第119回MMS(2015/12/25対談) 「インターネットサービスデザインでライフスタイルを提案」 Omotenasy LLC CEO 今村泰彦さん、西村拓紀デザイン株式会社 西村ひろあきさん
●味わい深い人生を。
enmono 本日はOmotenasy(現VIE STYLE)の今村さんと西村さんにお越しいただきました。ハードウェアスタートアップという言葉がありますけども、その典型的な事例を進行中のお二人です。
今村 スタートアップしてますね。
enmono まずは今村さんの自己紹介をお願いいたします。
今村 今村泰彦と申します。歳は40歳です。20代の頃はミュージシャンをやっておりまして、メジャーデビューもしました。同時にレコード会社で10年ほど、ビジネスデベロップメント――デジタルで音楽を売るお仕事をやりまして、それから転職をしてゲーム会社で上場企業役員をやったりとか、シリコンバレーの企業で働いたりとかして……シリコンバレーの風にあたって、「よし、起業するぞ」となって今に至ると。
enmono たまたまお住まいが鎌倉ということで。
今村 はい、鎌倉に住んでいます。
enmono 私も鎌倉で、カマコンという団体がありまして、そこでこのプロジェクトのご相談をいただいたことが始まりでした。
enmono では、コンセプトのご説明をお願いします。
今村 会社のコンセプトからでいいですか? OMOTENASY合同会社(現VIE STYLE)というのを今年(2015年)の4月に本格稼働させまして「味わい深い人生を。」というのをテーマにやっています。
今村 コンビニではごはんをいっぱい食べられるじゃないですか。大盛りでいくらでも食べられるんだけど、「本当にごはんを味わっていますか?」と。必要な量を、必要な量だけ本当にありがたがって食べると本当においしい。その中でなにが起きるかっていうのが一番重要なんだと思っています。
今村 まぁよく「飲食店なんですか?」って言われるんですけど、飲食店ではないです。そういうようなことを、色んなことでできるんじゃないかと。だからマインドフルネスと一緒ですよね。禅の修行の中で食事っていうのも修行の一部なんですけど
enmono 食事を作る人が一番重要なポジションですね。
今村 摂取をして、ものをいただいている。これは人間の道としては必ず必要なことだと思います。モノづくりにしても生産するには必ずなにかのエネルギーをもらって、それに付加価値をつけなければいけない。ユーザーに届ける価値の部分とは何なのか。今、ほとんどのモノづくりや生産という行為は、便利だとかサボる方向に行っているんです。楽をする方向へ。
enmono 効率化というか。
今村 人も欲に対して最適化している。これは必ずしも幸せにはならないだろうと思います。ごはんも、食べたいから食べているとどんどん太っていって成人病になって死ぬ。これは自然の摂理だと思うんですけど、最適に食べて、最適に味わって、最適に人生を送るには、もうちょっと次元の高い形があるんじゃないかと。それが僕の中で「味わい深い」という言葉になっていったんですね。
●モノをもってコトを成す
enmono 今村さん、すごく禅が好きじゃないですか?
