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『スワンソング』

原題「SWAN SONG」

◆あらすじ◆
オハイオ州の小さな町サンダスキー。かつてヘアメイクドレッサーとして町の人気者だったミスター・パットことパトリック・ピッツェンバーガーは、今では現役も引退し老人ホームで静かな余生を送っていた。そんなある日、町一番のお金持ちで友人でもあったリタが亡くなり、遺言で死に化粧をパットに依頼してきたのだった。しかしリタへのわだかまりを抱え、仕事への情熱も失っていたパットは、高額な報酬にもかかわらず依頼を断ってしまう。それでも昔の思い出が呼び覚まされ、激しく心が揺さぶられたパットは、ホームを抜け出すと、華やかな生活を送った地元の町へと舞い戻ってくるのだったが…。



【スワンソング】とは白鳥が死に際に最も美しく歌うと言う伝説からアーティストの生前最後の作品や演奏の事を示す言葉。

個人的には凄く良かった!!

大大大満足❣️


"徒歩"でのロードムービー風なのがけしからん程たまらんww
歩いてるだけで魅力的なパット❤︎


老いる事
それによって失う物
でも失いたくない物。
人生に悔いを残さない為には?

監督の故郷では「サンダスキーのリベラーチェ」と言われ、実在した"伝説"のヘアドレッサー、パトリック・ピッツェンバーガーの晩年を彼が生きて来た時代のゲイカルチャーや経験を通してコミカルだがジワっと沁みる演出で魅せてくれる。


とにかく77歳のウド・キアが艶っぽいお色気ムンムンなゲイ役を披露。
後半では若き頃の『O嬢の物語』を彷彿とさせるあのギラギラ感をこのお年で見せてくれるとは感謝感激!

パットのココロが眠って居るうちに変わってしまった世界。
幻想と現実が交錯するファンタジックな世界感が描くゲイカルチャーの衰退。
パットを巡る交友関係。

そしてラストのオチ。
(このオチがホントに素晴らしい!)

そこに辿り着くまでの全ての想いが集約されたエンディングシーンについつい涙が抑えられなかった。


不確かな記憶の奥底にある事実。
彼がそれを新しい経験として自分の人生に刻めたのが良かった。

個人的には或るワンシーンに物凄く想い入れたのよねー。

どんなセクシャリティでも認め合え、悪意ある偏見が向けられない世界が早く来ないかなぁ。




◆ネタバレ◆

パットは引退してからずっと介護施設に入り外界から閉ざされた場所に居た。

持ち前の(ゲイの人達特有のちょっと皮肉が入った?)茶目っ気で周りに優しかったり、笑わせたり、困らせたりでちっとも介護何て必要なさそうなのに狭い世界に閉じ込められてる。

持て余した時間でナプキンを折っては重ねて時々ルール違反をしてみたり・・・全然楽しくない。

或る日舞い込んだ嘗ての顧客であり親友だったリタの死化粧の依頼、曰くつきの親友・・・。
パットが苦しい時、彼の元を離れて行ったリタへの恨みつらみは全然消えてなくてパットはその依頼を断りながらも昔を思い出して施設を後にする。

そして徒歩の短い旅の果て、リタが自分を離れた理由が判る。
当時パットのパートナーがエイズで亡くなっていた。
当時のエイズは物凄く誤解されてて多分きちんとした知識を得られない内にゲイの人達特有の病気みたいに言われて彼等は凄く苦しんだ。
そしてパットもその一人。
リタがエイズを恐れてパットから離れた気持ちは当時の状況から思えば仕方ないとも言える。
パットは幻想の中でリタと会話し最後は彼女の死化粧を施すんだが・・・


私が一番好きだったのはリタの孫・ダスティンとパットとの会話。
マイケル・ユーリー演じるダスティンが凄くイイ味出してて登場した瞬間に「あぁ、彼もゲイなのね」って思っちゃったんだが自分の性に悩んだ10代の時、祖母のリタに何か話したい事は無いか?と訊かれ自分のセクシャリティを打ち明けた時彼女は「悩む必要無い、私の親友もゲイよ」と答えたと言う話・・・・もうマジでヤバかった。涙がブワッと溢れてしまったよ。

何故なら私の親友もゲイで、彼とはセクシャルマイノリティやゲイの生態wwについてまで色んな話をして来たし、仕事場で親友がゲイだと言う事を隠したりしなかったからカミングアウトしてくれる人も多かった。
「1人でも自分を知ってくれてる人が身近に居るのと居ないのでは違う」と親友の彼を含め今まで仕事場で出会ったゲイの同僚はそう言ってくれた、そういうの思い出して泣けちゃった。

彼女はエイズと言う病への知識の無さからパットを疎遠にしてしまったがそれでもずっと親友だと言う気持ちは変わらなかった、会う機会があれば恐らくそのわだかまりは解けたんでは無かっただろうか?

パットが頑固に拒み続けた向こう側の世界は変化し、寛容さを得ていたのでは?

ゲイの友人との再会で興味深かったのはやっぱりこの年代のゲイの人達とは切っても切り離せないゲイバー・発展場と言うキーワード。時代が齎した変化へのカルチャーショックがパットを襲うシーン。

SNSの時代で知り合うのも物凄くお手軽になってしまいゲイバーが次から次へと閉店していく、そして自分が嘗てドラァグ・クィーンとしてショーをしていた店さえも消失寸前。

パットが衣装部屋で見つけた煌びやかな装飾を身に付けステージに立つシーンには目を見張った。
あれは「あのシャンデリアはどうしたの?」って台詞の伏線回収❗️素晴らしい❗️
前述したがこれぞウド・キアの真骨頂とでも言うべきショーを見せて貰った。
「これがワタシよ!!」と言わんばかりのあの眼、あの表情!
ミラーボールにもカラフルな照明にも負けないクィーンぶりには脱帽だ。


パットのウォーキング・ショート・トリップはとにかくお茶目で黒人さんの美容室で「日差しが強いから頭皮が焼けるわよ」と言われ「この店にはサンスクリーンは無いの?」(黒人の店なのに!)と切り返したり、パットのファンだったと言う古着屋の女主人が「いつか似合う人が来たら出そうと思ってたとっておきがあるの」と出してくれた衣装を気に入って購入するのかと思えば「お金無いの」と堂々と貰っちゃったり・・・とにかく町の人達も凄く優しくて温か味のあるストーリーなのがGOOD!!


そして彼は最後の仕事をきっちりこなす。
リタをまるで彼女の全盛期の様にヘアメイクしゴージャスに仕上げたその姿はリタ本人もきっと満足だったろう。

で、ラストのラストにパットの最大級のお茶目さが待ってた。
これはちょっと読めちゃったけど実際ちゃんとお約束の様に監督が映像として見せてくれたのが嬉しかった。

自分の最期の仕事・・・ずっと手放さなかった細工が施されたハサミ=宝物とリタの足元のパールや宝石で装飾されたパンプスとの物々交換には思わず「そうこなくっちゃ!!」ってガッツポーズしちゃった。

一筋縄ではいかないこの物語を作り上げたトッド・スティーブンス監督の手腕が光るなぁ。


死ぬまで気持ちは現役でいたいよなぁ・・・出来るかな?



適度な意地っ張りで頑張りますかね!!wwww。 

2022/09/23


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