左剣腕ヒュゼロ

【この物語は、ジコマンキングがまだ若かった時、ほんの少しだけ頭の中で描いた物語。】


地と鉄の香りが常に漂う世界。それは長きにわたる戦の日々を語る。ある者は死に絶え、ある者は悲しみにまみれ、ある者は恨み、そして絶えず歴史を繰り返す。そして何かを失っても戦いから逃れられない者もいた。五体満足でいられぬ負傷兵たちに与えられたのは手足の代わりになる武器であった。体に直接武器を埋め込む事により、己の一部として自在に操り常人以上の威力を発揮する。人はそれを「改造人間」と呼んだ。


改人歴008年。長きにわたる大国同士の戦争は和平という形で一時の平穏を得る。だが、長い戦争により膨大なる武器流通を止める事は出来なかった。武器の流通により武装勢力が台頭、各地で犯罪が横行する。疲弊しきった官軍ではまともに太刀打ち出来ず、武装勢力に怯える民衆はそれを狩る「賞金稼ぎ」達にすがるしかなかった。

とある空、武装勢力「鳥賊」が貴族達が多く乗る飛行船を奪取した所から物語は始まる。鳥賊はいわゆる空賊であり、飛行船を襲っては手当たり次第金品を強奪していく武装勢力である。荒くれ者達の集まりで、鳥の頭を模したマスクを被っている。筋骨隆々の男達が武器を持ち、逆らうものを切り伏せる。飛行船が血と暴力で染まる中、とある少女が片足を持ち上げられ鳥賊に捕えられる。体は小さく、髪は茶色い短髪、そしてそばかすが印象的な少女。服はボロで貴族でないのは一目瞭然である。そんな彼女は鳥賊の何人かに銃を突きつけられていた。

「離してよ!痛いじゃない!」

「元気なお嬢ちゃんだこと。助けて欲しけりゃ金だしな。金貨の10枚でも出せたら特別に見逃してやるよ!」

「私が持ってる訳ないでしょ!私物凄く貧乏なんだから!」

鳥賊達は少しばかり冷や汗をかく。

「こ、ここまで貧乏を主張できるガキも珍しいな。ちょうどいいや、お前を黙らせるショーを思いついたぜ。」

少女は鳥賊に押さえつけられ、飛行船内部にある大広間に集められた人質の貴族達の前に出される。大広間では襲撃の前までパーティが開かれており、食器や食べ物が散乱していた。

「おい金持ちども!まだ金を持ってるやつは前にでろ!でないとこのガキの眉間に鉛玉をぶち込むぞ!」

鳥賊達の言葉に貴族は悩むが誰一人お金を出す者はいなかった。

「面白い結果が出たなお嬢ちゃん。お前を助けてくれる奴は誰もいないってさ!見た目からして、大方食い物を漁りに来た盗人だと思っていたが間違いではなかったみたいだな。大多数が望んだ事だ、悪く思うなや。」

「嫌だ!死にたくない!誰か助けて!」

少女の悲痛な叫びに誰も耳を傾けず、目を背ける。しかし、その向こう側の扉が急に開く。扉を開けて来たのは若い男だ。ボサボサの金髪に少し低身長。少年のような顔立ちにやる気のない眼差し。鎧を着てその上にマントを羽織っている。若い男が開口一番に発したのはこの言葉だった。