今村 はい、好きですね。禅も鎌倉でやらせていただいて。
enmono ああ、そこから禅を通じて今を生きる、一つ一つの食事を味わうというスタンスが。
今村 それはすごく影響を受けましたね。「いただきます」の意味とか。禅寺でハッカソンをやるZenHackというイベントをやらせていただいているんですけど、それの前回のテーマも「食」だったんですね。
精進料理を作ってらっしゃる和尚さんのお話を聞くことができたんですが、言われていることはとてもシンプルで「皆さん、『いただきます』の意味をご存じですか? それは『あなたの命をいただきます』という意味なんです。
今村 誰かを殺生をして、その命をいただいているわけです」。だから飽食をしてはいけない。なぜかというとエネルギーを取りすぎるし、やっぱり人の命を必要以上にいただいてはいけないということなんですね。食べるという行為に対しては必ず感謝が伴わないといけない。さらに感謝にはどういうことが伴うかというと作務――働くこと、workですね――あなたが誰かに価値を提供したから命をいただけるという、この循環がないと必ずどこかに膿が溜まったりエネルギーが溜まりすぎたりしてしまう。
enmono 非常にマインドフルなコンセプトの会社なんですね。
今村 それを一言で言うと、「コトづくり」をする会社ですということになります。「モノ」は作らない。おもてなしというのは裏表のない心で接待するという意味があるんですけど、もう一つの意味に「モノをもってコトを成す」というのがあるんです。これはお茶の用語です。茶器を持って、客人のもてなしをする。重要なのはコトの部分でして、モノづくりを通してコトを作るということをやりたいなと。それは先ほど言った製造業に対する問題意識ですね。便利ということがコトであっていいのか? と。それよりも価値というのは違う形であり得るんじゃないか。
enmono モノだけあっても、もう意味がなくて。
今村 そうですね。逆に言うとモノは少なくていいと思います。今作っている色々なモノに対して、「これは本当に存在価値があるか」を問い直していきたい。例えばですが、ここにあるもので言うと「この椅子とか要りますか? 立ってりゃよくないですか?」とか。
今村 あとは例でよく言うのが「冷蔵庫って本当に要るんですか? 24時間以内で食物が届くんであれば、新鮮な状態で、しかも溜めておかずに廃棄せずに済むのであればデリバリーしてすぐ消化する。それも地産地消。近いところから取って、出荷や倉庫やトランスポートの費用すべてなくなるんだ。だったら四里四方――自分の身のまわりの環境で育った食物を食べればその人が一番健康に育つ――これも禅の考え方にあるんですけど、四里四方で地産地消をやっていけば冷蔵庫って本当に要るのか? というようなことを問い直していく。無用なモノは作らない。
enmono そのコンセプト自体にすごく価値があると思いますね。
今村 「モノを作る」ことをやらない。「量産」「ディストリビューション」「製品」とか大手のメーカーが持っている機能はできればやらない。やらないとはどういうことかというと、その人たちと一緒にやるということです。その人たちが持っていない機能を僕らが提供して、その人たちが持っている「製品のクオリティを大量生産で出す」とか「世界に持っていってそれを売り切る」とか。ただし、そういうところと組む上でその人たちに与えたい影響としては例えば「四半期で予算に困ってもう一台冷蔵庫を作らないように」とか「機能が同じものを品番変えて出さない」とか。
enmono 新しい価値をメーカーさんに提供して一緒にモノを作る、価値を作るということですね。
今村 価値を作る。そうですね。
●西村さんとの出会い――人生をシェアする
今村 三木さんにご紹介いただきまして、西村さんに入っていただきました。西村さんは西村拓紀デザイン株式会社で社長さん兼デザイナーをやっていて、元々はPanasonicで様々な商品をデザインしては様々な賞をもらっていた人です。エースデザイナーですね。ここまで来られたのは、この出会いが大きかったですね。
enmono 西村さんはモノの本質を見る力がすごいんです。
今村 そうですね。僕がガーってコンセプトをしゃべると、2週間後くらいにホイって出てくるという魔法のデザイナーです。
西村 元々はOMOTENASYの会社には入っていなくて、普通にデザインの依頼をいただいたんですね。で、しばらくやってる内に今村さんが「ちょっと話がある」ということで、「デザインはやっぱりとても重要です。クリエイティブの責任者として会社に加わってくれませんか?」というお話をいただいて、当時は今話していたコンセプトとか全然聞いてもいなかったんですけど……。
今村 多分会社名も知らなかったんじゃないかと。
西村 ちょっと面白そうというので、スッと入ってしまったんです。
今村 「いいよ~」という感じで(笑)。
今村 もう一人古川さんというエンジニアの人で、この人も「こういうの作りたい」っていうとポンと出してくれます。という三人でやっています。で、生みだされたのが「VIE SHAIR(ヴィー・シェア)」。
enmono VIEというのは?
