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映画感想『関心領域』

原題「THE ZONE OF INTEREST」

◆あらすじ◆
1945年、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)は、妻のヘートヴィヒ(サンドラ・ヒュラー)とその家族とともに「関心領域」と呼ばれる地域で平和に暮らしていた。青空の下、子どもたちの遊ぶ声が響く中、その壁一枚隔てた隣には、ユダヤ人強制収容所が存在した。隣から聴こえてくる音は、子どもたちの楽しい笑い声とはほど遠いもの。しかし隣で暮らす彼らの耳には、何気ない日常の音と化していたが……。

※タイトルの「The Zone of Interest(関心領域)」は、第2次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉で、映画の中では強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に住む収容所の所長とその家族の暮らしを描いていく。


【人間は自分に都合の悪い事から如何に目を反らせられるか】


そこはプール付きの屋敷、近くには水遊びの出来る湖があり子供たちは伸び伸びと愛情たっぷりに暮らす。

悪名高きアウシュビッツ所長ルドルフ・ヘスとその家族の生活描写だが不穏極まり無い効果音と共に描かれるのは普通の家族の日常を支える無関心と言う偽善。

更に描かない事で描く【隣で起きている事】

アウシュビッツ強制収容所で何が為されていたかが周知なだけに観ている方はどうしてもそちら側に意識を取られる。

劇中目の前で繰り広げられているのは何不自由無い生活とその背後に見える音だけの世界。
正反対の事がヴィジュアルとしては何1つ映されていないのにコチラの脳を刺激するのは音から齎される想像と言う映像。

そしてもう一つの要素として挿し込まれるレジスタンスの物語。
主線が美しい色彩で淡々と描かれるから効果音が最大に活き、モノクロで映される少女の映像も重要さが増す。

そのどれもが絶妙なバランスで配分され緻密に計算されているかの様に思わされる。
それだけこの作品は斬新であり完璧だ。

同時に“決して遠い過去の出来事では無い”と訴えかける構成が強烈だ。

人間の【慣れ】の恐ろしさが随所に描かれているが例えばユダヤ人の効率良い最終処理方法を話し合う夫たちよりその夫人たちがユダヤ人から奪った品々の話題で盛り上がってるシーンの方がむしろゾッとしたりする。

だがその不埒さの奥に潜む心の闇も見事に表現されている所にグレイザー監督の手腕を感じる。

ホラーと言っても過言ではないくらいに不穏さを放つ今作。
音で魅せる戦慄は必見(必聴?)!!


※主人公であるルドルフ・ヘスは実在の人物で、ナチスドイツの親衛隊将校であり、アウシュビッツ強制収容所の所長を務めていたがユダヤ人を虐殺した罪によりドイツ敗戦後に戦犯として絞首刑となっている。


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