「このパン、作った人誰?」

男は口をもぐもぐさせながら貴族達に近づいていく。

「さっき歩いてたらパン落ちてたのよ。それ拾って食べたら美味いのなんのって。バターが違うのかな。あれ、シェフの人いないの?」

鳥賊の大男が男に近づき銃を向ける。

「おいクソガキ。テメェも盗人か?大人しくうちに帰るん、、、。」

鳥賊の大男が銃を向けていたはずだった。しかしその銃を持っていた腕はすでに地面に落ちていた。

「ない!俺の、俺の腕ぇ!」

「あ、ごめん。武器向けられるとついやっちゃうんだよね。えっとー、鳥賊の人って多分あんた達で大丈夫だよね。嫌だよ、違う人の腕切り落としたとか、、、。」

その時、少女は釘付けになっていた。男の左腕、肘から上の腕が一本の剣なのだ。真紅色に輝きほんの少し血が滴っている。貴族達もそれを見てつぶやく。「左剣腕ヒュゼロが来た」と。だが、それを見て鳥賊達は武器を持ちヒュゼロに襲いかかる。ヒュゼロは攻撃を難なくかわし、鳥賊を順番に自慢の左腕で切り倒していく。いつの間にか少女を抑えるものもいなくなり、やがて鳥賊は全員ヒュゼロの刃によって生き絶える。おぞましい光景だが貴族達は歓喜した、自分たちの無事が全て保証されたかのようだった。だが、少女は自分の無事よりもヒュゼロに目がいった。その日暮らしをする為いつも盗みをして来た、その分綺麗なものから汚い世界まで見てきたつもりだった。ヒュゼロを見てからはそんなもの小さい出来事に過ぎなかったのではないかと少女は疑問に思った。その時、鎧を着て槍を持った兵達がやってくる。

「ジルドル帝国正規軍である!鳥賊の襲撃があったとの一報により、皆様を救出に、、、。」

正規軍が見たのは切り倒された鳥賊達の姿。そして大広間に置いてあったローストビーフの塊を左手の剣で突き刺して頬張るヒュゼロの姿があった。正規軍の1人が近づきヒュゼロに話しかける。兜を被り、眼鏡をかけた中年の男だ。

「ヒュゼロ殿!またひとりで事件を解決なされたのか!?」

「まぁな。お目当てはいなかったけど。それよりチュイズ、お前も食うか?」

「いりません血まみれの刀で突き刺した肉など!どうして我々が事件の報をもらうたび、死体とあなたがいるんでしょうね!」

「お前らが遅いだけじゃねぇの?」

「あんたが昔っから早すぎるの!」

「まぁいいや。今回はターゲットがいなかったという事でお前らの手柄にしとけよ。俺はこの肉もらうだけでいいや。」

「はいはいわかりましたよ。どうします?我々の飛行船でお送り、て、ヒュゼロ殿?そっちは外への扉ですよ。おーい。」

ヒュゼロは外への扉を開けて1人外へ飛び出していった。

「あの人はもう、、、。改造人間とはいえ毎回無茶を楽しむんだから。」


ヒュゼロは重力に身を任せ高速で落ちていく。そしてそのまま鎧にある紐を引っ張りパラシュートを広げる。ヒュゼロはやがて町外れの平地に落ち着地する。そしてパラシュートに埋もれてしばらく出るのに苦労した。結局パラシュートを左手の剣で切り裂き脱出する。

「もうパラシュートは使わん。最後がかっこよくない。リリカに飛行用の道具でも作ってもらうか。ん?」

ヒュゼロが着地したその横で小さな飛行船が不時着する。ヒュゼロは慌てて落ちた場所に向かうと、黒い煙の上がった飛行船からそばかす顔の少女が出てきた。顔を暗くし笑顔でヒュゼロに話しかける。

「見つけた!師匠!」

「すみません、弟子は受け付けておりません。さようなら。」

ヒュゼロは足早に去ろうとするが、少女は後ろから追いかけてくる。

「待って師匠!私ミリィっていうの!お金が大好き!」

ヒュゼロは背を向けたまま話す。

「俺の名はフルスギジジ太郎です。なんの変哲もないただの一般人です。話しかけないでください。」

「一般人じゃないでしょ!左剣腕ヒュゼロ、ジルドル帝国で1番の賞金稼ぎ!どんな武装勢力もたったひとりで蹴散らす改造人間!今までに倒した勢力は28!ついたあだ名は紅の殺人鬼!」

「おい待て、俺そんな名前で呼ばれてるの?、、、あ。」

ヒュゼロ、誘導尋問にかかる。ヒュゼロは再び背を向け歩き出す。

「ごめん、殺人鬼の件は嘘。でもやっぱり本人じゃん!ねぇねぇ!私に賞金稼ぎのお仕事教えてよ!お金一杯稼ぎたいの!」

「じゃあ内臓でも売れ。」

「ちょっと!レディに対して失礼じゃない!」

「黙れチビガキ。」

「もう14ですー!チビガキじゃありませーん!」

ヒュゼロはうるさいと思いながらもひたすらミリィに背を向け街に歩いていく。

ジルドル帝国の商業都市ボルド。錆臭い街で荒くれ者達の溜まり場でもある。立ち並ぶ店は工業製品の店ばかり、中には武器屋もある。そして街の端っこにあるボロボロの武器屋にヒュゼロとミリィは入っていく。