今村 フランス語で「Life」です。「Feel the Life」にも通じるものをということで、「人生」ですね。
今村 人生をシェアするんですね。SHAIRの中に「AIR」が入っていますけど、これはなにかというと(実際の製品を提示)、世界初のフルオープンエアヘッドフォンなんです。この耳の部分がバッと開いています。これ、このまま聞くとどうなるかというと、ヘッドフォンの音を聞きながら、外の音が完璧に聞こえます。
enmono 普通は密閉するじゃないですか。
今村 密閉すると、だいたい声が大きくなったり、話す時はだいたいこうなって(ヘッドフォンをずらす仕草)「え?」となったりする。でもこれならそのまま聞けます(話せます)。
enmono 音は洩れないんですか?
今村 音はですね、ここの中に55mmの平板スピーカーがあります。指向性がすごく高いので音が一方向にしか届かない。つまり、あなたにしか聞こえません。
enmono なるほど!
今村 フルオープンでヘッドフォンの音を開いているにもかかわらず、周囲の人には聞こえない。ただし、音は耳の方向の真逆にも一直線上に飛ぶので、真横にいると若干シャカシャカします。こうすると(向かい合う)聞こえません。体験として説明するのはすごく難しいんですけど、装着感がなく、外でスピーカーの音を聞いているような音がします。
※実際に装着・視聴。
enmono おおー! これはそのまま会話できますね。音の粒度が細かい気がします。
今村 これも三木さんにご紹介いただいた平面スピーカー専門で作ってらっしゃる浜松のライト・イア合同会社の大和さんにご無理をさんざん言いまして、3回くらい作っていただきました。
enmono ご紹介したのがいつくらいでしたっけ? 去年……いや今年。
今村 今年の春くらいです。浜松に行って。この半年間に3回作っていただきました。
enmono そこがすごいと思いますね。普通会っただけじゃ進まないんですけど。
今村 あ、そうなんですか?
enmono 「持ち帰って検討します」みたいなことが多いじゃないですか。でも知らないうちにそれを実装していて、さすがプロデュース能力が高いなぁと思いました。
今村 プロデュースという立場にはあると思うんですけど、僕の役割はリスク屋です。なにかを進めてお金を張りますとか、このプロジェクトを進めてリソース張りますということになった時に、それがコケる可能性や資金ショートする可能性があると思うんですけど、それをどうやってマネージしていくか。
今村 色んな方法があると思うんですね。もう一本走らせるという方法もあるし、ものすごいスピーディにやるという方法もあるし、あんまりお金をかけずにステップステップでやっていくという方法もある。その辺を見極めながらやっていく。日々リスクを取るためだけにいる。
enmono 本気モードだから話が進むんでしょうね。
今村 そうですね。そこは感じてもらっていると思います。だから一気にリスク取ります。
●よりコンセプトが生きるデザインへ
enmono プロダクトとしてデザインとテクノロジーが組み合わさっていて、さらにそこへ今村さんのコンセプトもきちんと乗っているなと感じます。これ、当初はイヤフォンタイプでしたよね。
今村 はい。これが最初の草案で。
enmono VIEになる前ですね。
今村 はい。VIEになる前はLIVEという名前で、こんな感じでした。
enmono 箱が二つありますね。
今村 最初やっぱりちっちゃくやりたかったのでイヤフォンにしてみて……ただ、イヤフォンには無線の一斉送信モジュールというのは入らなくて、この箱に無線のモジュールが入っています。このデザインのすごいところは、普通こうすると(箱を)ちっちゃくしたくなるじゃないですか。
enmono はい。
今村 もっとちっちゃくできるんですよ。西村さんは敢えて大きくしてるんです。なんでかっていうと、手で握って踊るでしょうと。だから持ちやすい形にしたんです。
enmono ああ、なるほど。
今村 この人天才だなと思って。
西村 このタイプのヤツは3ヶ月半くらいやってましたね。
enmono どんどん進化していくんですね。
西村 その代わりちょっと壁にぶち当たっちゃったんですね。
enmono 技術的な?
