなかったことから、目的を再定義することができませんでした。

(「切り口和紙風ナイフ」のenabler framework(※))

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※enabler framework
enabler frameworkとは、確実に機能する「意味ある多視点」を見つけ出すための枠組みであり、最上位の視点を「目的」とし、目的を実現するために必要な「機能」を設定する。更に「機能」の視点を実現するために、「物理」を設定する。そして、「物理」「機能」「目的」を行き来するなど、多視点で捉えることにより、新たな価値を創造することができる。

(「切り口和紙風ナイフ」の知覚メカニズム)
1.ムーンショット型コンセプトを設定する
 「そもそも紙を切るのにナイフが必要であるのか」を設定する

(「切り口和紙風ナイフ」のアブダクションプロセス)
1.インサイトを抽出する
 「鋭利なナイフで切るのではなく、定規を使ってちぎるという原理を活用してきれいに紙を切ることができないのか」 究極的状況
2.インサイトと同類インサイトの事例を抽出する
 「紙を切るのではなく、紙を分けるという発想はどうか」 類似事例 アブダクション事象
3.抽出した事例におけるインサイトの解決策を抽出する
 「和紙であれば、紙の繊維が出ていても気にならない」 ※新機会 アブダクション法則(事例)
4.解決策を抽象化する
 「和紙風に切れる方法を検討する」 虚構的機能 アブダクション仮説
5.当初のインサイトに抽象化した解決策を当てはめる
 「普通の紙を切ると切り口が和紙風になる」

【「枠外」のアイデア「折畳み簡単段ボール」】

(「折畳み簡単段ボール」の思考プロセス)
・「そもそも紙を切る必要があるのか」 コンセプト
・「デジタルの場合、紙ではないので、切るという概念自体がない」 究極的状況の想起 ※ずらす(「ナイフ」→「デジタル」)
・「デジタル以外のリアルの世界ではないのか」
・「紙を切るという状況には、どのような状況があるのか」 ※ずらす(「デジタル」→「紙」)
・「カードを作る、工作の時に切るなどがあるが、あまり紙を切る機会はない」
・「紙以外では、どのようなものがあるのか」
・「段ポール、壁紙、ベニア板などがある」 類似事例
・「例えば、段ボールを切る状況とはどのような状況であるのか」
・「使用済みの段ボールを嵩張らないよう処分する際、小さくする時にナイフを使う(面倒である)」 固定観念  ※ずらす(「紙」→「段ボール」) アブダクション事象
・「段ボールに入れるものが少ないので、大きい段ボールを小さくして使用する場合にもナイフを使う(面倒である)」 インサイト アブダクション事象
・「段ボールを使用した後、必ず処分するため小さく切るのであれば、段ボール自体に小さくしやすくする仕組みを作れば良いのではないのか」 ※ひねる(「切る」→「折る」) アブダクション法則(事例)
・「段ボールに初めから折れやすくするため切れ目などを入れておくが、使用中に折れては困るので、使用中は硬く、使用後は折れやすくする方法はないのか」 新機会 アブダクション仮説
・「段ボールの干渉部分に硬めの支柱を入れておき、普通に使うときは補強材として、小さくするときは簡単に折ることができるようにする」 
・「折畳み簡単段ボール」 アイデア

(「折畳み簡単段ボール」の実証結果)
 はじめに、「切り口和紙風ナイフ」と同様、コンセプトである「そもそも紙を切るのにナイフが必要であるのか」を設定したところ、「デジタルの場合、紙ではないので、切るという概念自体がない」という究極的状況を想起し、「デジタル以外のリアルの世界ではないのか」という問いを発することにより、テクスト(物理)を「ナイフ」から「デジタル」、「デジタル」から「紙」へ「ずらす」を行うことができました。

 そして、コンテクストにおける全体的な視点が、「切る側」ではなく「切られる側」である「紙」へ視点が移った(「ずらす」を行なった)ことによって、切られる側の類似事例として「段ボール」という新たなテクストを抽出することにより、機能を「切る」から「折る」へ転換することができたものの、目的は「分割(縮小)」から「縮小」と転換することはできませんでした。

 その結果、「段ボールに入れるものが少ないので、大きい段ボールを小さくして使用する場合にもナイフを使う」というインサイトに基づき、「段ボールに初めから折れやすくするため切れ目などを入れておくが、使用中に折れては困るので、使用中は硬く、使用後は折れやすくする方法はないのか」という仮説を導くことにより、「ナイフ」のカテゴリーから「段ボール」のカテゴーに転換することができたものの、目的を再定義することはできませんでした。

(「折畳み簡単段ボール」のenabler framework)