「お前そろそろうちに帰ったら?」

「いやでーす!賞金稼ぎ手伝わせて!あわよくば報酬も山分けで!」

「もう少し良識を持てチビ。」

「あんたもチビじゃん。」

ヒュゼロは右手でミリィの耳を引っ張る。すると店の奥から背の高い眼鏡をかけた赤髪の女が現れた。

「ヒュゼロ〜、女の子をいじめちゃダメでしょー。」

「リリカ、こいつなんとかしてくれ。ずっとついて来るんだよ。賞金稼ぎにしてくれってさ。」

「へぇー、時代も変わったわねー。お嬢ちゃん、カレーでも食べてく?」

「わーい!カレーだぁ!」


武器屋は民家と併設されており、キッチンで3人はカレーを食べる。

「へぇー、剣を使って食べないんだね。」

「黙って食えガキ。」

「こらヒュゼロ!ところでミリィちゃんはどうしてお金持ちになりたいの?」

「え、あ、うん!お金持ちになったらご飯お腹一杯食べれるでしょ!綺麗な洋服も着れるし、毎日が幸せになると思うの!」

ヒュゼロは皿に盛られたカレーを食べ尽くし、爪楊枝を咥える。

「金で幸せか。お子ちゃまは単純でいいねぇ。」

「馬鹿にしちゃダメでしょヒュゼロ。でもねミリィちゃん、賞金稼ぎの仕事は老若男女誰でも出来るけど誰でも稼げる訳じゃないの。」

「じゃあヒュゼロの付けてる武器みたいなの作ってよ!私も改造人間になって鳥賊達みたいな悪者を倒してお金を稼ぐの!」

ヒュゼロは左腕の剣をミリィに突きつける。

「お前、調子に乗りすぎだ。もう帰れ、二度と来るな。」

ミリィはヒュゼロのあまりの剣幕に涙し走って帰っていく。

「ヒュゼロ、止め方がなって無いわよ!」

「いいさ。これくらいで泣くようなら、賞金稼ぎにも、改造人間にもなら無い方が幸せだ。貧乏の方がマシだろ。」

「あの子は多分スラムの子よ。もう少し気持ちを考えてあげてよ。」

「今度からな。」

ヒュゼロはニヤニヤしながらそう答える。リリカは不貞腐れた表情でカレーの皿をさげた。


翌日、ヒュゼロは武器屋の前で歯を磨き日光を浴びていた。

「朝って素晴らしい。」

歯を磨き、口をゆすいでいると、ミリィが笑顔でひょっこりと現れる。

「ヒュゼロさーん!あ、そ、ぼー!」 

「お前、また来たのか?」

するとミリィはお辞儀する。

「昨日はごめんなさい。改造人間の事、気にしてるよね。元々、手足の無くなった軍人をもう一度戦わせる為の処置なんだもんね、、、。」

「ほぉ、勉強してきたかクソガキ。」

「でもね、改造人間に憧れを抱く人もいるの。ヒュゼロが良ければなんだけど、今日スラムの子達と遊んであげてくれないかな。皆んなヒュゼロの活躍を知ってるの!お願い!ヒュゼロと会うのはこれで最後にするから!」

ヒュゼロは頭を抱える。

「わかった!わかったよ!昨日、俺も言い過ぎたからよ。ガキ共に剣の一本でも見せればいいんだろ?」

ミリィは笑顔でありがとうと言い、すぐさまヒュゼロをスラムに連れて行く。


スラム街に足を踏み入れた2人だが様子が変だ。誰もいないのだ。するとヒュゼロは足を止め地面の匂いを嗅ぐ。

「血の匂い。掃除されてるけど新しい。ミリィ、お前。」

するとミリィは拳銃を取り出しヒュゼロに向ける。

「ごめんね〜!騙しちゃったぁ!」

スラム街の陰という陰から、鳥賊達が武器を持って現れる。そして奥から大男が1人現れる。拳は大きく、孔雀の面を被り、背中にも孔雀の羽の様な装飾が施されており煌びやかな鎧に包まれている。

