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「ダイバーシティ経営に邁進する岐阜の町工場経営者」後編 早川工業株式会社 代表取締役 大野雅孝さん

前編より続く


●著書『メンタルモデル』を読んだ後の家庭での変化

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三木:後半はより心の部分について色々とお話を伺っていきたいんですけど、会社紹介に衝撃的だった“こうあるべきという呪縛”というところがあって、これは別に早川工業さんだけじゃなくて今日本の多くの企業がこの呪縛にはまっちゃってるんです。このプロセスでやれば絶対成功するとか、うちはこの業界だからこれをやんなきゃいけないとかそういう呪縛に全部囚われて、結果イノベーションが起きなくなってしまっていると。

宇都宮:イノベーションも起こさなきゃいけないと圧がかかってる。

三木:起こさなきゃいけないという呪縛。

宇都宮:下請けだから脱下請けをしなくちゃいけないとか。

三木:意外と“~でなければならない”っていうところを手放したことによって外側の環境が変わってくるという体験を今進行中だと伺ったんですけど。

大野:最近の話なんですけど、『メンタルモデル』という由佐さんの本を読んで。

やりたいことをzenschoolに参加して見出させていただいて、まだ2年?3年?

宇都宮:2017年ですね。

大野:2年ちょっとですけど、今の障がい者の方の雇用を進めたりとか、新入社員が入って来たとかは全部その後なんですけど、それはしてきました。

三木:会社のほうは色々やってきた。

大野:母親が年を取ったり、自分の息子が少しデイサービスに行けなくなったり閉じこもった時期があって、そうすると妻も仕事をしてるので私が社長っていうだけの立場なので交代交代で外に出かけるみたいなことをし出すんですね。私も在宅でやれないこともないので、外でやらなきゃいけないことは出勤時に出かけたりとか、見積もりとかは家でやるみたいなスタイルで1年ぐらいやってたんですけど、母親も少し年を取って少し忘れがちになったりとかして段々トラブルが増えてくると、家の中ではそれこそ“しなければいけない”ことだと思ってるのが増えてたんですね。我慢したりしながら生きていくんですけど、外では呪縛から解き放たれたところに行っちゃって頑張っちゃってるから続けなきゃいけない。それこそしなきゃいけない状態になってきて、一番身近なところが苦しくなってきてたっていうのは去年1年でありまして、イライラしたり怒ったりっていうことが非常に増えたんですけど、会社に来たら「もういいんじゃない」とかって…

三木:ちょっとつらいですね。

大野:ちょっとしんどいなと思って。

三木:二重生活。そのギャップが…

大野:ギャップもちょっと出ちゃったので、その時に『メンタルモデル』っていう本を読んだ時に自分に内省していく話なんですね。自分のメンタル、私で言うと自分の凸凹したところを見つめて「それでいいんじゃないの」みたいな。

三木:「それはそれでいいよ」っていう自己承認、自分を認めるという。

大野:その話は凸凹があっても人はそれで美しいよねっていう世界を外で作りたいみたいなんですね。そこまでは行ってたんですね。

三木:表側に。

大野:表側に向かって。でもそれは克服をしようとしていく。自分の内側を満足させようという行動なので、満足してないから苛立ちが出るっていう。家族とかに分かってほしいと思っても分かってもらえないみたいに勝手に思い出すと。

三木:苛立ちというか…

大野:それが明確に分かったんです。

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三木:それが由佐さんの本を読んで心の中でこういうことが起きてるっていうのが分かって。

大野:だから変えるんだったら内側だなと思って、まだ2ヵ月ぐらいですけど、ちょっと瞑想ワークを…

三木:その本に書いてある瞑想ワークをやって。

大野:やっていったらここ1~2週間で家の母親の反応とかが息子も含めてちょっと変わってきたっていうことです。

三木:表面的には同じ言葉とかを使ってるけど、向こうの反応が違う?

