スズメの巣 第38話

第38話 選択の日

今年もいつものホテルにやってきた。
ドラフト会議の季節だ。
もう1年。早いものだ。

「愛田さん。浮かれないんですね。」
橋口は、思い出したかのように言った。

「今年はな。さすがに1回来てるんだ。浮かれないよ。」
「ああならないんですね。」
目線の先の、スーツの大人をばれないように視線だけで合図した。

「あれは、新チームの人だろうな。2チーム参加って言ってたし。」
「やっておけばいいんじゃないですか?」
「いーや。やらない。あの頃が懐かしいけどな。」
愛田の堅い意志に噴き出しそうなのを我慢した。

それはそうと、新チームが今シーズンから2チーム参加するそうだ。
2部リーグだから、何ら関係ない。
もし、昇格できてなかったら。
「どうしよう。誰取るのかなぁ・・・。」
「どうするの?」
こんなんで、テンパっていたことだろう。
けれども、昇格した。
チーム全員。心にゆとりがあるのだ。
兎にも角にも、自分たちなりに戦うことは変わりないのだ。

そんな駄話をしていると、リーグ・ザ・スクエアの事務局の人だろうか。
「まもなく、ドラフト会議を始めます。スタッフの皆さま会場にお入りください!」
そんな呼びかけがあった。

昨シーズンと同じ流れで始まったドラフト会議。
V-deers陣営には、余裕があった。
「今回は、1位指名だけですしね。」
「周りの動きをゆっくり見れるな。これは気が楽だぞ。」
「早速分析始めようかな。」
ほぼ確実に獲得できるであろう。
そう思っていた。
しかし、悲劇は起きた。

第1巡指名選手発表。
1部リーグのチームは、スルーも多く。
V-deersの番になった。

「第1巡指名希望選手。JOYV-deers 平本渚。プロ競技麻雀協会」
拍手が起きた。

それで、決まりと思ったとき。
橋口は、目があった気がした。
そして、視線の先の男はニヤリと笑った気がした。
橋口は、嫌な予感がした。
”なんだあの人・・・。アレってeレインボーズのテーブルだよね?”
この予感は、的中することになる。

「第1巡指名希望選手 オダイバeレインボーズ 平本渚。プロ競技麻雀協会。」

会場は、どよめく。
いわゆるプロゲーマーという2人を1シーズン限りで切った。
テーブルの方角。目があった男はまさにeレインボーズだった。

ちなみに余談だが、橋口は西野からこんな情報を得ていた。
「リーグ・ザ・スクエアでさ、しのびーるときんぐりょうせーっていたでしょ。」
「いたし、対戦もしたな。どしたの?その2人が?」
「その2人。ゲームの大会でも素行を問題視してたんだって。だから、eスポーツチームもやめさせたらしいよ~と。」
「えぇ・・・。」
「まぁ、私たちには関係ないんだけどね。」
そんな会話を思い出した。
でも、認知されてるデメリットもあるか。
そう橋口は感じた。
隣を見ると、ムッとした者がいる。
金洗だ。
明らかに激怒寸前の様子。

さらに、新チーム2チームも、平本渚を指名した。

「わざとか。」
「なんなの?(怒)」
「まぁ、そう怒るな。こういう戦法だよ。」
3者3様の反応だった。

「抽選、誰が行く?」
鳳は、抽選にすべてをかけると言わんばかりに。

「これはもう決めてます。さくちゃん行ってくれる?」
「私?」
「あのオーディションの責任者は、さくちゃんだよね?」
「うん。」
「自分の手で掴まない?それで、オーディション最後の仕上げをしてほしいの。」
「そゆことね。もちろん!横取りする奴には負けないんだから!」
金洗の目つきが変わった。
「異論ありますか?男性陣?」
「ない。」
「大丈夫だ。」

抽選が始まる。
抽選に立つのは、あのニヤニヤ男だ。
あとから聞けば、異動でこのチームの担当になったそうだ。

そして、運命の時。
金洗は、前回と違い目が怖かった。
そして、無言で巨大牌を力強く突き上げた。
指名権を獲得したのだ。

金洗は、チームのテーブルに視線をやる。
3人がこぶしを突き上げているのが見えた。
それを見た金洗は、少し頬が緩んだ。

こうして、あらたな仲間を見つけたV-deersのドラフトは終わった。
ただ、ここで変な運を見せるのが橋口だった。
対戦カードを決める抽選で、開幕戦南家スタートという運を見せつけた。

ドラフトから1週間後。
橋口は、自ら平本と面談し意思を改めて確認した。

平本は、ぜひやらせて頂きます!
こう強い意志を持っていた。

それでもって、こんな話もしていた。
「私が、もしリーグ・ザ・スクエアに入るなら御チームがいいなと思ってまして。」
「いやいや。お世辞でもありがたいですけどねぇ。まだウチは創設2年目ですから。他の老舗チームが本当は希望だったのでは?」
「前までは、そうだったんです。だけど、試合を見る中でチームの雰囲気とか試合のスタイルがノビノビできそうな気がして。自分らしく戦えるのではないかと思ったんです!!」
「まぁ。そうなのかなぁ・・・。」
「雰囲気が言いすぎだと思うんですが、オールオッケーとも感じました。」
「フフ。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします!」
「お願いします!」
「契約の日取りが決まりましたら、改めてご連絡しますね。」
「よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ。」

お互いに礼をして、面談を終えた。
なんか伝わってるんだなぁ。
そう思いながら、

チーム始動は、近づく。

つづく。


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