「お前がヒュゼロか。はじめましてだろうが、貴様は俺の顔くらいわかるだろう。」

「バードニアン、鳥賊のリーダー。賞金800万デルだったか?」

「やはりわかるか小僧。うちのメンバーが度々貴様にやられているらしいからな。俺様自ら現れてやったのさ。このガキが情報を持っていると申し出て来た時には驚いたぜ。スラムのガキにしちゃあ中々の情報通だ。ここまでの人材中々いないぜ。恨むならこのガキよりも、ガキをぞんざいに扱った自分を恨むんだな。」

ヒュゼロは身構える。

「おっと待て、俺を攻撃しようものなら、こいつの命はないぞ。」

鳥賊の1人がナイフをミリィに突きつける。ミリィも予想外だったのか体を震わせている。

「え!?なんで!?」

「おい!仲間にナイフ向けるなんてどうかしてんじゃないのか!?」

「別に、俺様がどう扱おうと自由だろ。逆に、貴様の仲間という訳でもなかろう。選べ、このガキの首が落ちてでも俺様とやり合うか、潔く降参しリンチされるか、、、。」

ヒュゼロは身構えるのをやめ両手をあげる。

「好きにしろよ。」

「いい心がけだ。やれ。」

鳥賊達はヒュゼロを一斉に殴りつける。だが、ヒュゼロは抵抗する事なく攻撃を受け続ける。

「ギャハハハハ!帝国最強の賞金稼ぎが手も足も出ないとはな。おい、ガキにナイフを向けるのをやめてやれ。」

「ちょっと!レディにナイフを向けるなんてどういうつもりよ!」

「ギャハハハハ!悪い悪い、ヒュゼロを倒す為の演技だよ。安心しろ、お前にはたんまりと報酬を出してやる。金持ちになって幸せになりたいんだろ?俺様にもらった金で、スラムの友達に好きなだけ食わせてやるといい。おいお前ら、殴るのをやめてやれ。」

鳥賊達はヒュゼロを殴るのをやめて下がる。ヒュゼロの体はボロボロで地面に横たわっていた。

「安心しろ、命だけは助けてやる。その代わり、2度と鳥賊に手を出すな。撤収だ、ミリィちゃんに報酬をあげなきゃな。」

鳥賊達がヒュゼロに背を向け帰ろうとしたその時、ミリィはヒュゼロに駆け寄る。

「ごめんねヒュゼロ〜。生きてく為にはこうするしか無いのよ。」 

ヒュゼロはゆっくりと口を開く。

「お前、自分にナイフ向ける奴ら信じて幸せなのかよ。」

ミリィは下唇を噛み、ヒュゼロの顔を蹴り上げる。

「アンタに何がわかるのよ!」

そう言ってミリィは鳥賊達について行く。そして鳥賊達が消え去った後、ヒュゼロはすっと立ち上がり服の埃を払う。表情は怒っているとか、悲しんでいるとかそんなものはなかった。ただちょっとだけ痛かった、その程度の感情である。

