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休職経験と文章力が役立った日。

ある日突然、母が会社に行けなくなった。

何年も同じ会社で働いているが、今までそんな日は1日もなかった。やることがいっぱい溜まっているけど、どうしても行けないらしい。

よくよく話を聞いてみると、母は上司から典型的なパワハラを受けていた。

皆の前で大声で怒鳴る。話しかければ舌打ちか罵声。残業を申請すれば「はぁ?これくらい時間内でできないの?」と罵倒されて以来、恐怖のあまり申請できずほとんどサービス残業。有給を取れば、前日にやるべきことを確認したにも関わらず、休み明け「よくこんな日に休みが取れるね!」とまたキレる。

その上司は母の出勤を待ち構えて怒鳴ることもあるらしい。

パワパラという言葉が、世間にこんなに浸透しても、まだこんな人間がいることに呆れた。やはり、加害者はどこまでも自覚がないようだ。

私はその上司(母より年下の男性)を知っている。モラハラ彼氏と付き合っていた経験上、手にとるように感じる。支配欲の塊・権威好き・裏から手を回して他人を蹴落とすのは朝飯前。自分は一番優秀で、周りはゴミだと思っているゴミ。

自分の学歴が良いこと(大した大学ではない)や学生時代に成績がよかったことなどを当時高校生の小娘に自慢するくらい、ちいさな人間だった。

まぁ、こんなくだらない奴のことは置いておいて。

問題は母だ。ヤバいことをされているのにも関わらず、あまり自覚がない。「今までずっとこうだったから、もう慣れちゃった」そうだ。しかし、そんな母にも心が折れたきっかけはあった。

先日までの数ヶ月、史上最強に忙しかった。もちろん、ゴミは輪をかけて母に当たってくる。なんとか仕上げて、落ち着いたころボーナスを見てみると…

今までになく減額されていた。評価をするのは、もちろんゴミ。

大きなミスをした覚えはないが、この減らされ方は「よほど会社に損害を与えない限りあり得ない」ぐらいのレベル。

母は同じ手法で、仲の良い同僚が退職に追い込まれたのを知っている。今度は自分の番なのでは…と思ったそうだ。絶句とは、まさにこの事。

ドン引きする娘に一言、母はキョトンとした顔で「そんなに引く?」

・・・・。

引くよ。引くとも。

「それってパワハラだよ…」と言ってもピンとこず、とにかく会社に行けないと続ける母。モラハラと同じで、長年やられ続けると人間、麻痺してしまうようだ。

とりあえず上の人に相談するよう勧めた。母は「大げさでは…」と言っていたが、決して大げさではないと私は思う。

次の日も母は会社を休み、休職を視野に入れて心療内科を探した。

その後、傷病手当金制度など母から聞かれたことに幸い、私は全て答えられた。なぜなら人生で2回休職したことがあるから。こんなところで休職経験が役に立つとは…。

また改めて、上の人に今回の件を相談するように勧めた。「毎日怒鳴られて恐怖を感じるので会社に行けない=じゅうぶんな理由」だと諭した。

もちろん、当たり障りのない対応で何もしてくれないなど、残念な結果になってしまう可能性はある。母の申し出がゴミの耳に入り、事態が悪化することだってなくはない。

でも、結果が出たら「もう無理だから辞めよう」など自分の肚も決まる。

そして、心に相談するエネルギーのあるうちに行動しないと、相談したくても動けなくなってしまうかもしれない。それは危ない。

私の後押しもあり、母は勇気を出して上の人に連絡し、時間をもらった。

「わかりやすく話せない。言葉がうまく出てこない」という母に、私はワードでメモを作ることにした。それを見ながら話してもいいし、相手に説明する際の資料にしてもいい。

母から聞いた話を箇条書きにして、ワードに打ち出す作業は本当につらかった。大切な家族が、いちいち怒鳴られたり、舌打ちをされたりして働いている。母は今まで一切愚痴をこぼさなかった。

しんどかっただろうな。どうして気づいてあげられなかったのだろう。

もし私が金融機関を辞めずに働いていたら、母も心置きなく仕事を辞められたかもしれない。私たち家族が、母を苦しめていたのかもしれない。

そう思うと、涙が出てきた。

何とか資料をまとめて母に渡し、「直すところは手書きで修正してね」と伝えて部屋に戻った。そして、しばらくすると母が部屋に入ってきた。

母は泣いていた。

こうやって文章にされると、本当にひどいことをされているよね…ひどいね…

あんなに「パワハラをされている」自覚のなかった母が、堰を切ったように涙を流していた。文章に落とし込まれると事実がくっきり浮かんで、自分がいかに理不尽な目に遭ってきたか理解できたという。

つられて泣きつつ、一方で母に「感情」が戻ったような気がして安心した。

その後、母は私のメモを持参して上の人に相談に行った。メモ通りに話せなかったらしいが、母の顔はすっきりしていた。

上の人からは「しばらく休むこと」「その後は異動」を勧められたらしい。母の仕事は、異動すると全く別の業務になってしまう。

心配する私に「何だか、それでもいいって思えたよ。だってもうあの職場無理だもん」と明るく答える母。私としては怒りのあまりゴミはゴミ箱へ入れたいところだが、母が元気ならゴミは放置でもいいのかもしれない。

ちなみに私のメモは、上の人の「資料として」とても役に立ったらしい。

まさか、自分の文才(?)や休職経験がこんなところで役に立つとは…。人生って本当におもしろい。

「そういえば休職するたびに、自分から人事に相談したり、傷病手当について調べたりしてたよね。自分がなってみると、こんなに心がしんどい時に…そう思うと本当にすごいよね!」

母は笑顔で、私を褒めてくれた。

休職したことをコンプレックスに思っている人や休職中の人にも嬉しい一言ではないだろうか。ということで、この記事を読んでくれたあなたにもお裾分け。

今回のことで、自分の経験がたとえマイナスなものであっても、どこかで生きることを知った。まだまだ趣味レベルだと思っている能力でも、誰かの役に立てることを知った。

何かの本で読んだが、人は誰にでも特別な能力があって、それを発揮すると必ず誰かの役に立てるようにできているらしい。

それはどうやら、本当のようだ。

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