今村 これ、レシーバーとトランシーバーみたいに別れてるんです。
enmono 金型二つ起こさなきゃいけない。
今村 それにかっこよくないし、めんどくさい。
西村 いろいろあったんですよね。イヤフォンを光らせるっていうのがすごい難しくて。
今村 本当はケーブルを光る感じでかっこよくしたかったんですよね。
西村 なんでこれをこだわってやろうとしてたかというと、元々のコンセプトを1日ここでカンヅメして話していたんですけど、結局さっきの「モノをもってコトをなす」っていうのに繋がっていて、音楽機器を作りたいんじゃなくて音楽体験を作りたいっていうところに行き着いたんですね。
西村 ライブハウスとかで音楽をみんなで楽しみながら、おしゃべりしたりして、その空気自体を作り出したいっていうのが本質的な目的としてありますねと。その時に音が出せない空間で、サイレントでみんなで音楽をシェアできる機器を作りたい。
西村 重要なのが音が一個で共有できているということと、もう一個がクラブみたいに光を出すこと。これがあれば光と音でちっちゃい空間だったら支配できてしまうだろうと。それで音と光両方シェアできるっていうのにこだわって進めていたんです。
今村 無線で30メートル圏内だったら何台でも同じ音楽が聴けますというモジュールが入っていて、このヘッドフォンとこのヘッドフォン、今繋げれば繋がります。100台でも全然問題なくて、そういう意味でシェアって入ってるんですね。音楽でシェアしながら話もできる。
enmono 大きな音が出せないようなところで、これをみんなでつけてディスコのようなクラブのような場を作れると。
今村 まぁ都心の中では本当に音楽のライブをやろうとしたりすると、必ず出てくるのが騒音問題。音楽やるとだいたい怒られるわけです。そういう経験をたくさんしてきて、それが音楽文化にとってすごくマイナスというか。人口が密集すればするほど音楽に対して許容度が減っていくんです。
今村 音っていうのは物理で飛ぶので、遮音っていうのは物理的にやるしかない。そこが限界になっている。ただ、音楽っていうのは古くからある芸術で、人がサルからヒトになるくらいからあるものなんですけど、それが減っていってしまうのはよくない。そういうことを変えるためにこれを作りました。
●モノづくりは大変!
enmono モノづくりベンチャーというかモノづくりのメイカーズが盛り上がっているところがあると思うんですけども、実際にメイカーズとして準備をされていて、皆さんに「これやった方がいいよ」とか……。
今村 やんない方がいいですよ!(笑)
enmono (笑)
今村 絶対やめた方がいいですよ。本当に……。
enmono どの辺が?
今村 一言で言うと「舐めてた」っていうことですよね。ずっとソフトウェア産業にいたので、アイデアを出して、すぐ形にして、すぐ出してという風にやっていたので。音楽もそうですね。身体一つでできますし。ソフトウェア作るにしても、ベースがあればアイデアをちょっと変えようということができて、そんなに投資がかかるものではなかった。プロジェクトベースで言っても3ヶ月で1本作って6ヶ月で出すというのが普通だったので、そのくらいの感覚でした。
今村 それでメイカーズムーブメントなんかにあるじゃないですか、「すごく簡単になりました!」って。「3Dプリンターを使って、アイデアがすぐ形になります、ほらできたでしょう!」みたいな。よっしゃできるのか、それは面白いわ。じゃあなんかわからないけど宇宙船でも作るかみたいな、そういう世界ってあると思うんですけど、もう全然そうじゃないですよ! 嘘ですよマジで。何が違うって「物理」を作らないといけないというのが。
enmono モノがね。
今村 関わる人も多いですし、工場、機械、実際物を仕入れて形に仕上げていく、それで最悪なところは「出てみないとわかんねぇ」っていうことなんですよ。
enmono 最悪(笑)。
今村 いや、ソフトウェアは一応画面上で動いてれば動くじゃないですか。まぁバグとか出ますけど、一応最終形はわかっている。(モノづくりは)一回試作して、「よし大丈夫だ、じゃあ工場で何個作ってみよう」と作ったら半分動かないとか平気であるっていうことですよね。それはなんでかっていうと「物理」だからです。モノがそこにある、それを動かすということはとてつもなく大変なことです。
enmono ということは、それなりにお金も……。
今村 ほんとにすっごいお金もかかりますよ。ほんとやめた方がいいです。
enmono やって良かったことってあります?