「あのクソガキ、次に会ったら鼻にタバスコでもかけてやる。」

その時、正規軍が武器を持って駆けつける。そこにはチュイズの姿もあった。

「ヒュゼロ殿!またですか!鳥賊が出入りしていると情報があって駆けつけたのですが、、、。」

「やっぱりギリギリ遅いなお前ら。鳥賊とリーダーのバードニアンはもう逃げたぜ。」

「逃げた?あなたから?ご冗談を、、、。」

ヒュゼロは剣をチュイズに向ける。

「ごめんなさいごめんなさい!発言には気をつけます!」

「チュイズ、頼みがある。」

ヒュゼロはチュイズに耳打ちをする。

「え?あ、はい、またですか。あなたがそういうなら。いいんですか?また多くの賞金首を相手にするという事ですよ?」

「別にいいよ。どうせこれ以外大した使い道ないし。」

そういってヒュゼロは一度武器屋へ戻って行く。


スラム街にある広場でバードニアンがミリィに報酬を手渡す。

「ほれ、約束の100万デルだ。どうだ、太っ腹だろ俺様は。」

「やったぁ!ありがとう!これで食べ物が買える!」

バードニアンはミリィが札束を数えるのを見てニコニコしていた。

「そうだな。それさえ有れば美味い飯に甘いケーキでも何でも買えるだろうよ。だがな、他にも色んなものを買えるんだ。どうだ、俺から買い物をしないから?」

「え?鳥賊も何か商売してるの?」

ミリィがそう聞くと鳥賊達は巨大な牢を持ってくる。中には多くの子供達が捕らえられていた。

「ミリィお姉ちゃん〜!うわーん、、、!」

「皆んな!どうして!」

「ここに来てたくさんいたから俺様がもらってたのさ。痩せ細ったガキなんざ大した額じゃ売れないからな、特別に1人10万で売ってやってもいいぜ。」

「アンタたち!もしかして最初から、、、!」

「おっと勘違いされちゃ困る。あくまでこちらの商売だ、お前には報酬をちゃんと渡しただろ。その金を何に使おうと勝手だし、俺たちがどの様な活動をしてても問題はない訳だ。ギャハハハハ!」

ミリィはプルプルと体を震わせて、札束をバードニアンに渡す。

「まず、10人分、、、。お願いだから出してあげて、、、。」

「んんんー?いいのかー?牢には11人のガキがいるぜ。1人頭足りないが?どうせならコンプリートした方がいいんじゃあないか?」

「でも、貯金をかき集めても、これ以上は、、、。」

「馬鹿だなお前、金以外で払えばいいだろ。指の爪、1枚1万デルでどうだ?」

ミリィは躊躇するが、ゆっくりと両手を差し出す。

「爪、お金になるんだよね?」

「ああ。じゃあ大人しくしてろよ。」

その後、スラム街に少女の叫びが何度も響き渡った。ミリィの指からは血が流れ、大粒の涙をこぼしていた。

「痛い、痛いよぉ、、、。でも、これで全員、、、。」

その時、鳥賊がまた別の牢を持ってきた。中にはまた10数名の子供達が捕らえられていた。

「え、そんな、、、。」 

「おっと、俺様とした事がうっかりしていた。どうだミリィお姉ちゃん、他にも色んな商品を用意してたんだ。こいつらも、1人10万で売ってやろう。おっと、またうっかりしてたぜ、懐はもうすっからかんだったなぁ!ギャハハハハ!」

「そんな、、、。」

ミリィは膝から崩れ落ち落胆していた。

「まぁまぁ落ち着けよ。いい方法があるじゃねえか。ヒュゼロのお兄ちゃんに金を借りてくりゃいいのさ。確かまだ生きてたよなぁ?帝国最強の賞金稼ぎだ、たんまり持ってるだろうぜ。いやー、生かしておいて正解だったなぁ!ギャハハハハ、ハハハハ!」

ミリィは急いでヒュゼロを探しに走る。それを見て鳥賊達は大笑いする。


リリカの武器屋では、ヒュゼロが古い無線機を使って情報を仕入れていた。

「アンタって何でそんなオンボロな無線機を使いこなせる訳?てか何で怪我してんの?」

「うるせぇ、鶏に襲撃されたの。」

「何それ?」

その時、ミリィがひょっこりとヒュゼロ達に現れる。ミリィは怪我を隠す為手を後ろに組んでいた。

「ヒュゼロさーん!こんにちはー!」

「何だ?慰謝料でも払いに来たか?」

「えーと、そのね、あのー、、、。」

ヒュゼロがミリィの足元を見るとミリィの後ろ側から血が滴っていた。

「チビガキ、手を見せろ。」

「え?なんで、、、。」

ヒュゼロは武器屋を出てミリィに近づき腕を引っ張ると、彼女の爪は全て剥がれていた。

「ミリィちゃん!ひどい怪我!ヒュゼロ、ミリィちゃんを中に!」

ミリィはその場で土下座する。

「私のことはいい!こんなこと頼むのはお門違いだってわかってる!でもお願いします!お金を貸してください!スラムのみんなが人質にとられたの!お金があればバードニアンからみんなを取り戻せる!さっき騙したのは謝ります!だからお願いします!なんでもします!皆んなを助けてください、、、!」