大野:違う。びっくりした。

三木:実は内側にあるものを何となく感知してるっていうことですね?外の人達は。

大野:そうなんですね。だからつながらずに断つ言葉遣いだったり、お互いに断っちゃってるとかっていう関係性があったのではないかなっていう。言葉そのものはあんまり変わらないにしてもつながろうと思うようになりつつあるので、向こうはそれを感じて怒って同じ言葉を言っても笑うみたいなことが起こって、笑うんだみたいな。

三木:それで自分が驚く。それは衝撃的な…

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大野:衝撃的。人に話すとそれが100分の1ぐらいに薄まっちゃうんで伝わらないんですけど、自分では衝撃的で。

三木:大きな気づきなんですね。

大野:どれだけ言っても伝わらないと思ってた母親とか。

三木:手放すみたいな感じなんですか?

大野:ある意味こだわらない。

三木:反応する自分を自分でモニタリングすることによってそれが達成される。

大野:そうですね。結局何かを言われた時に反応するじゃないですか。それは何に反応してるんだろうっていう。大体怒りだったりするんですけど、その怒りの源泉はたぶん悲しいとか痛いとかなので、その痛みは何でしょうみたいな感じ。そうすると痛みのメカニズムがちょっと自分なりに分かるので、今はたぶん母親に同じ言葉を言われても何も感じないですね。

三木:それは家庭の中でもそういうことが起きるだろうし、たぶん会社の中でも同じことが…

大野:そうですね。これから先になるでしょうけど、可能性としてはあるので、また違ったお楽しみが出てきてはいるかなと。

三木:外を変えようと思ったら自分の内側が変わると自動的に外が変わってくるということ。

大野:それは体感してますね。

三木:すごいですね。その知恵をぜひ他の経営者に…(笑)。

大野:これは説明がうまくできない(笑)。感じるっていうことが大事らしいので、痛みを感じたら五感で痛いって感じないとダメらしいんですね。体とか心とか何かで痛いって感じる。「感じることなので、理解じゃありません」みたいなことを言われるので、確かになと。

三木:五感で感じるようにトレーニングしろっていうことなんですか?

大野:それは瞑想をやってるだけなので。


三木:約1年ぐらい前のビル・ゲイツさんのブログで瞑想について語っておられました。

スティーブ・ジョブズは有名ですけど、内側が変わることで外が変わっていくっていうのはたぶんスティーブ・ジョブズは体感していたんだと思いますし、日本の優れた経営者も、有名なところだとA.T.カーニーの会長の梅澤さんとかが朝晩20分ずつ数十年やってらっしゃるということですし、あと有名な大手流通の社長さんもやってたりとか。

大野:私の父親が、早川工業の社長をやってたんですけど、お寺に行って座禅をする人だったんですよね。あんまり違和感がないっていうのは現実的に連れて行かれて一緒に座った時とか夏休みにあったので違和感はそんなにないんです。この心を静めるみたいなことはあまり分からなかったんですけど、痛みっていう話になった時にすごくしっくりきたんですね。

三木:『メンタルモデル』は僕も斜め読みで持ってたんですけど、もう1回ちゃんと読んでみようかな。すごい勉強になりますね。どちらかと言うと今までのビジネスに生かすマインドフルネスみたいなちょっとイケイケな感じなんですけど、集中力を高めていかに業績を上げるかっていう、そうじゃないところの瞑想の効果というか、より自分自身の心を見つめてそこの痛みを自分で認識することで世界が変わっていくというアプローチなので面白いなと。

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●イノベーションを起こすことと今後の方向性について

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三木:先ほどの会社案内の中に“何も教えない、何もしないは創造性の種”と書いてあってこれもなんかいいなと思って。これもちょうどzenschoolが目指しているところというのがあるんですけど、これはどういうところから…?