今村 やっぱり出てきたモノに対して誰からでもフィードバックをもらえるということですね。アプリケーションとかソフトウェアというのは、実際体験してもらうまでに、例えばすごくアナログな人には「ワー」って言ってもらえないんだけど、ヘッドフォンって実際これを持っていったら「おおー!」ってなるんです。
enmono 今、当初想定していた時間の何倍くらいかかってしまっていますか?
今村 試作は6ヶ月でできるだろうと思ってたんです。結局1年半かかって、まだプロトですからね。
enmono いやぁ、でもね。これ相当完成度高いですよ。ノイズとかにも悩まされたとか?
今村 この形になった最初の試作では、形に対して絞りすぎて……要はスペースが狭すぎて、それにモジュールを3個載せていたもので、電気が干渉するんですね。これも物理なんですけど。結局銅線が入っているし、実際電波が出ているので、そこに空気があれば電波が乗ってしまうんですね。そういうことを学びましたね。で、ちょっと筐体を大きくして、その代わり工夫をして斜めにする。デメリットをカバーするために、さらにイノベーションをつけていくみたいなところが、この人(西村さん)が天才なところですね。
西村 スピーカー自体も最初は板金の金属だったんですけど、それも無線で干渉が起きてしまって、プツプツする音に繋がっちゃうんですね。
enmono 今はスピーカーを樹脂で入れてるんですか?
今村 そうです。3Dプリンターで作って、外装で挟んで鳴ってるんです。
enmono 僕らが見た時から相当イノベーションが進んでいるんですね。ずっと金属じゃないと無理だなって仰ってたんで。
今村 それは(大和さんも)すごい仰ってました。だから、もうケース作って送りつけたんですよ(笑)。
enmono じゃあ一気にブレイクスルーじゃないですか。町工場パワーを感じます。
今村 ほぼ町工場でできてるんじゃないですか。本当にノウハウが宝物のように、ザックザック出てくるんですよ。
enmono 町工場の人は本当に持ってますからね。でも、今まではそれを繋ぎ合わせる人がいなかった。繋ぎ合わせて初めて出来る。
今村 そういうことだと思います。今まで大企業メーカーがイノベーションを起こし、それに中小企業がノウハウを提供しつつやっていくという、一個のエコシステムみたいなものがあったと思うんですけど、今の大企業はほんとイノベートしないですからね。なんでかっていうと理由は簡単で四半期の利益を守るため。大丈夫ですか、俺こんなこと言って。
enmono 言える範囲で(笑)。
●これからはリスク屋が必要になる
enmono このヘッドフォンでクラウドファンディングを考えていらっしゃるとか。
今村 はい、クラウドファンディングもスタートします。
enmono 目標金額はどれくらいで?
今村 一応10万ドルスタートで。
enmono 10万ドルというと1千万円。
今村 1千万円いかなかったらメイクしないです。50万ドル(5~6千万円)を目指してやっていこうと思います。これ量産するとなったらそんなんじゃ全然無理ですからね。ほんと数億円いるよ。
enmono そうですねぇ。そのためにメーカーさんのパワーも必要なんですね。
今村 日本の大企業の方とも一緒に何かをやっていくというのが日本の未来に繋がると思います。エコシステム的に。日本の大企業に対して悪口ばっかり言っているようだけど、本当に優秀な方が多いですし、問題意識もある。ただし、3ヶ月の予算の壁があって、何回もある稟議を通らない、これだけなんですよね。アイデアはあるし、能力もある。プロジェクトも走ってるんだけど、モノが出ない。
今村 ここをブレイクスルーするためには、ある程度の証拠をこっち側で揃えてあげないといけない。その稟議を通すための材料をあげる。市場マーケティングみたいなことは色々できるわけで、そこも誰かがリスクを取ればいいという話なんです。必要なのはリスク屋です。
enmono リスク屋!