「ミリィちゃん、、、。」

ヒュゼロは土下座してるミリィを無視して歩いて行く。

「ヒュゼロ!ミリィちゃん置いてどこ行くの!」

「、、、、仕事。」


とある空、鳥賊の大型飛行船が飛んでいた。バードニアン達をはじめ鳥賊達が大騒ぎしていた。だが、片隅に置かれた牢に入った子供達はひどく怯えていた。

「さすがはリーダー!ヒュゼロを倒し奴隷まで手に入れるとは!」

「ギャハハハハ!どうだ、俺様の作戦は完璧だろう!うるさい小娘も追い払えたし、ヒュゼロは大怪我で追ってはこれまい。俺たちは帝国から離れ別格で奴隷どもを高値で売り捌く。悔しがるヒュゼロの表情が目に浮かぶぜ!お前達も覚えておけ!殺しだけが相手に苦痛を与える訳じゃねぇってなぁ!」

「おうとも!リーダーに乾杯だ!」

飛行船が高度をあげ街から離れようとしたその時、飛行船の隣にある塔に誰かが立っていた。飛行船の甲板にいた見張りの鳥賊が双眼鏡でそれを見ると身に覚えのある姿。少年のような顔立ちに怒りのある眼差し。鎧を着てその上にマントを羽織っている。左腕には手の代わりに真紅の刃が付けられていた。

「敵襲だぁ!左剣腕が来たぞぉ!」

ヒュゼロは塔の上からジャンプし飛行船の甲板に飛び移る。そして甲板にいる鳥賊達を一網打尽にして行く。騒ぎを聞きつけ駆けつけたバードニアン達は甲板でヒュゼロと対峙する。

「こいつは予想外だったな。まさかあの怪我で動けるとは。」

「はぁ?ダメージなんてねぇよ。それよりも、スラムのガキどもはどこだ?」

「ほぉ、小娘から聞いてきたか。あいつも相当な馬鹿だな、人を散々騙しておいて金を借りに行くなんて頭がどうかしてるぜ!」

鳥賊は全員笑い始める。

「あのガキに話を持ちかけた時、目を輝かせてたのを覚えてるぜ!そんなうまい話がある訳ねぇのによぉ!お前もお前だヒュゼロ、あんな生きる価値もねぇスラムのガキをかばうなんてなぁ!ギャハハハハ、、、。」

ヒュゼロは剣をバードニアンに向ける。

「お前か、あの子の爪を剥いだのは、、、。」

「ああそうさ!楽しかったぜぇ、一枚一枚剥ぐたびに大声で泣くんだよ!お前にも見せてやりたかったぜぇ、あの盛大な泣き顔をよぉ!」

「それは、十分見させてもらった。体の一部がなくなる悲しみと恐怖、あの子だけに背負わせたりするものか。お前らからも、もらうぞ。」

ヒュゼロの目はいつもの無表情とは違う。最早人ならざる者の目。鳥達は、それを見て恐怖する。その言葉が本当なら、自分たちはどこかを失うのではないかと。だが、1人だけ臆する事なく向き合う男がいた。

「俺の部下どもをあまりビビらせるんじゃねぇよ。いずれにせよ、お前を倒せるのはこの場で俺1人か。お前らは下がってろ、俺様ひとりでこいつをぶちのめす。そうだ、お前に面白いものを見せてやるぜ。」

バードニアンは拳を自ら剥ぐと、ゴム質の皮がめくれ鉄拳が姿を表す。

「どうだ。俺も改造手術を施し鉄拳を付け加えた。装備している鎧も一級品だ、貴様に斬れるか?さっき体の一部をもらうと言ったな、やれるものならやってみなぁ!」

バードニアンは体に見合わぬ素早い動きでヒュゼロを殴ろうとするが、掠りもせず、やがて拳で甲板に穴を開けてしまう。

「すばしっこいな。やるじゃないか。」

ヒュゼロは剣を構える。

「改造手術ねぇ。付けたのがただのおもちゃじゃ俺には勝てないよおっさん。」

「おもちゃ、だとぉ?クロル合金で出来たこの拳がおもちゃだとぉ!?」

「素材言われても分からん。」

「死にさらせ小僧!」

バードニアンはヒュゼロに飛びかかり両手でヒュゼロを持ち上げる。

「捕まえた!握り潰してやる!」

ヒュゼロは掴まれるが、一瞬のうちに抜け出し左腕の剣でバードニアンの右手の指を2本切り落とした。

「痛ぇええ!そんな馬鹿な!クロル合金がぁ!」

「改造人間になったつもりか知らないが、そんなんで俺たちを超えられる訳ねぇだろうが!」

ヒュゼロは飛び上がり、バードニアンの顔を蹴り上げる。そしてそのまま落ちながら鎧を切り裂いていく。ヒュゼロが着地した頃には鎧はゆっくりと破片となり地面へ落ちて行く。バードニアンは再び殴りかかるが、ヒュゼロは今度はバードニアンの足の指を切る。バードニアンは体勢を崩し地面に転がる。

