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少女漫画の原点!リボンの騎士から見るセクシャルマイノリティの魅力を語ってみる

今回は手塚治虫の代表作のひとつ
少女マンガの大古典ともいえる『リボンの騎士』をご紹介します

少女ストーリーマンガの原点
日本のストーリー少女漫画の第1号であり日本中の女の子を虜にしたと言われる傑作をちょっと深堀りしてみます。

少女マンガの金字塔


手塚治虫が「少女マンガ」と聞くと「あれ?」って
思うかも知れませんが実は当時の少女漫画を描いていたのは、
女性漫画家ではなく男性漫画家たちだったんです。

手塚治虫の「リボンの騎士」を筆頭に
横山光輝 「魔法使いサニー」(昔はサニーでした)
赤塚不二夫 「秘密のアッコちゃん」他、石森章太郎、藤子不二雄も描いています。

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これってつまりはトキワ荘組ですね。


実は日本の少女マンガの原点はあのトキワ荘にあったとも言えるんです。
これには理由があって当時の若手マンガ家たちは
少年誌には連載枠がなくて仕事がありませんでした。
なのでまだブルーオーシャンだった少女マンガを描いていたわけです。
結果的にこれによって少女漫画のカテゴリが全体的に底上げされ
ジャンルとして大きく発展していくことになるんですね。

ここら辺は後で触れるとして

その時に先頭を走っていたのが「リボンの騎士」

日本初のストーリー少女漫画として登場したのが
この「リボンの騎士」なんです

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登場は1953年、
戦後間もない当時は女の子はおしとやかにと言われていた時代、
いわゆる箱入り娘の時代において
女の子が思い描くファンタジックでロマンチックな夢が散りばめられていたマンガとして「リボンの騎士」が目の前に現れてきたんで、そりゃあ大変。
戦後育ちの少女たちの心をガッチリ捉え瞬く間にブームになりました。


そして
後の少女マンガの方向性を大きく変えてしまった画期的で歴史的傑作になっていきます。


宝塚の影響


この作品は手塚先生が宝塚に影響を受けて作られたことは有名であり
まさに漫画版宝塚といって過言ではありません!
手塚先生も著書で宝塚のことを
「夢の世界みたいなもの」
「それが、僕の初期の作品のすべてを支配している」
と明かしているように目の中にキラキラと輝く星を描く表現方法や長いまつげなどはまさに宝塚歌劇そのもの。

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そして。毎回、3色3ページ、と2色4ページのカラー構成で
目の覚めるようなカラー表現は絢爛豪華

まぁとにかく煌びやかで美しい、

可愛いそしてカッコイイ!

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ストーリーも生活感溢れるマンガが主流だった時代に
ロマンは男だけのものではない!ってな感じで
そのロマンに女の子たちが目を輝かせて
このリボンの騎士に憧れたわけです。

もうたまらんかったでしょうな。ほんとに。

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あらすじ


そんなリボンの騎士のあらすじを簡単に説明しておきますと…

主人公はサファイアというお姫様
実はこのお姫様、天使のいたずらで
男女両方の心を持って生まれてきた曰くの子
そして国王の跡継ぎとなるために姫でありながら王子として育てられます
女の子であることを知っているのは王宮で一部の者のみ

コメント_2020-01-09_122932

唯一早朝の一時間だけ女の子になることを許されているんですが
こっそり街へ出たときに隣国の王子に禁断の恋をしてしまいます。

そんなある日、サファイアの父、国王が殺されてしまうのですが
その犯人があの一目ぼれした隣国の王子だという謀略にあってしまいます。

冤罪なんですけど
罪を着せられた隣国の王子からは恨まれてしまい
さらに女王が自白剤を飲まされサファイアが王女であることを喋ってしまいます。

国民を欺いた罪として幽閉されてしまうサファイア
お父さんは殺されるし
好きな人には恨まれて
国民にはウソつき呼ばわりされるし
もう大変なことになっちゃうわけですよ。

父である国王を殺したのは誰か?
好きになった隣国の王子に誤解を解いておきたい
なにより女性として好きな人に本心を伝えたい

愛する人から恨まれながら
幽閉されているところから抜け出し
謎の剣士として陰謀を暴いていくというストーリー


どうですかこの切なさを秘めたロマンティックラブストーリー

もうみんなメロメロです。
そりゃあトキメキますって、続き気になりますもん。

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まさにここから少女マンガというものの夜明けが始まるんですね。


少女マンガの変遷


このリボンの騎士の登場により
昭和30年代に活躍した水野英子先生に大きく影響を与えます。
水野英子先生といえばトキワ荘にいた漫画家の紅一点
「女版手塚治虫」と呼ばれ
日本の女性少女漫画家の草分け的存在で、
現在の少女マンガの基礎を確立させたとも言っても過言ではない人物
後の少女漫画家達に与えた影響は計り知れません。

