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「IoTとイノベーションの罠 」 〜なぜ企業はIoT市場でレッドオーシャン祭りに突っ込むのか?〜(後編)(2016-09-21投稿)

※過去のブログ投稿を転載しております。情報はその当時のものになりますこと、ご了承ください。

前編より

さて、「IoTのイノベーションの罠(前篇)」から続いて、論を進めたいとおもいます。さて、どうして企業は「Me-tooイノベーション」に陥ってしまうのでしょうか?その大きな原因は、企業の意思決定プロセスと予算にあります。

意思決定プロセスと予算確保のため

 組織で運営している企業の中では、イノベーションを起こすためには予算確保がマストです。サラリーマンであれば、何をするのも「まず予算!」、予算がなければ何もできないという思考に陥ります。

 したがって、まず自分の上司である課長、その上の上司である部長、その上の上司である統括部長、その上の上司である事業部長、その上の執行役員、その上の上司である専務や社長を説得するため、漏れ・ダブリのないMECEなロジカルな説明が必要になります。

 したがって、以前の記事である、「イノベーションにおけるロジカルシンキングの罠」で書いたように、ロジカルシンキング的なプロセスで新規事業や、自社製品開発を企画します。

 多重構造の組織の中の人間を「感情」ではなく、「ロジカル」に説得する必要があります。ロジカルシンキングのもっとも重要なポイントは、ロジックを組み立てるファクトや前例があること。つまりは似たような製品・サービス・ビジネスモデルが存在しており、すでにそれが成長し収益を上げていることが前提となります。

 その前例が結果はともあれ、外から見ると派手で何となくうまくいってそうな感じなのかもしれませんが、それらの事例を詳細に調べてみると、あまりうまくいっていなかったり、あるいはすでに競合が雨後の筍のごとくたくさん現れていたりします。

 したがって、Me-too(僕も、わたしも)イノベーションがもっとも効率の良い先行事例をお手本にすることは極めて安全で、ある意味でまっとうな選択肢となります。

助成金確保のため

 中小企業で何らかのイノベーションを起こすため、多くの中小企業の方々が活用するのは助成金です。モノづくり関連の助成金は、直近の収益としては見込めないが、将来必要と思われる技術に投資するものや、まだ市場があるかどうかわからないリスキーな製品開発などに対して国民の税金から支払われるものです。

 しかし、中小企業経営者なら、すでに何度も体験されているように、助成金の合否の審査をされている方のほとんどは、行政から委託された専門家の方々です。

 それら専門家の方々を批判するわけではないのですが、まだこの世の中にない非常にイノベーティブな製品やサービスに対しての助成金の合否判断をできることの出来るような方は、ご自身でベンチャー企業を起業された経験のある、いわゆる実践知を持ち合わせている方ではないと難しいのではないかと思います。

 実際にわたしの仕事は中小企業の自社製品開発を支援する仕事なのですが、そのようにして開発した製品が「ぶっ飛び」なコンセプトで、イノベーティブであるものであるほど、実際のところ助成金を取れる可能性は低くなります。

 専門家の方々の多くは、既存の経営戦略論、既存のマーケティング理論を勉強されているとはおもいますが、それらの理論とロジックを越えたところに、全く新たな新たなイノベーションがあるわけです。

 世の中に無いイノベーティブな製品や、サービスに関する助成金の可否を判断するにあたり、一般的な経営学の考え方をベースに判断するのは、極めて難しいのです。

 皮肉なことに、イノベーションを起こすべき助成金の判定の最も信頼すべき基準となるのは、「すでに市場に同じような製品が投入されており、その製品が成長しているという」Me-tooイノベーションそのものであり、イノベーションとは真逆の前例というエビデンスなのです。

 結果として、助成金として採択されるプロジェクトから輩出される製品やサービスは、イノベーションとは程遠いものになるという事になります。

で、結局何がイイたいのかというと・・

イノベーションはThink(考える)からFeel(感じる)へ

 これからの製品やサービスのイノベーションゴール設定は、ロジカルシンキングに代表されるように、ロジックにロジックを重ね、考えに考えを重ねて設定するのではなく、「これを生み出したい、これを達成したい」という極めて個人的な感情を、自分自身で感じる「Feel」(感じる)ところから始まります。

