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“おてつたび”は地域を救う!?その仕掛人に話を聞いてみた。

旅先でお手伝いをしたい人と、お手伝いをしてもらいたい人をつなぐというユニークなビジネスモデルで注目される「おてつたび」。「お手伝いをしながら知らない地域を旅して気づいたら自分にとって”特別な地域”になっている」という願いを込めた事業を実現したのは、自身も三重県尾鷲(おわせ)市という地方出身の代表取締役CEO 永岡 里菜さんです。
永岡代表とJAグループの出会いは、創業間もない2019年5月。JAグループがスタートアップ企業を支援する「JAアクセラレータープログラム」におてつたびを採択し、支援しました。全農広報部員Yもその出会いに立ち会ったメンバーのひとりです。今回はコロナ禍という逆風をどう乗り越えたか、そしておてつたびの今後について、お話を聞きました。

広報部員Y(以下「Y」):おてつたびの事業内容について教えてください。

 永岡代表(以下、「永」):「おてつたび」はお手伝いと旅を掛け合わせた造語なんですけども、地域の短期、季節的な人手不足で困っている、収穫どきの農家さんだったり、地域の方々と、農業であったり地域に興味のある方々が出会えるweb上のマッチングプラットフォームになっています。

もう少しわかりやすくお伝えすると、短期バイトじゃないですけども、スポットで人が足りないっていうときに、おてつたびを活用して、地域や農業に興味がある人を全国から募ることができるという内容になっています。

Y:私が最初にお会いした時(2019年5月)はおてつたび先はホテルや旅館が主でした。現在のおてつたび先で農業は全体の何割くらいですか?

永:今は全体の4割くらいが農業です。ホテルや旅館などが4割。2割がその他といった感じです。

Y:おてつたびは旅をしてこそのサービスですが、コロナ禍で移動制限を伴う緊急事態宣言などがあり、大変な影響を受けたと思います。コロナ禍でおてつたびにはどんな変化がありましたか?

永:大きな変化としては2つありました。
1つめは参加者側の属性です。コロナ禍以前は7割くらいが大学生でしたが、いまは半分くらいが大学生で、あとは多種多様な人に利用いただいています。会社員や50〜60歳以上の人もいらっしゃる。理由としては、旅先の選択肢から海外がなくなった中で、国内に目を向ける人が増えた、というところ。あとは、コロナ禍によってもっと自分の人生であったり、やりたいことを自問自答し、もっといろんな人々や地域と触れ合いたい方が世代を超えて増えたっていうのもあるのかなと。

もう一つの変化としては、農家さんから(外国人)技能実習生が来られなくなってしまって、人手不足の相談いただくことがありました。それでおてつたびを使っていただくことも増えたというのはありますね。

Y:コロナ禍は事業に痛手ではなかったですか?

永:おてつたびは移動を伴うサービスですので、やっぱり当時、初めて緊急事態宣言が出たときですと、移動することそのものがネガティブにとらえられたというところはありました。でも一方で、農家さんなどからは、技能実習生が来られなくなった関係で人が足りなくて困っているという相談をいただくことがすごい増えたんです。

コロナ禍が始まったのは春先でしたが、農家さんにとっては、作付けであったりとか、そこに人がいなかったら一年の収入がけっこう打撃を受けてしまうような重要なタイミングでした。だから相談いただくことが多く、できることは何かとを考えました。そこで当時は「おてつたび+」という名前で、本来お手伝いする先として登録していただいていたホテルや旅館の従業員を農家さんのところに手伝いに行ってもらうサービスを開始しました。

いざ募集したら、意外にも飲食店の方だったり、想定していなかった方々から参加したいというご連絡をいただいて。理由はもちろんお仕事がないから、ですが、それだけじゃなくて。「食の現場にいるので、実はもともと一次産業に触れてみたかった」という人がいたり、ホテルや旅館さんの従業員の方もお食事を提供している中で、「もっと農家さんの大変さとか思いとかを知りたい」という想いで参加されている方もいらっしゃいました。

Y:コロナ禍の影響は悪いことだけじゃなかったということでしょうか?

永:そうですね。おてつたびがあったからこそ、困っている人同士のつながりができたり、縁が生まれたりと、コロナの影響は悪いことだけじゃなかったと感じています。

幅広い年代の“おてつびと”が参加(北海道・WFPダチョウファームにて)

Y:参加者の属性としては、学生が半分くらいとのことでしたが、世代別の比率はどれくらいですか?会社単位でのニーズでもあると聞きました。

永:登録者数でいえば、半分が学生さんです。もう半分のうち20代が4割くらい、30代が2割くらい、40代が2割くらい、それ以上が2割ぐらい。
 
Y:学生以外の方はどんなモチベーションで参加しているのでしょう?

永:人にもよりますが、話を聞くと、地域のお仕事をして「ありがとう」という言葉をもらえるのがうれしいということはひとつあります。
あとは、おてつたびを通して、地域のいろんな年代の方との交流がおもしろいと話す人がいました。仕事を定年したあとは、他者とのつながりがどうしても作りにくいようでして、おてつたびを通じて人や地域とのつながりを作りたいとおっしゃっていました。

Y:社会人が仕事をしながらおてつたびをするのは難しいと思いますが、法人単位でおてつたびに取り組んでいる事例も あるようですね?

永:おてつたびは1週間〜10日間だったり、2週間未満の期間が多いのですが、会社員の方がなかなか休みも取りにくく、使いづらいという課題が創業当初からありました。所属する企業の後押しも得ながら、会社員の方が使える仕組みを作れないかなと思って、企業との取り組みをいま始めています。

Y:最近でいえばワーケーションなどのニーズもありますよね?

