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リアル、プロポーズ24時〜待ちくたびれて〜

プロポーズに夢を持ちすぎと言われても、私は憧れていた。

いつか私にも素敵な彼氏ができて、精一杯心を込めたプロポーズをしてくれる。その日だけはきっとお姫様気分で、一生忘れられない日になるに違いない…。

文章にするとかなり寒いが、少女の頃からぼんやり、そんな風に思っていた。

私はもともと傷つくことを極端に恐れ、チャレンジしないタイプだ。でも、結婚に関してはどれだけ惨敗しても諦められないところがあった。20代はほとんど婚活に費やし、精神的にボロボロになっても出会いを求めた。

限界を感じて婚活をやめた29歳のとき、奇跡的に彼氏ができた。今までの苦労はなんだったのかと思うほど、あっさりと。

彼はとても素敵な人で、今までお付き合いした誰よりも優しかった。自然体でいられるし、話していて温かい気持ちになれる人だ。

付き合うことになったとき、私は彼にはっきりと伝えた。「年齢的に、結婚を前提としたお付き合いしかできない」「できれば交際1年を目処に結婚したい」

男性からしたらドン引きな内容かもしれないが、それは譲れなかった。出産などのことも考えて、30歳までには結婚したかった。彼は少し驚きながらも「俺も結婚考えて付き合ってるよ」と答えてくれた。

安心したのも束の間・・・・・2年が経過した。

付き合って1年経った頃から、私は本当に「男という生き物」が嫌いになっていった。先延ばし、約束を破る、言い訳してのらりくらり、いざとなったら逃げる。

そうやって逃げ惑うくらい男性にとって『結婚』は恐怖。

なぜなら結局、あんなに憧れたプロポーズは、喧嘩真っ只中の最悪な状況で行われたのだから。

事の始まりは、1つの約束。

それは「私が30歳のうちに入籍すること」。先ほど述べたように、もともと私は「1年以内に結婚」を掲げお付き合いしていた。ただ実際、1年経って実現したのは同棲だった。

結婚前に同棲すると、ズルズルしそうで気乗りしなかった。しかし、彼が譲らない。結局一緒に住むことになったが、言い出したわりに彼が部屋を決めなくて大喧嘩になった。

「同棲するなら結婚の時期を決めてほしい」と言ったところ、彼は仕事が落ち着いた半年後を指定した(しかも私の親の前で)。この時点でタイムリミットまで1年だった。

そして半年後、一向にプロポーズはなく、前述した「のらりくらり」が始まった。土日のたびに期待しては何もなし、まるで婚活時代に戻ったような地獄の日々だった。

結婚について真剣に話しても、
「結婚は男にとって簡単に決断できないものなんだよ!」
「どうして年齢にこだわるの?まだ子供を焦る年齢じゃないと思う」
「半年後に仕事が落ち着いてから考えようって意味で言った。言葉の捉え違いだから!」

…と、私には納得しかねる内容のオンパレードで大喧嘩。そんな日々が続いた。

男性の方が読んだら、きっと彼の気持ちが分かるのだろう。
彼は言った。結婚は男にとって責任そのもの。自分で働いて稼いだお金も自由に使えなくなる。子供はいつか欲しいけど、今すぐじゃなくていいと思う。

でも、女性の私にはどうしても無理だった。いつ結婚できるのかわからない状態で暮らしていくのは、耐えがたかった。

なるべく若いうちにウエディングドレスが着たいという憧れ。友達はどんどん結婚して、子供も産んで母になっていく。ネットを開けば『30代から不妊の可能性が上がっていく』。きょうだいを作ってあげたいなら、1人目は早く産んだほうがいい。

そして彼氏彼女という、不安定な関係性。

私はだんだん、彼に不信感が増していった。仮にいつか結婚できたとして、この人は大事な決断があるたびに先延ばしにするのではないか。その度に私や家族は待ちくたびれて、振り回されて、苦しい日々を過ごすのではないか。

この人は結婚に向いていないのではないか。不幸せな結婚をするくらいなら、ずっと独り身の方が幸せなのではないか。

一生独身かもしれないリスクをとっても、別れた方がいいのではないか。

……なんて思っていた矢先、事件は起こった。

地獄のプロポーズ・デスロード

私の31歳の誕生日直前に、彼が友達と旅行に行ってもいいか聞いてきた。

「30歳のうちに入籍する」約束は口酸っぱく伝えてあったし、彼も「それは分かってる」と言っていた。問い詰めても「断りづらいから〜」と気楽な様子だった。そこには、プロポーズの「プ」の字もない。

