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トラックドライバー怪談12『憑き纏う者(6)』

[6、窓ごしの視線]
※このエピソードは、しづくさんのチャンネルでは話せなかったエピソードです。

ルーン文字の入ったシルバープレートを眺めながら、俺はしばし悩んでいた。
四つのルーン文字が刻まれたシルバープレートは、10年の年月を経て傷だらけになり、酸化してやけに黒ずんでいる。
ここに刻まれたルーンの意味を教えてほしいと、当時、これをくれた人に聞いたら「それは内緒」と笑っていた。

彼女は、面倒見の良い人だった。
その分、嫉妬深い人でもあった。
彼女は今頃どうしてるんだろう・・・?

そんな懐古の念もあるのだが・・・あれから10年も経っているし、もしかしたら彼女も、もう結婚して幸せに暮らしているかもしれない。
なのに・・・なぜ今更、俺のところに来る??
そんなことってあるのか??
あの怪奇現象を引き起こしているのは、彼女の生霊??
考えても考えても答えは出ず、何か釈然としない思いがぐるぐるめぐっていた。
滝口はプロの霊能者ではない、少し感が強い人間だ。
だけど、滝口の言うことも一理あるのはわかる。
なんだか悩んでしまった俺は、たまたま帰省していた妹と、そして、高校生になったばかりの次男にそのキーホルダーを見せてみた。
すると妹は、何やら顔をしかめながらこう言った

「私、そういう感て全然ないからわからないけど・・・・なんか、触りたくないよね」

そして次男はというと、それを見せた瞬間に「やめてよ、それしまって、頭痛くなってきた!」と言うのである。
次男曰く「良いか悪いかわからないけど、強いなんかがある!」だそうだ。
だが、そんな倅の言葉を聞いても、なぜか俺は釈然としなかった。
とりあえず、そのキーホルダーを車のキーから外してパソコンデスクの端っこに置いた。

いつもそばにあったそのキーホルダーを、自分の体から離すようになって二週間ほど経った時のこと。

俺は、いつも一緒に音楽活動をしていた女子高生と、そのお母さんと一緒に、久しぶりに夕食に出かけた。
仮に、女子高生を愛菜(まな)ちゃん、そして、その母親を百合(ゆり)さんとする。
愛菜ちゃんの誕生日があったので、そのお祝いとして、とあるイタリアンレストランで夕飯となった。
久しぶりに会った愛菜ちゃんはずいぶんと大人びて、ちょっとびっくりしたが、素直で知的なところは以前と全然変わってなかった。
三人で食事をしながら色んな話をして、その流れの中で、一連の怪奇現象の話をすると、二人とも震えあがっていた。
母親である百合さんは、俺を心配して

「ZERoさん、それ、お祓い行った方がいいんじゃないの??
なんだか、すごく危ない気がするよ?」

そう言ってくれた。
それに続いて愛菜ちゃんも言うのだ

「なんか・・・すごく良くない気がする・・・ほんと、お祓いしたほうがいいですよ!」

俺は、いつになく真剣な二人の表情を見て、これはやっぱやばいのかもしれない・・・そう思った。
その時だった。
向かいに座っている愛菜ちゃんの視線が、俺の斜め後ろに見える店の窓で止まる。
愛菜ちゃんの顔が、一瞬で青ざめた。

「愛菜ちゃん・・・どうしたの??」

俺がそう聞くと、愛菜ちゃんはおびえたような顔つきをしてこう答えた。

「い・・・今・・・・お、女の人が・・・窓の向こうに女の人が・・・!
こっち・・・見てた・・・・!」

「えぇ?!」

俺は驚いて振り返るが、俺には何も見えない。
百合さんも、視線を窓の外に向けるが、愛菜ちゃんが言うような女は見えなかったという。
だけど、愛菜ちゃんだけは、ひどく怯えてこういったのだ。

「いた・・・!いたよ・・・”!
すごく・・・すごく・・・嫌な感じした・・・!
なんか、嫉妬?してるみたいな怖い感じ・・・・!」

愛菜ちゃんのその言葉に、俺も百合さんも凍りついた。
愛菜ちゃんは、性格的にそんな嘘をつくような子ではない。
それに、怯えようも半端なかった。
俺たちには見えなかったが、多分、愛菜ちゃんには見えたのだ・・・
気味の悪い、女の姿が・・・

「愛菜ちゃん・・・顔、見た?そいつの?」

恐る恐る俺がそう聞くと、愛菜ちゃんは首を横に振った。

「ううん、見えなかった・・・真っ黒だった・・・でも、なんか怒ってる感じした・・・」

「・・・・とりあえず、もう、帰ろうか・・・閉店みたいだし」

俺は背筋に寒いものも感じつつ、そう言って、ボディバックを開け車のキーを取り出した。
その次の瞬間。
ぽろっと・・・車のキーにくっ付くようにして、何かが床に落ちたのだ。

「・・・・・!?」

床に落ちたそれは、間違いなく・・・・パソコンデスクに置いてきたはずの、あのシルバープレートのキーホルダーだったのだ。
全身の毛が総毛立ち、俺の背筋に恐ろしく冷たいもの走った。

[To Be Continu]



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