「馬鹿な、この俺が。」

「どうだ、失う苦しみがわかったか?」

その時、鳥賊たちは武器を持ちヒュゼロに襲いかかろうとした。しかし、その時正規軍の飛行船が鳥賊達を包囲した。チュイズをはじめ正規軍の兵達が甲板に突入する。

「ご無事ですかヒュゼロ殿!」

「おうチュイズ!今回はまぁまぁのタイミングじゃないか?ちょうど今、、、。」

「まだだぁ!!左剣腕んんん!!」

バードニアンはヒュゼロの後ろから飛びかかるが、ヒュゼロは体を翻し華麗に舞い、バードニアンの両拳を切り落とす。拳はゴロリと甲板に転がり、バードニアンは今度こそ倒れる。

「今ちょうど、鳥野郎を倒す所だったんだ。」

チュイズはため息をつきながら号令する。

「鳥賊及び総大将バードニアン!強盗殺人の容疑で貴様らを逮捕する!」



バードニアン達鳥賊が討伐され、スラム街に子供達も戻った。しかしミリィはまだ気に病んでいた。子供達にご飯を食べさせる為とはいえ赤の他人を巻き込んだからだ。落ち込んでいるミリィの前に、正規軍のトラックがやってくる。テントを張ったかと思えばなんと炊き出しを始めた。兵士の1人が前に出てカレーを子供たちに振る舞う。

「さぁ子供たち!カレーの配給だよ!肉も野菜もたっぷりだ!おかわりもあるからたんとお食べ!」

子供たちは配給に駆け寄り皆美味しそうにカレーを食べる。ミリィは正規軍の兵に話しかける。

「あの!ここは配給指定地域じゃなかったはずなのに、、、!」

「いやいや、今日から指定される事になったんだよ。」

「でも、軍の予算が足りないから何度も却下されたはずなのに、、、。」

「とある賞金稼ぎがかなりの額を出してくれたみたいなんだ。ま、俺たちは誰か知ってるけどね。あの人は凄いよ、稼いだ金は人の為に使う優しい人さ。お嬢ちゃん、君も食べるかい?」

「ううん。私用事があるから!」

ミリィはスラム街を離れてリリカの武器屋に走る。そこではサンドイッチを食べてるリリカとヒュゼロがいた。

「何だチビガキ。飯なら配給のカレーでも食べてこいよ。」

ミリィは息を切らしながら礼を言う。

「ありがとうございます!私たちを助けてくれて!」

「ん?ああ。別に、金の使い道がそれしかないだけさ。それよりも、お前何か忘れてないか?」

「そうだ、、、。えっと、なんでもするって約束だったよね。でも、お金は持ってないから、、、。」

「じゃあ体で払ってもらおうか?」

「こらヒュゼロ!!」

ヒュゼロはミリィに近づき方をポンと叩く。

「一人前の賞金稼ぎになるまで、俺の助手な。それとも貴族相手に盗人やるか?」

ミリィは少し泣いたがすぐに笑顔で答える。

「私、賞金稼ぎになる!強くなって、今度は私が皆んなを守るの!」

ヒュゼロは少し笑った表情でミリィにホウキを手渡す。

「じゃあ、店の掃除、よろしく。」


左剣腕ヒュゼロ 完



あとがき

いつもnoteをご覧いただきありがとうございます。誰かの「好き」を創るクリエイターのジコマンキングでございます。今回の作品はジコマンキングがまだ若い頃にふと考えた作品になります。昔ならもうそれ以上生まれる事のない妄想の一つに過ぎませんでしたが、新たな可能性を生む為作品として世に出してみました。こうやって一度は諦めたアイデアなんかを今後は出していけたらと思います。最後になりますが、左剣腕ヒュゼロを読んでいただきありがとうございました。また機会がございましたら続編を書いてみようと思いますのでその時はぜひご覧ください。

ジコマンキングより



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