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エッセイ:大ちゃんは○○である63

「もしもし、求人を見てお電話したんですが、
まだ募集はしていますでしょうか?」
先ほどの落胆を払拭するかのように再びハツラツとした声を出した。
「はい、していますよ。面接をご希望ですよね?
現在何か資格はお持ちになっていらっしゃいますか?」
「……いえ、資格は持っていないんですが。
あの、無資格でも大丈夫なんですよね?」
嫌な予感がしたので、僕にとっては最も重要視する部分を聞いてみた。
「大丈夫……なんですけど。有資格者の方からのお電話も多くありますので、
面接をさせて頂いたとしてもそちらを優先させて頂く可能性は高いと思いますが。」
まただ…これが現実なのか?
介護業界は人材不足だ。人手が足りていないとあれだけニュースで言っていたのに。
「そうですか…じゃあ結構です。失礼いたします。」
電話を机に置き、僕はため息を一つついた。
ピックアップした求人はまだ三件残っている。
もちろん、どれも『無資格OK』と謳っている求人だ。
しかし…電話をかけるのがためらわれてきた。
自分が採用する側の立場だったらどうだろうか?
無資格者からの応募と有資格者からの応募があったら?
やはり後者を選んでしまうだろうか?
自問自答を繰り返すも、ぐるぐるぐるぐると頭の中を問いかけが回るばかりで答えが出ない。
今度ばかりは、さすがに拭いきれない落胆を引きずりながらかけた残りの三件も、
結局は担当者から似たり寄ったりの断りの文句を立て続けに頂戴するという結果に終わった。
僕は煙草に火をつけ、紫煙を吐き出しながら窓の外を見た。
カラスの鳴き声がする。
コーヒーを一口啜ったが、熱々だったコーヒーはもうすでに冷めてしまっていた。

つづく

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