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(デザイン⑩)意味づくりとしてのデザイン ~東洋思想的視点

私は宗教に関心がなく、信仰している宗教もない。実家は仏教であるが、どの宗派かも知らない。私の生活には、宗教的な思想という匂いは全くなかった。

始まりでもふれたが、大学で数学を専攻し、仕事は約15年間経理を、大学院で経営学(MBA)を修めた。私の人生の大半を、宗教とは反対側の世界の科学を学び実践してきた。
そのせいもあってか、非常に論理的で理論武装して自分を主張する。相手の矛盾などを見抜き指摘して、議論すらさせなかった。一方的、一方通行のコミュニケーションをしていた。仕事においても超ロジカルでかつ、超ビジネスライクだった。
そう、西洋思考的な二分法の思考が、私の頭の大半を占めていた。今思い返すと、首を傾げるほど偏り過ぎた考え方を周りに撒き散らしていた。

2015年春、東洋思想に突然ふれてしまった。思い返す度に、東洋思想の出会いは偶然ではなく必然であった。思考や思想そして生き方が、大きく変わった。初めて仏教(正しくは「仏教する」)の話を聴いた帰りの衝撃的な出来事は、今でも忘れない。

当時は、いろいろなジレンマに悩まされていた。ビジネスの世界に居た頃なら、ジレンマの壁があれば間違いなくぶち壊していた。しかし、ソーシャルな世界に移ってからは壊すことができなくなり(もどかしくなったこともある)、ジレンマの壁をどう越えるかで悩むようになっていた。
話を聴いていた時のジレンマの壁は分厚く、高くあった。壁も一つだけではなく、いくつもあった。周りは壁だらけで、身動きもできなくなっていた。帰りの夜行バスでふと目が覚めると、突然霧がすっと晴れ、ある言葉が目の前に顕れてきた。

「壁を越えるかどうかでなく、ジレンマの間を行き来すればいい。」

今まで考えもしなかった言葉の “行き来する” が、顕れた。壊すでも、乗り越えるでもなく、行き来する。息を吐いて、呼吸していることを感じることができた。

その日を境に、今までの偏った状態や拘りに囚われることなく、ジレンマから解放された。何かが変わったという訳ではない。「相反する二つの考えを持ちながら行き来できる思考」を持つことができるようになった。西洋思考と東洋思想の両方の特性を持つことができた。
宙ぶらりんのようだけど、何かに縛られることがなくなり、自由を手に入れた感覚で、何か居心地のいい感覚になった。

その日から半年後に知人と話していた時、「中性性が強くなったね」と言われた。今当時のことを振り返ると、文化人類学の最後にふれたカギの「行き来する」を手に入れたようだ。私は変わったのではなく、進化を遂げた。

話を東洋思想に戻そう。東洋思想をもとにした日本的思考について書かれた本の中で、思考や思想に共感する人たちの本をいろいろ読んでいった。その一冊が何度も登場する『中空構造日本の深層』(河合隼雄著)で、次のように書かれている。

西洋的な弁証法の論理においては、直線的な発展のモデルが考えられるのに対して、日本の中空巡回形式においては、正と反との巡回を通じて、中心の空性を体得するような円環的な論理構造になっていると考えられる。
( P47より )
日本の中空均衡型モデルでは、相対立するものや矛盾するものを敢えて排除せず、共存し得る可能性をもつのである。
( P61より )

本にある “円環的な論理構造” に近い(似ている)考え方に、聞きなれない “楕円思考” がある。ある本を読まなければ知ることがなかった考え方。ある本とは、『楕円思考で考える経営の哲学』。

楕円思考は、元・花王会長の常盤文克氏が経営の実践を通して生まれた思考で、造語である。円と楕円の違いなど興味深い話も多くあり、中でも参考になった文章をいくつか紹介したい。特に二つ目の文章は、意味とは何かで紹介した河合の文章と非常に似ている。

円(正円)との違いは、円は中心点が一つであるのに対し、楕円は定点(焦点)を二つもっていることだ。この楕円のように、つねに二つの軸、焦点、見方からものごとを考えようとするのが、「楕円思考」である。
( P16より )
楕円思考とは、対極にあるものを否定するのではなく、自極と他極を包含して新しいものを生み出す思考法なのである。
( P47より )

東洋思想に関する本から、「対立を和らげ、つなぎ直す」という発想を手に入れることができた。この発想については、『出現する未来から導く』(C・オットー・シャーマー他著)でも次のように書かれている。

西洋の思考は歴史を直線的なプロセスと考える傾向があるが、東洋の視点はより循環的だ。どちらのメタ視点にも強みと盲点がある。両者を組み合わせれば、らせんまたはU字に近い形になる。
( P110より )

円や楕円は始点と終点がつながり、一本の線を繰り返しぐるぐる回り続けているイメージになってしまう。ここに自然・生物・思考的視点を加えることで、進化し続けるイメージに螺旋が浮かんだ。螺旋の渦の中心には、“意味” がある。

意味を中心に進化し続けて生き残る、これが私の考える「意味づくりのデザイン」となる。三つの視点から、三つの方法を得ることができた。

( 三つの方法 )
● 文化人類学    対立の和らげ方  大きな文脈から意味を探す
● 自然・生物・進化 社会の生き残り方 変化に適応する
● 東洋思想     未来への歩き方  行き来する

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