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note #6.5〈顔も名前も知らない父親へ〉

私を覚えていますか?
私の名前を知っていますか?
私が生まれた日を想像したことはありますか?

私は、あなたの顔も名前も知りません。
知っていることと言えば
私と母はあなたに見捨てられたということくらいです。
母と母の家族が信仰していた宗教に
あなたの家族が大反対し、
あなたと母との結婚は許されなかったと聞かされました。
今となっては、その話の何割が真実を伝えてくれていたのか
知る術はありません。

私を独りで育てると決めた母は56時間かけて私を産んだそうです。
当時は誰も付き添うことを許されず
分娩台でただ一人、初めて味わう痛みと闘ったそうです。
独り身で出産した母と、生まれながらに父を知らない私は
何処に行っても“普通”になることができませんでした。

私はあなたを恨みました。
あなたの家族も宗教も何もかも
「全て消えて無くなってしまえ!」とずっと思っていました。
そして苦しんだであろう母は私を虐げるようになりました。
殴る蹴るは勿論、私の成長に合わせて次第に言葉で縛り付けていきました。

オマエナンカウマレテコナケレバヨカッタ

それは母の本心だったかもしれません。
苦しみに耐えきれず、思わず溢れた言葉かもしれません。
いずれにしてもその言葉は

ワタシナンカウマレテコナケレバヨカッタ

へと姿を変えてゆきました。

悲しかったです。
とても耐えられませんでした。
そして「この世界から消えてしまいたい。」と
呪文のように毎日唱えていました。
私だって普通になりたい。
私らしく生きたい。
それなのに醜い感情が私を支配するのです。
私が望むのとは正反対の方向へ
無差別に憎しみをばら撒いたりもしました。

けれどそんなことをしても
何も解決しませんでした。
あなたを探し出して、一発ぶん殴ってやろうと考えたこともあります。
私が抱える闇を投げつけてやろう、と。
考えるだけ考えて、結局やめました。
何でだかわかりますか?
そんなことをしていても、私がなりたい私にはなれないと知ったからです。

私がなりたい私を、あなたが知ることはないのでしょう。
知りたいと思うことすらないのだろうと想像できます。
でも、私の中には確かにあなたの血が流れている。
私を見捨てた父親の血が。
その事実は、それはそれは長いこと私を苦しめました。
そして今日、その苦しみに漸く終止符を打つことができました。

「あなたが私たちを見捨てたことは、過去の分岐点の一つに過ぎない。」

トラウマ治療のワークの中で私が自ら見つけ出した答えです。

これからは、私を必要とする誰かの為に生きてゆきます。
誰かの心に燈を灯す為に、この命の全てを懸けて前へ進み続けます。

母のお腹に私の命が宿った日。
家族に大反対された時。
「今何処で何をしているだろう?」とふと思ったかもしれない瞬間。
「今日があの子の誕生日かな?」と
独りケーキに蝋燭を立てたかもしれない想像の誕生日。

いくらでも考え直す機会はあっただろうに
あなたはそれをしなかった。
だけど、そのお陰で“今の私”がいます。
そのことだけは唯一あなたに感謝しています。
私と母を見捨ててくれてありがとう。
今日より私は、あなたが見捨てた未来ごと愛して生きてゆこうと思います。
“今の私”ならそれができる気がしています。
私を信じてくれる人たちがいるから。
愛してくれる家族がいるから。
私の中の私たちがいつでも待っててくれるから。
だから私は大丈夫。

それから…、あぁ
私はこの言葉をあなたに一番伝えたかった。
顔も名前も知らない、血の繋がった父親へ。



「さようなら。」

“あなたの娘になるはずだった私”より

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