大野:一番最初に私がインパクトをいただいた福祉施設で鹿児島のしょうぶ学園さんっていうところなんですけど、基本的に何も教えない。

社会に近寄るための作業であるとか作業方法みたいなことを教えるのをやめたっていう。物の持ち方とかは教えてるかもしれないですけど、あと職員さんもその道ではプロではないが作業される方も一緒にやってみるっていう環境でしたけど、基本的に何も教えない。私なんか息子に対して教えなきゃと思ってたし、でも重度なんで無理なんですよね。でも意味もなく「頑張れ」とか「何を?」って自分で思いながら、でも「頑張れ」って声をかけるんです。それがすごく違和感があってそこを訪れた時に「ああ、これでいいんだ」って思ったんですよね。知的障害の子供に対して何か彼らが生きていく知恵をつけてあげなきゃいけないとか…

宇都宮:それって呪縛ですよね。

大野:そうそうそう。私達が死んだらどうしようとか、彼が生きられやすいようにしなきゃいけないってたぶん多くの親が思ってるんですけど、それをしていなくて「ああ、これでいいんだ」と思ったのと、彼らが作るモノづくりがものすごくクリエイティブだったっていう。したいことをしているだけなんですけど。

三木:教える必要はないんですね。

大野:それは本当に自分がしたいからしている。ルーティンでしてる人もいるし、やりたいからやってる人もいるし、やりたくない人はしないし。それがすごいクリエイティブだったり、その職員の方が手を加えて社会性というお皿にされたりっていう分業なんです。

三木:これはすごい僕らも分かって、zenschoolでは我々も最初教えようとしてたんですけど、教えてもすぐ忘れちゃうし、その時必要な知識はその時にもう1回学べばいいと思って、特に何も教えないというか…

zenschoolー教えない

大野:「教えません」とか書いてありましたもんね(笑)。

三木:ひたすら対話してその人の中で浮き上がってくるものを表に出すということだけに注力したらうまくいくようになって。

大野:尖ってるって言ったら言い方が悪いですけど、尖ってる福祉の施設の方は基本的に何もしないですね。何も教えてないというか。

三木:自由にしてもらうっていうことですね。

大野:利用者さんがイキイキと生きだすっていう。

三木:そういう場を作ればいい。

大野:その場がクリエイティブに見えたから、だったら製造業もクリエイティブであってもいいので…

三木:場を作れば自然と…

大野:場を作れば自然となるから、ただ本業もあるのでそことのバランスが難しいと思ってますけど、ただ一旦そういう人達が出てこないと。結局イノベーションって新結合だからA、Bっていう人達が出てこないと。「AもBもあっていいよ」っていう環境にしないと結局イノベーションにならないじゃないですか。

三木:対立概念があってその上の概念が出てきてるんですね。

大野:そうです。A、A’、A’’みたいな感じだったらもう絶対ないわけで、部署が2つあったらB、B’、B’’みたいな会ってはいけないみたいな関係性だとイノベーションが起こらないので、うちでイノベーションの種ができつつあるっていうのはちょっとは感じるんですよね。ただそれが何かは分からないので、それこそ着地を私のほうで決めない。出たらびっくりする役割みたいになりたいなと。

宇都宮:僕らも何も教えないって言っていながら、結構見てるんですよね。観察っていう表現に近いんですけど、だから言葉はあんまり気にせずに表情を見てますよね。言語と表情に違和感があると質問をしてるんですよね。「本当ですか?」「どうですか?」って。

大野:めっちゃ言われたね。

宇都宮:それはたぶんご自身は気づいてないんですよ。本心を言ってるつもりだけど体は違う反応をしてるっていうのは他の人は分かっちゃうので、そこが今一致してますもんね。

大野:そうですね。観察は全員じゃないですけどできてる気がしますし。

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三木:今社員が30人でしたっけ?

大野:25人ですけど、基本的に現場に行かないですからね。来る人拒まずみたいな、ここに来る人は結構いますけどね。

宇都宮:対話というか聞く感じなんですよね。

大野:よく話しちゃうこともあるんですよね。残念ながら。

三木:そうなんですか?