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(「折畳み簡単段ボール」の知覚メカニズム)
1.ムーンショット型コンセプトを設定する
 「そもそも紙を切る必要があるのか」を設定する
2.究極的状況を想起する
 「デジタルの場合、紙ではないので、切るという概念自体がない」を想起する
3.類似事例を知覚する
 「あまり紙を切る機会はない」を知覚する
4.比較機能が働く
 「あまり紙を切る機会はない」に対して比較機能が働く
5.固定観念を知覚する
 「(よく切る機会として)段ボールを小さくする時にナイフを使う」を知覚する
6.類似事例と固定観念を比較する
 「あまり紙を切る機会はない」と「段ボールを小さくする時にナイフを使う」を比較する
7.批判的思考が生じる
 「段ボールを小さくする時にナイフを使う」に対して批判的思考が生じる
8.本質探究の問いが発せられる
 「本当に段ボールを小さくする時にナイフが必要であるのか」という本質価値の問いを発する

(「折畳み簡単段ボール」のアブダクションプロセス)
1.インサイトを抽出する
 「使用済みの段ボールを嵩張らないよう処分する際、小さくする時にナイフを使う(面倒である)」 究極的状況
2.インサイトと同類インサイトの事例を抽出する
 「段ボールに入れるものが少ないので、大きい段ボールを小さくして使用する場合にもナイフを使う(面倒である)」 類似事例 アブダクション事象
3.抽出した事例におけるインサイトの解決策を抽出する
 「段ボールを使用した後、必ず処分するため小さく切るのであれば、段ボール自体に小さくしやすくする仕組みを作れば良いのではないのか」 ※新機会 アブダクション法則(事例)
4.解決策を抽象化する
 「段ボールに初めから折れやすくするため切れ目などを入れておくが、使用中に折れては困るので、使用中は硬く、使用後は折れやすくする方法はないのか」 虚構的機能 アブダクション仮説
5.当初のインサイトに抽象化した解決策を当てはめる
 「段ボールの干渉部分に硬めの支柱を入れておき、普通に使うときは補強材として、小さくするときは簡単に折ることができるようにする」

【「枠外」のアイデアと「枠内」のアイデアの相違点】 

「切り口和紙風ナイフ」「折畳み簡単段ボール」
1.ムーンショット型コンセプトの設定により究極的状況を想起する
 「切り口和紙風ナイフ」の事例の場合、「そもそも紙を切る必要があるのか」というコンセプトを設定したものの、一般的なコンテクストを想起したため、究極的状況を想起できませんでした。
 一方で、「折畳み簡単段ボール」の事例の場合、同じコンセプトであったものの、「デジタルの場合、紙ではないので、切るという概念自体がない」という究極的状況を想起できました。

2.コンテクストによる視点から新たなテクストを抽出する
 「切り口和紙風ナイフ」の事例の場合、思考当初より視点が「ナイフ(切る側)」であったため、検討し尽くされている「ナイフ」に対する改善等、「枠内」のアイデアの導出を試みました。
 一方で、「折畳み簡単段ボール」の事例の場合、「ナイフ」自体ではなく、「切られる側」における様々なコンテクストのうち、「段ボール」におけるコンテクストに対する改善等、「枠外」のアイデアの導出を試みました。

3.アブダクション事象・法則(事例)フェーズにおいて「ずらす」を行う
 「切り口和紙風ナイフ」の事例の場合、類似事例のフェーズで「ずらす」を行なったため、「ナイフ」から「定規」へテクストを「ずらす」を行ったことから、大きくカテゴリーを転換できませんでした。
 一方で、「折畳み簡単段ボール」の事例の場合、類似事例のフェーズとは異なるアブダクション事象のフェーズで「ずらす」を行なったことから、「ナイフ」から「紙」「段ボール」というように、カテゴリーを転換できました。

4.固定観念から解放するため本質探究の問いを発する
 「切り口和紙風ナイフ」の事例の場合、「ずらす」を行なった後に、「定規ではきれいに切れない」という固定観念を知覚(推測)したものの、定規という同じカテゴリー内のテクストに関する「本当に定規ではきれいに切れないのか」という本質探究の問いを発することとなりました。
 一方で、「折畳み簡単段ボール」の事例の場合、「ずらす」を行いカテゴリーが転換した後に、「段ボールを小さくする時にナイフを使う必要がある」という固定観念を知覚したことにより、新たなテクストに関する「本当に段ボールを小さくする時にナイフが必要であるのか」という本質価値の問いを発することができました。

5.新たな機会においてインサイトを解消する
 「切り口和紙風ナイフ」の事例の場合、「ナイフ」に対するきれいに切りたいという不便益があったものの、「紙」に対する不便益(インサイト)がなかったため、「紙」に対する改善等、「枠外」のアイデアの導出を試みることができませんでした。
 一方で、「折畳み簡単段ボール」の事例の場合、「段ボール」に対するきれいに折るという不便益(インサイト)があったため、「段ボール」に対する改善等、「枠外」のアイデアの導出を試みました。


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