 そうしない限り、「ロジカルシンキングの罠」から抜け出せないので、全て予定調和の製品・サービスに終わってしまいます。

 それでは本当に革新的な製品・サービスにいたることができずに、一気にレッドオーシャンの中に突入する羽目になるのです。

ロジックのつみ上げで製品企画のゴールに到達する従来的なイノベーション手法


 それに対して、イノベーションのゴールをThink(考える)ではなく、自分自身の心がワクワクするものを、自分自身で敏感にFeel(感じる)ことができれば、そのワクワク縛りで製品やサービスのゴールに設定することができます。

 普通に考えれば、このような感情中心のゴール設定では、大きな組織ではまず意思決定の段階で企画自体がスクリーニングされて、省かれてしまいます。

 しかし、自分自身の「ワクワク」した感情が本物であり、それがダイレクトの自身の情熱に変換された場合はどうでしょうか?そのワクワクを達成させるため、ひとはどんなことをしてでもそのゴールを到達しようとします。

 自分のワクワクした感情に基づいて、イノベーションのゴールを設定した後、そこから逆算的に「ロジカルシンキング」のアプローチを用い、漏れなく・ダブり無く様々なデータやファクトを積み上げて、事業プラン全体を完成させるのです。

開発者の情熱のままに欲しいと思うゴールを設定し、そこから逆算して、技術、資金、市場、などをロジックで組み合わせるイノベーション手法


 この両方の手法を使って生み出された企画は、見かけ上は一見同じように見えます。ただし、後者の自分のワクワクの情報を見つめ、自分の感情からワクワクしたゴールを設定するというのは、ほとんど外部の情報に影響されない、完全にオリジナルな情報に基づいて生み出されたイノベーションです。

 後者のパターンは、外部のどこにも情報はなく、完全に水中下にあるサブマリンな情報なので、取り出された製品やサービスはとてつもなくイノベーティブなものになる可能性を秘めています。ですので、まずは競合がなく、レッドオーシャンになりにくいイノベーションになります。

 さらに、設定されたゴールは、ロジカルシンキングのThink(考えた)に基づくゴールよりも、はるかにぶっ飛んだ(イノベーティブ)なゴールに設定されているものになります。

 企画自身は、自分の「情熱縛り」なので、どんな障害にあっても、さまざまな組織の障害があってもそれを乗り越えようともがき、最後の最後にはそれを乗り越えて会社側に自分の企画を認めさせるように活動を始めるのです。

大企業で、同志を集めよ!予算獲得の悪巧みをせよ!


 中小企業なら経営者の決断一つで予算の確保から、試作品を生み出すことまで実にフレキシブルに意思決定をおこなうことができます。


 ですので、このイノベーション創出手法は中小企業の方が親和性は高いのです。実際、我々のzenschool(ゼンスクール)を卒業された中小企業の方々は、実にイノベーティブな製品やサービスを生み出し続けています。


 一方、大企業の場合、すでに社内でもっている特許、技術、経営リソースは非常に大きいので、取り出されたイノベーション企画が市場のスイートスポットを確実に捉えることができれば、中小企業と比較すると、まさに市場規模的にも壮大なレバレッジの効く製品やサービスを取り出すことが出来ます。

 ではそのような、「情熱縛り」で取り出したアイディアを、どうやって大企業の中のさまざまな障壁を飛び越えて実現させるのか。

 これはなかなかハードルが高いのですが、我々が支援している大企業の事例からご紹介しますと、まずは同じ志をもつ同志を社内であつめるのです。

 このとき注意しなければならないのは、集めるのはそれぞれ異なる企画のプロジェクトオーナーのみであることです。

 一つのプロジェクトに、賛同するメンバーをあつめる秘密会議はまた別にやれば良いのです。プロジェクトオーナーとそれを協力するメンバーの会議は、メンバーはプロジェクトオーナーに依存してしまい、具体的な解決策が生まれにくいのです。

 ですから、それぞれの参加者が、まさに一人親方のようにプロジェクトを推進するようなパワフルなメンバーのみ集めます。

 理想的には4人程度の限定的人数の、一人親プロジェクトオーナーをあつめます。そして、各プロジェクトオーナーは、自分のプロジェクトの進捗を、そこでお互いに報告し合うのです。

 プロジェクトによっては上司に否定されて、全く活動できないプロジェクトや、予算がとれず動けない状況が発生するでしょう。そのような、組織内部でのお困りごとを、一人づつここでシェアします。

