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#9 言葉の訛りは、刻印された故郷

(784字・この記事を読む所要時間:約2分 ※1分あたり400字で計算)

 家の近所に、中国料理店がある。
 前からずっと気になっていたがなかなか時間が作れず、今日、ようやく足を運ぶ。

 いざ、入店。

 ガラガラと自動ドアが開くと同時に、中国人の店主が、「いらっしゃ~い」と明るい笑顔で迎えてくれた。

 中国語で話しかける。「おお!」と店主が喜ぶ。
 自然と中国語で会話が進み始める。


 焼きビーフンを一つ頼むよ、テイクアウトで

 ごめん、ビーフンは切れちまったんだ、焼きそばならあるよ

 じゃあ、それ


 中国語は日本のような敬語は無い。
 そのせいか、初対面でも気楽にあれこれと話せる。中国人の対人距離が近いのもそのせいかもしれない。


 近所かい?

 スーパーの隣だ、すぐそこだよ

 そうかい。うちは元々東京の料理店で働いてたんだけどよ


 料理を待っている間、お店も忙しくなかったのでひたすら店主とおしゃべり。
 どうやら店主は元々東京の中華料理屋でバイトしていたらしい。


 へぇ、今のこれはご自分の店なんですかい?

 独立したのさ

 大したもんだ


 他愛のない会話が続く。
 そういえば、もうすぐ2月だ。


 今年はあんたも帰れそうに無いのかい?

 ああ、何だか寂しくなっちまうよ……


 と、その時。


 あんた、ひょっとして福建省の者かい?

 え、まさに

 やっぱりな、聞いててすぐに分かったよ


 驚いた。
 そうかそうか、標準語を話そうと意識していたとしても、これはやはり染み出るものなのだと、しみじみ感じた。


 言葉の訛り。

 それは、刻印された故郷。
 身体に宿る、郷土の欠片

 あの山に囲まれ、あの水を飲んで育ったという、隠すことの出来ない証。

 土地が人を育てる。
 人が土地を携え、世界を漂う。


 旧正月も店をやるんですかい?

 ああ、日本のカレンダーに合わせてるのさ

 そうかいそうかい……

 仕方ないしな、ほら、出来たよ


 店主の手から、懐かしい香りがした焼きそばが渡される。

 ああ……なんて暖かい……


 そうだ、今年の旧正月は此処に来よう。

 私の思い出を分かってくれた、この店の元に。


📚貴方は、どこから来たの?


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