①母を思い出す【乳がんになるまで】

母が亡くなって早5年。その母の乳がんが発覚したのは12年経つのか。
当時僕はまだ20代。昼はほとんど寝ていて夕方に起きてシャワーを浴び20時頃に六本木のバーに出勤し深夜はお客さんとお話しながらお酒を作る水商売の生活を送っていた。
 その頃は実家に住んでいて親父と母と三人で暮らしていた。母は糖尿病だった為、月に1、2度大学病院に通院していた。僕も暇な時は付き添いのフリをしながら帰りに病院近くの昭和感満載な喫茶店で一緒に遅めの昼食を食べたものだ。
 ある日、珍しく母は病院から早く帰ってきた。
「太郎、ちょっと話があるんだけど。」
いつもとは様子が明らかに違う。
「どうしたの?」
水商売から疲れて帰ってきて寝ていた僕はベットから起き上がる。
「お母さんね、乳がんになったみたいなの。」
正直、言ってる事がが把握出来なかった。がん?糖尿病で病院行ったんじゃないの?は?何言ってんの?全く把握出来なかった。
「実はおっぱいが最近腫れてて先生に相談してみたの。そうしたらがんみたいなの。」
母は真面目な顔で話を続ける。
「それで検査して今週中には結果が出るみたい。」
不安な顔をしている。
「でもうちの家系、がん家系じゃないじゃん。大丈夫だよ。」
僕は言った。
 僕はあの時全くがんについて知らず、安易に考えていた。母はがんじゃないだろうし、もしがんだったとしてもそんなのすぐ治るんだろう。なんであの時そんな考えになったかも思い出せない。

数日後、母は乳がんを宣告された。

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