
科学雑誌を読んで、トポロジーのゲームを作った話
『トポロカルタ』という新しいゲームをつくっています。
僕のメインの仕事は、ビジネスゲームデザイナーとして、企業向けに研修・採用のためのゲームをつくることですが、『トポロカルタ』のように遊んで楽しいゲームもつくります。
なぜトポロジーなのか
きっかけは、科学雑誌「Newton」の編集をされている三ツ村さんとお話したことです。
出会ったのは、今年の春にWORDSの竹村さん(当時はダイヤモンド社)が主催された花見大会でした。
その帰りの電車で当時編集されていた記事の話をしていただき、「トポロジー」という言葉を知りました。
トポロジーというのは、図形を「つながり方」で分類する学問で、位相幾何学という数学の一種です。
たとえば、ドーナツとコーヒーカップは同じ形に分類されます。どちらも、ひとつのパーツで構成されており、かつその中に穴がひとつあるという見方をすると「同じ形」になります。
下の図のごとく、ゴムのように変形させるイメージです。
そしてしばらく経った後、書店で「ああ、これが例の特集か」というNewtonを見つけて買ったのが、トポロジーの学び始めです。
読んでみたら、超おもしろい。ド文系人間でも理解ができるように工夫にあふれた誌面。さすがNewtonです。
なかでも僕の心をとらえたのが「トポロジークイズ」というコーナーでした。それは46個のひらがなをトポロジー的に分類するとどうなるか、というものです。
たとえば、「い」と「う」と「え」は全部同じです。2つのパーツで構成されており、穴がありません。「す」と「ね」と「よ」も同じです。いずれも、1つのパーツ・1つの穴でできています。
もうこの時点で面白いのですが、これをゲームにできたら絶対にもっと面白いぞ、と思いました。
よく分からないので、プロに聞いてみる
とはいえ、自分のトポロジーへの理解が正しいのかどうか、だいぶ疑問です。ゲームづくりは教材づくりではありませんが、万が一、トポロジーに対して誤解を生むようなものになってしまったら問題です。
そこでまずは、トポロジーを知るきっかけとなった三ツ村さんに連絡を取り、ゲームのアイデアを伝えてみることにしました。
ひらがなだけでなく、様々な文字や記号を織り交ぜてトポロジークイズをやりたいという感じです。
突然の突拍子もない連絡にも関わらず、三ツ村さんにはトポロジーに関するレクチャーを快くしていただけました。
まず「面白そう!」と言っていただけたのが超うれしかったです。また、やはり誤解・理解足らずがあったので、それらが解消できたのは大変助かりました。
三ツ村さんとディスカッションしているうちに、ゲームのルールもブラッシュアップされていきました。目指しているものが高解像度で一致している人とお話をしていると、この辺がスムーズになるので開発が超楽しいです。
最初はカードを読み札と取り札に分け、読み札に合致する取り札を取るというカルタのイメージでした。
ですが三ツ村さんから「神経衰弱方式もいいのでは」とご意見いただいた結果、両方を混ぜることにしました。
場に裏向きでカードが置かれていて、それらをめくってペアを探すところは神経衰弱ですが、それを取るのは気付いた人から早い者勝ちな所がカルタ的。トランプのスートと違って、トポロジー的に“ペア”になるかどうかはパッと見ただけでは分かりません。よって、「絵合わせ×早い者勝ち」が成立します。
この時点で僕は、新しいし、絶対におもしろいぞという確信を持ちました。
テストプレイで面白いか試して改善点をみつける
とはいえ、自分が作ったゲームに対する「おもしろい」の感覚は信用なりません。最終的には多くの人に遊んでもらいたいので、そのジャッジは他の人を交えたテストプレイで行うのがベターです。
お招きいただいたり、自分で開催するボードゲーム会で、いろんな人にプロトタイプを遊んでもらいました。
トポロカルタでは、まず常用漢字表とにらめっこして文字表を用意し、Illustratorでデータをつくって印刷、それをトランプと一緒にスリーブに入れることでプロトタイプとしました。カードタイプのゲームは大体これで対応可能です。
しっかり印刷したカードで用意できればかっこいいですが、この方法をとれば、コンビニプリントでできるし、中身の入れ替えが容易です。
最初作ったときに組み合わせが間違っていたものがあったのですが、そうしたバグを心置きなく破棄できるのもポイントです。作り込みすぎてしまうと、捨てにくくなってしまいます。
ちなみに、テストプレイには2ステップあるのですが、今回は1ステップ目になります。
1. そもそも面白いか試す
2. 用意したルールブック「だけ」で問題なく遊べるか試す
遊んでもらうたびに、感想とフィードバックをもらいます。
ボードゲームカフェのリトルケイブで実施した際は、オーナーで『東京サイドキック』や『黄金体験』といった作品があるボードゲームデザイナーのエミさんにも遊んでいただけて、かなり仕組みが改善されました。
特に「これ、最初から全部並べなくてもよくない?」というアイデアは即座にパクらせていただきました。
神経衰弱では全てのカードを場に並べてから始めますが、トポロカルタでは毎ターン誰かが山札の上からカードをめくります。
プレイヤーの待ち時間が減るとともに、「カードを引く」というワクワクアクションが追加されるので、いいことづくめです。
そうでなくても他のゲームを参考にできるので、テストプレイはボードゲームカフェでやるのがいいと思います。リトルケイブ、おすすめです。
そのときには三ツ村さんにも参加いただけたので、一緒に企画したものをお見せできました。いいものが作れれば、目の前で楽しんでもらえるというのもテストプレイのメリットです。励みになります。
同じく参加いただけたsayanuさんには、なんとnoteまで書いていただけました。
最初にトポロジーの概念を理解していただくのがちょっと大変ですが、それを乗り越えればかなり盛り上がるゲームだということがわかりました。
デザインを固めて試し刷りをする
テストプレイを重ねて、間違いなくゲームとして面白いと分かったので、デザインの段階に入っていきます。
僕はデザインの素養&技術がないので、東京ゲームメイカーズの仲間の秋山さんに相談します。秋山さんには前作『切り裂きジャックは誰?』を作ったときにもお世話になりました。
ディスカッションの結果、カードを正方形にすることが決まりました。あと、フォントごとに文字の繋がり方が異なるので、見間違いがなくなるように選び直したりしました。
固まったイメージで懇意にしている印刷会社さんにデータをもちこみ、見積もりと試作品をつくってもらいます。そうして出来上がったのがこちらです。
ここまでで、企画を思いついてから約1ヶ月です。
以降は、ルールを誤解なく説明できるルールブック作りや、入稿用データを作っていく段階に入ります。
ちなみに、途中で見落としていた問題や改善点が見つかった場合は、ルールを考える所からやりなおしになることもありえます。あまり考えたくありませんが…。
並行して販路も探します。今回はボードゲーム専門店やゲームマーケット以外にも、書店や理系なグッズが置かれているところもアリなんじゃないかと思っています。
以上、『トポロカルタ』の企画から形作りまでの流れです。これからも、こんなふうに、ワクワクするテーマでゲームを考え続けていきたいと思います。
★Twitterでも最新の進捗をつぶやいてるのでご興味あればどうぞ。