怒りが最高潮に達した私は、別れを覚悟で

「結婚する気があるなら、明日プロポーズしてくれる?」

と言い放った。
旅行など問答無用で、キャンセルするよう命じた。

ご想像通り、彼は慌てるばかり、私は泣いて怒るばかりの修羅場に。その日は夜中になって、疲れ果てた彼が「じゃあ明日やりますと言ったので一旦休戦した。

翌日、彼は自分が計画していたであろう場所に車を走らせた。長い道のり、高速に乗りながら2人は終始無言。彼が「今日はずっとこんなテンションで行くの?」と聞いてきたが、私は「テンションはゆっくり戻す予定だから待って」としか言えなかった。

約束の期限直前に平気で友達と遊びに行こうとした彼を、許せない気持ちでいっぱいだった。

その後もずっと険悪な雰囲気で、私が怒ったり、彼が怒ったり、そんな繰り返しで目的地近くのサービスエリアに着いた。彼は「プロポーズしろと言ったのに、終始不機嫌でいる意味がわからない…」みたいなことを言っていた。

彼の言うことは間違っていない。でも、ここまで傷つけたのは誰だ。お前だろ?

「もう、どうすればいいかわからん…」と車の中で彼はうなだれて、長い時が過ぎた。私は耐えられなくなり、心の中でこんなことを思った。

もうプロポーズなんて、なくていいや。

「私がしろって言ったけど、そんなに嫌ならプロポーズなんてしなくていい。もう帰ろう」

自分から命令して、旅行をキャンセルさせた挙句のこの勝手。最低だと思った。でも、この状況からプロポーズなんてとても無理だし、こんなに結婚が決まらないのは、やっぱり彼に「結婚を決断できる何か」を与えられなかった私が招いた結果だ…と悟った。

彼は少し黙って、車を走らせた。

ただ、帰るのではなくインターを降りて急カーブだらけの山道へ。終始、最悪な雰囲気のまま山の頂上付近へ登っていく。その道で分かった、彼はこの状況で、どうにかプロポーズしようとしている!恐るべき精神力!

そこは、付き合う前のデートで彼が連れていってくれた展望台。かつて彼が緊張のあまり、私に告白できなかった場所。

お互いに疲れ果て、ボロボロな状態。雨も降ってきて霧だらけ、景色もよく見えなかった。

彼は恐る恐る、指輪を差し出した。

「僕はあなたが好きです。結婚してくれますか」

夢にまで見た感動的なプロポーズ。でも実際は、私は泣きすぎて顔がパンパンだし、最悪なテンションから気持ちを戻せず俯いたままだった。

彼「そうだよねこんな状況でプロポーズしてもね
私「いや、うん、嬉しかったよありがとね(小声)」

彼「とりあえず、これで仲直りでいいですか
私「……はい」

その瞬間、彼は何か重たいものから解放されたかのようにめちゃくちゃはしゃいだ。急にベタベタしてきたり、こっそり持ってきた一眼レフ&三脚で2人の写真を撮ったり、まるでディズニーランドに来た子どものようなはしゃぎっぷり。

対して私は、疲れ果てて終始半目。喜ばないと彼に申し訳ないので薄ら笑い。喜びたいけど感情の乱高下についていけずほぼ無言。

彼はヒャッホウな状態のまま「お腹すいた〜」と言いながら山を降り、ファミレスに寄ってハンバーグを食べ、その日は終わった。

その後、入籍まで急ピッチで予定を組み、私は誕生日前日のギリギリ30で結婚した。結婚はもちろん嬉しかったが、悩んだ期間が長すぎて疲れ果て、婚約期間はほぼ「こなしていく」気持ちだったことに間違いない。

一応、彼に「なぜあんなに結婚が決められなかったのか」聞いてみた。よく考えたら指輪は用意してあり、場所も考えてあったわけだから…。

彼「プロポーズをどうやってやったらいいか、わからなかった」

結婚の決意はできていたが、プロポーズと言うもののハードルが高かった。ロマンチックにやらないといけないと思ったが、何がロマンチックなのか分からないし、照れ臭くて、なかなかできなかった。

……つまり結婚はするつもりで、単純にプロポーズのシチュエーションやセリフがよく分からないから、はぐらかしていただけだったようだ。

1年におよぶ私の心労は、いったい…。

結果オーライとはいえ、私は学んだ。決められない男と結婚したい女は、待ってはいけない。尻に火がつく勢いで叩き続けなければ一生このままだと思うべし。

ちなみに、入籍の翌日にいきなり彼の転勤が決まるというミラクルが起こったため、喜ぶヒマがないまま新婚ホヤホヤ期は終わった。

キラキラしたプロポーズを夢見た私よ、現実はこんなもんだ。でもちゃんと幸せだから、安心してほしい……

大変だけどね。

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