例えば・・

 A:「自分のプロジェクトでは部内の予算が確保できずこまっている。。」
 B:「それならば、最近できた「◯◯新規事業創出予算制度」に申請すればとれるかもよ?」
 A:「えっ、なにそれ、どうやって申請するの?」
 B:「えっと、先日僕も申請したから、申請書の写しをあげるよ。」
 A:「ほんと、助かるわ!」

とか、

 A:「ひとまずプロジェクト課内予算である程度順調にすすんだが、次のステップでプロジェクトを引き受けてくれそうな予算を出してくれるオーナーが見つからず、予算ショートでこまっている、上司の◯◯部長も渋くてね・・」
B:「それなら、☓☓事業部の統括している、◯◯執行役員は僕のテニス仲間なんだが、Aさんのプロジェクト、ちょうどその事業部の本年度の方針にはまりそうだから、一度紹介しようかね?」
 「あと、きみの上司のその◯◯部長、実はその昔、そのテニス仲間の◯◯執行役員の部下だったらしいぜ、◯◯執行役員経由で、君の上司にちょっと言ってもらったら?」
 A:「おお、ぜひ頼む!」


 ・・・そんな感じで、一人親方のプロジェクトを互いに援助していく、互いの背中を互いに守る、援護射撃をお互いにする流れ創るのです。まさに予算獲得のための企画(悪巧みとも言う)会議です。

 自分のプロジェクトを絶対に達成したいという強い情熱があれば、社内政治などを上手く活用しつつプロジェクトを推進できるのです。

 このような流れをつくるには、参加する一人親方プロジェクトオーナー同志のチーム力が必要になります。メンバー同志がお互いに太い絆で結びついていることが重要で、チームビルディングが極めて重要になります。

 チームビルディングを十分におこなわないと、そのような流れを作ることが出来ません。チームビルディングのためには、お互いの課題をシェアするような1泊2日の合宿をやるなどして、信頼感を醸造していくのが良いでしょう。

 われわれのzenschool(ゼンスクール)ではこの4人一組でチームビルディングに、12時間という時間をかけて、お互いの信頼関係を作り出す作業を入念に行っていきます。

外部情報を参考にしない製品開発はあり得るか?

 大企業のすすめる製品開発において、外部情報を全く参考にしない製品開発などありえるわけはないと考えていらっしゃる方もいるかとは思います。

 しかし、実はすでにグループ全体で10万人を越えるような大企業も、既存の海外からもたらされたロジカルシンキングをベースにしたイノベーション創出のアプローチに限界を感じ、そのような個人の内的な感情を基にしたイノベーション製品開発にチャレンジされ、成果を出しつつあります。

 日本のような保守的な風土の中で、そのようにチャレンジングな取り組みをされる大企業が出てきたことを非常に興味深く見ています。

 大企業がそのような製品開発手法を取り入れ始めているので、オーナーの権限が強く、社長の決断でなにから予算確保から試作品製作までできてしまう日本の中小企業がそれをやらない手はないのではと考えています。

 真のイノベーティブな製品開発は、完全にオリジナルである個人の中にあるワクワク感や、ネガティブな感情から出てくるものです。その完全オリジナルな感情と自社あるいは、自分の持ち合わせているスキル(またはリソース)を掛け合わせることで、イノベーティブな製品を企画し、先にゴールを決めてしまうという製品開発の手法をオススメしています。

 そんな、個人の中のワクワク感や、ネガティブな感情をどうやって製品開発につなげたらいいのかわからない!とおっしゃる方は、こちらの以前のブログ「イノベーションにおけるロジカルシンキングの罠」でも書いているのでそれを参考にしてくださればと思います。

zenschoolの中で使うマインドフルネス瞑想用チャイム


 われわれの手法は、マインドフルネス瞑想と我々が開発した、ワクワク・トレジャー・ハンティングチャートというツールを使いながら、

完全にイノベーティブな製品やサービスを開発し、それを自社が運営しているクラウドファンディングzenmono’(ゼンモノ)へ製品を掲載してマーケティングと市場性をチェックし資金調達を行った後で製品開発を行うという完全にオリジナルなプロセスを採用しています。

 そのプロセスを実際に体験できるのが、当社がおこなっていいるzenschool(ゼンスクール)で、当初は中小企業の経営者が多かったのですが、既存の製品開発プロセスに限界を感じた大企業の製品開発担当も参加されるようになってきました。もしご興味があればご覧になってください。

 相談会なども随時開催しておりますのでもしよかったら覗いてみてくださいませ。


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