大野:色々です。人によってそれも違いますし。聞きたいと言っていただける方もいるし、聞いてほしいっていう人もいるしっていう感じですかね。

三木:いいですね。会社で1つの場づくりをされようとしてるのがすごい分かります。

宇都宮:この部屋も変わったんですよね?雰囲気というか。

大野:そうです。カチカチの昭和な社長室だったのが…

宇都宮:そういうの(ポスター)も飾ってませんでしたもんね?Zoomでフォローアップしてた時も。徐々に増えてましたよね。

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大野:これがあったからこそ今の一番新しい社員さんは「社長音楽好きなんですか?」って。Zoomで最初面談をやったんですよ。ここでやってるとこれが映るじゃないですか。面接をしようとしてるのに「社長さんは音楽好きなんですか?」って質問されて、それからずっとロックの話しかしてないっていう(笑)。「行きます」って言われてその子は働いてますよ。

三木:それが音楽?

大野:それが音楽を作曲する子です。ちょっとお互いに社員さんも感じるものがあったみたいで、彼のフォローアップに関してはFacebookメッセンジャーで自分の好きな曲が出たら「いいの出たよ」ってYouTube動画を送ると大概「いいです」って…

三木:その辺が音楽のあれなんですか?

大野:僕の好きなミュージシャン。生きてる人はいないですけど。いない人に惹かれるので。

三木:この社長室は対話の場なんですね。

大野:そうですね。全社員さん向けっていうわけじゃないですけど。本なんか知らぬ間にないですから、図書カードを作ったんです。ちゃんと借りて行った人が名前を書くようになってますので。

三木:『マイクロモノづくり(はじめよう)』ありがとうございます。

大野:『トゥルー・イノベーション』も買ってみたんですけど。一応メモだけして持って行ってねっていう風にしたんですね。

宇都宮:製造業っぽくないラインナップで。

大野:上は僕の昔の遍歴があるんです。『ビジョナリーカンパニー』とかドラッカーとかあるでしょ。

三木:zenschool前、後みたいな感じですね。『オープンダイアローグ』、『縄文型ビジネス』。僕が上げるのをすぐに買うんですね。

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大野:結構三木さん、宇都宮さんが上げる本は僕も買う比率は高い。

三木:ありがとうございます。でも新しい形の会社のような気がします。新しい時代というか本当にこれから色んな多種多様な人と一緒に共存していく、日本社会もそうなっていかざるをえないので。

大野:そのほうがモノづくりは面白いって言い切っちゃってますね。今の既存の仕事はもちろん大事にしなきゃいけないものですけど、何年か先を考えた時はそういう人達がいたほうが…そうじゃないほうがいいっていう人達もいるから、逆に。

宇都宮:地域づくりとかそういうのはあまり関わってないんですか?

大野:地域のイベントとかには参加していますし、関市とか地域は意識してますね。うちの子供を委ねていく地域みたいな風には将来的には考えて、自分の目標じゃないですけど夢みたいなことはありますし。

宇都宮:国づくりでしょ?

大野:国づくり(笑)。ここを起点にした開いた場所、誰でも来ていいよみたいなところに最終的にしていけたら面白いなと思いますし、地域インフラとしての町工場みたいな、地域の1つのハブみたいなものだったり、町工場がそういう役割をしてることって非常に少ないと思うので、人が集まったりとかでもいいし、そういったような意味合いで…

三木:zenschoolの第4期生のニットーの藤澤さんはモノづくり祭りみたいなのをやってますね。

工場を開いて。それはそれで新しい試みかなと思いますね。でも面白いですね。どんどんこれから進化していくように感じますね。


●大野さんの考える「○○の未来」に対する想いについて

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三木:最後に質問がありまして、大野さんの考える「○○の未来」というのがありまして、○○は自分で入れていただいて○○という言葉とそれに対する未来を語っていただきたいなと。

大野:在り方。

三木:在り方の未来。

大野:私の中では今ちょっとトレンドなので、凸凹していることこそ美しいっていう世界を作りたい。まずは自分の近くにいる人。その次はこの会社という集団の中、地域、日本、世界みたいな。

三木:宇宙。

大野:宇宙。そこに自分のしたいことがあるような気はしますね。

三木:多種多様な人達と一緒に世界を作っていくという。

大野:そこに憧れます。

三木:いいですね。非常にエキサイティングな話をありがとうございます。

大野:ありがとうございました。


対談動画


大野雅孝さん

:⇒https://www.facebook.com/masataka.ohno.58


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