永:そうですね、個人でおてつたびに参加している人で、例えば午前中だけ農家さんを手伝って午後は仕事をしてとか、ホテルや旅館で朝と夜だけお手伝いして、日中はお仕事している、という方はいらっしゃいましたね。

北海道の「WFPダチョウファーム」でブロッコリー収穫

Y:農業の現場でのおてつたびの事例について教えてください。

永:北海道のブロッコリー農家さんです。コロナ禍で技能実習生が来られなくて困っていて、去年は全国から10名くらいがその農家を訪れて、一緒にブロッコリーの収穫をしてもらいました。その中にちょっとオシャレな大学生の男の子2人組がいて、農業なんてやったことない、だけど興味があるといって挑戦していました。彼らは農家さんと一緒に作業する中で、すごい地域に溶け込んでいって、農業の魅力にはまって、最終的にわが社のインターンもしてくれるまでになりました。農業に関わることによって、農家の大変さや現実を痛感して、農家さんへの尊敬の念が生まれた、という話も聞いています。

WFPダチョウファームの冨安さん(右)が愛媛の農家さんをお手伝い

 ひとつおもしろかったのが、受け入れ事業者である北海道の農家さんが、農閑期に自身がおてつたびを使って愛媛県の農家さんのところにお手伝いに行かれていたことがありました。別の農家さんの生産現場に行く経験はあまりなかったとのことで、おてつたびを使っていろんな農家さんの現場を知ることができたようです。逆に受け入れ先の方からすると、農業のことを少しでもわかっている方が来てくれるとありがたいという事例も出てきています。
(この農家さんの体験記はこちらでもご覧いただけます。https://note.com/otetsutabi/n/n86bf39215d5d
 
Y:本質的に農家さんがおてつたびに期待していることってなんでしょう?

永:人手不足を解消したいという期待は大前提として、それだけではなくて、普段は触れ合わないいろんな世代の方が来ることによって、自分たちと異なる視点であったり、自分たちが気づかない自分たちの魅力であったりとか、農業全体に対して今後を担う次世代の人材を育てたいという欲求があると思います。
 
Y:JAでの取り組みも増えているのでしょうか?
永:はい。最新の事例だと広島県ではJA広島中央さん、JA三原さんと提携しています。JAの管内でニーズを拾って、そこに対しておてつたびに登録する、みたいな感じですね。今年に取り組み始めて、来年の収穫期にもお願いしますと言われています。

JA三原さんとの取り組みは個人的にいいなと思っていて、JA三原管内の、尾道市の瀬戸田というエリアはレモンの産地として有名な地域です。冬は観光の閑散期である一方で、レモンの収穫は一番忙しいんですね。観光業界では、冬に人が来てくれる流れをどう作れるか、が課題の一つでした。おてつたびを通じて、冬に人がくる流れを作って、農家さんのお手伝いをして、お手伝いで得たお金を観光にも還元するというようなモデル作りを今模索しています。
 
Y:農家やJAがおてつたびを利用する際の期待はありますか?

永:わたしたちのコンセプトやビジョンに共感していただけることは大前提です。雇用主として雇ってやってるんだぞ!という心持ちだと、どうしてもそれは滲み出てしまう部分があるかと思います。

もちろん関係性としては雇用主が上になりがちかもしれないんですけれども、今の時代はやっぱり双方が対等でなければ、なかなかいい仕事ができにくくなってきているのかなと思っています。そういった意味でもちゃんと、わたしたちのビジョンに共感していただきたいですが、ただ、構えなくても全く問題ないです。

農家さんからときどき、わたしたちのビジョンに共感するからこそ、受け入れる側として、参加者の期待とか理想にあうかどうか不安だという声も逆にいただくんですが、そこは構えなくてもまったく問題ないのかなと思っています。共感していただけるのであれば、わたしたちも伴走しながら、どうやったらいい受け入れができるかお伝いさせていただきます。

「仲間」として接することがよい関係を築くポイントです

そしてもうひとつお伝えしたいのが、もてなさなきゃいけないという感覚は全然持たなくて問題ないと思っています。むしろ参加者の方も地域の方と仲良くなりたいと思って来ていますので、どちらかというと、お客様というより、ほんとに仲間という形で、日常をともにしていただけると、すごく良い関係ができるのかなと思っています。

おてつたびで知った農家さんの農産物を買っていたり、地域に何度も訪れていたりとか、中には就農された方とかも出てきているんですけど、そこはやっぱり一緒に汗水垂らして仲間になったからこその関係性なのかなと思っています。
 
Y:最後におてつたびの今後の展開について教えてください。

永:いろいろあるんですけど、わたしたちの思いとしては農家さんを筆頭に、地域にはほんとに素敵な人やかっこいいみなさんがたくさんいるので、そういう方々をまずは知ってもらってファンになってもらえるような形を作っていきたいと思っています。

これから人が減っていくのは目に見えているので、一人が一役じゃなくて、二役、三役になっていきながら、ときどき、手伝いに来てくれている人が農家さんのものを買ってくれて、経済をまわしたりとか、そういった形で一人が何役にもなっていきながら、もっと地域と地域が支え合っていけるといいなという思いで事業を展開していきます。
 
Y:これからコロナも落ち着いて、ニューノーマルな時代になって、働き方の再定義や、ローカルの魅力再発見という流れが感じられるなかで、おてつたびは非常に意義のあるプラットフォームだと思っています。引き続き今後の発展のために伴走させてください。

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