今村 リスク屋。僕はもう今はこれ以上無理ですけど(笑)。
enmono 今村さんみたいな方ってどこにいるんですかね。
今村 いっぱいいますよ。アントレプレナーって言われる人たちをアーティスト的なカテゴリで見てるんですけど、そういうちょっとかっこいい人たちがいるじゃないですか。あの人たちは絶対リスク屋です。
enmono クリエイター。
今村 クリエイターです。リスク屋っていうのは要はリスクの計算ができない人たちですね。そういう人たちだけでもダメですけど。
enmono そういう人たちと大企業がコラボレートする。大企業の方もそれを求めているんでしょうね。今はまだ受け入れ体制ができていないだけで。
今村 さらに言ってしまうと、それに呑みこまれたら意味がないんですよ。要はその人たちを外に出してしまうくらいのパワーが要る。その人たちと組んで、お金やリソース・テクノロジーをうまく使いながらやって、その後は別に吸収されてもいいんですよ。
今村 重要なのは価値がこの瞬間に生まれていないということに対して「そのキャッシュを取った代わりに、この価値が生まれなかった」というバーター関係を理解できる人がちゃんと匙加減をやっていかないと経営っていうのは成り立たないんだということです。
enmono そういう人たちが本当はどんどん出てくるべきなんでしょうけど。
今村 こういうことが失われてしまったのは経済界だけなんですよね。例えば音楽業界・エンターテインメント産業、これの中で重要なのは人の幸せに貢献しますとか、インスピレーションを与えるとか、幸福という定義を与えるとか、あと人生のストーリーを伝えるとかね。そういうことを担っていた産業なので、アーティストっていうのはそっち側に全生命を賭けてきた人種なんです。
今村 自分の身も削り、お金もバンバン――マイケル・ジャクソンなんかヤバイくらいお金使ってますからね。それで夢みたいなものを与え続ける、それによって人が繋がる、人が世界観を持てる。それがなければやっぱり存在する意味がない。経済界もやっとクリエイティブなデザインとかアートとかを表現できるようになってきた感じがしますね。
●日本の音楽シーンの未来
enmono これからは我々の時代だと。我々っていうのは、心の部分を価値に変えていくというのが基本になっていくんじゃないかなと思うので、効率性よりも人の心の部分ですね。そこが大きなポイントになってくると思います。
enmono 最後の質問になるんですけど、日本の音楽シーンの未来について今村さんに伺えればと思います。
今村 「日本の」っていうのを外してもいいですか?
enmono はい。
今村 それで「世界の」って言おうとしたら、三木さんは「宇宙の」だろって言うと思うんですけど、そういうことだと思うんですよね。コミュニティって「日本」っていう共同幻想もあるし、「世界」って言った時に「地球」みたいな共同幻想もあるけど、ほんとはそんなに分かれてないんじゃないか。そういうユニティとか一体感とか、「これはこれでいいのだ」「すべてはよし」だというのを実感できるのが、僕は音楽だと思っています。
今村 それは音楽がライブだとか、昔から人が集まって音楽をやると、振動が揃うんですよ。それは気持ちのいいことで。振動しているっていうのは重要なことで、そうすると共感みたいなものが生まれるんですね。シンクロみたいなものが生まれると人っていうのは不思議でヴィジョンが見えるんですよ。
enmono 繋がっていると?
今村 繋がっていると感じられるんですよ。これは皆さん体感があると思うんですけど、科学的にも正しいことだというのが最近わかってきて、すべては振動であると。そういうことに貢献していければいいなと思いますし、逆に言うと音楽を一人で、自分の世界だけで聞いているような状況よりも一体感のある環境を共有していくみたいなところに繋げていきたいです。
enmono すごい壮大なコンセプトですね。音楽というものを単に音楽ではなくコミュニケーションのツールとして。
今村 そうですね。これはアウェイクニング・デバイスといって、今、旬な言葉で言うとフォースの覚醒――覚醒デバイスです。
enmono 貴重なお話をありがとうございます。西村さんもありがとうございます。
西村 ありがとうございます。
enmono これからの展開を楽しみにしたいと思います。
対談動画
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