欲しがりスケッチ

スケッチを描いている時が幸せな訳ではない。

ノートと鉛筆を持って必死になって描いていると、周りの人は何故か毎回聞いてくるんだ。

「何を描いているの？」と。

その度に答えるんだ、「目の前にあるものを描いている。」と。

スケッチだから当然なのに。

最後に言われるのは「楽しそう。」の一言。

楽しい訳ないだろう。

運動も、勉強もできない自分の唯一の取り柄が「見たものを写す」だけなんて。

自分にはそれしかない、出来ないからやってるだけ。

毎回同じことをして変だと思われても、それ以上器用になるなんて僕には荷が重いのだ。

スケッチ以外をしても、親も友人も褒めてくれない。

だからスケッチ以外を頑張るなんて何も得しない。

口を揃えて皆、「結果が全てではない。」と主張する。

そのくせ失敗をすればするほど、彼らは嫌な視線を向けてくる。

でもスケッチだけは、これだけは馬鹿にされない。

だからやる、身を守る為に。

スケッチは僕に鎧をくれる。

完璧に写せば写すほど頑丈な鎧だ。

でも、出来上がったスケッチを見るたびに鎧なんて意味がなくなってしまう。

美しい彫刻、幸せそうな家族、目を引く景色。

写してきたものの全てが、僕のスケッチを上回るほど素敵なのだ。

僕は自分のスケッチの意味を誰よりも理解している。

「写す事しか出来なかった。」ものは、僕にとっての欲しいものだから。