そして後に「花の24年組」と評される萩尾望都先生に至っては
手塚治虫に憧れてマンガ家を目指しています。

「花の24年組」とは昭和二十四年頃に生まれた少女マンガ家たち、
萩尾望都先生、竹宮惠子先生、大島弓子先生などを指し
彼女らの登場が「少女マンガに文学性を与えた」と評されるようになり
それまでの少女マンガの常識を覆し一大ムーブメントを起こしていくんです。

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今日の少女漫画が幅広い層に受け入れられる文化として
発展していく礎になっていくわけですね。

そして
70年代には池田理代子先生が「ベルサイユのばら」を発表し
この宝塚歌劇の舞台が、空前のヒットを飛ばしここから少女マンガというジャンルが一般化していきます。

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そんな少女マンガの歴史を作ってきた巨匠たちが
こぞって影響を受けた作品がこの『リボンの騎士』

まさに『リボンの騎士』が「少女マンガ」の起源といっても
決して過言ではないでしょう。

余談ですが
萩尾望都先生の「トーマの心臓」 「ポーの一族」
わたなべまさこ先生の「ガラスの城」は必読です。
ぜひ読んでおきましょうね。

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ちなみにわたなべまさこ先生は御年91歳で今年6月に新作を発表している
とんでもないお人です。創作意欲がハンパじゃないですね。

あ、水野 英子先生のファイヤー! も読んでおきましょう。
漫画史的に見るとここら辺はぜひとも押さえておきたい逸品です

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さて話は戻ります。


戦う女はなぜ魅力的?


さてこのリボンの騎士、最大の特徴と言えば
「女の子が男の子のように振る舞う」という事ですが
これは当時のファンレターの多くが
「私も男の子の姿をしてみたい」という読者の手紙が多かったそうで、
当時の女の子からしてみれば男の子のように振る舞う事自体が夢のような話だったことが伺えます。

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今では男勝りの女性なんて当たり前ですけど
当時としては男装する女性はかなり画期的なものであったわけです。

時代によってジェンダーの定義は変わっていくもので
2000年代あたりになるとセクシャルマイノリティが市民権を得るようになり
その方々が幼少の頃に「リボンの騎士」に憧れたという声を耳にするようになります。

これはリボンの騎士が女性だけでなくセクシャルマイノリティの方々にも
影響を与えていたということではないでしょうか。

ある意味でメタモルフォーゼであったり、
不完全さや何かが欠損していることは手塚作品の一貫したテーマであり
そこに読者は無性に惹かれてしまうんですね。


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サファイアが単なる活発な女の子というだけでなく
なぜ女性が王位継承できないのかという女性差別をサラリと描いてみたり
性別の枠を越えた精神性が描かれていたからここまで読者を惹きつける要因になったのだと思います。


そして強い女の子という設定は
奇しくも男の中でも潜在的に持っていた一種の憧れを
掘りおこしてしまったという側面も併せ持ってしまいます。
強い女性でありたいと願う女性が増えた半面
皮肉なもので同じ割合でいわゆる草食系男子も登場することになっちゃうんですね。

つまりリボンの騎士は草食系男子の生みの親とも言えるのかも(笑)


アンバランスな魅力


リボンの騎士の魅力というのはそのアンバランスに溢れた設定にあります
白馬の王子様に憧れるロマンチシズムと、
戦う女の子という対局のバランスであったり
一人称をボクと呼ぶ矛盾をはらみながらも
刹那的な淡い恋の物語にもキュンキュンしちゃたり。
青春ロマンや見果てぬ夢など
男女の間で揺れ動き苦悩する主人公の重厚なストーリーとラブロマンス。

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このアンバランスな特徴というのは、
後の手塚作品にも色濃く継承されていくことになります。
いわゆる両性具有的なキャラクターは「どろろ」「MW」などにも登場し
手塚キャラとしては結構頻繁に露出していくことになります。

これらは不思議なエロチシズムを醸し出すキャラクターとして物語に
深層的な奥深さをもたらす役目を担っており
作品自体に異彩な輝きを放ちつつ
ストーリーのアクセントとして重要な役割を持つ
手塚マンガの神髄としてその手法を確立していくことになります。

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ということで
単なる少女マンガというだけでなく
このリボンの騎士の登場は手塚作品のターニングポイントだけでなく
後のマンガの歴史をも大きく変えていく
文字通り歴史を変えた金字塔的作品なのであります。


複数のリボンの騎士


この「リボンの騎士」は実は4種類存在します。
一つは1953年の初めて連載された少女クラブ版
そして1963年に『なかよし』で連載されたバージョン
この2つさえ押さえておけばOKです。後者がいわゆる一般的に
「リボンの騎士」とされているもので少女クラブ版のリメイクです。


ちなみに後の2つは
1958年に少女クラブ版の続編として書かれた「リボンの騎士」ですが
これは後に単行本化の際に『双子の騎士』と改編されています。

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もう一つは
1967年の少女フレンド版で舞台はなんと25世紀!
タイムマシンで恋をするとんでも話になっているので
こちらはもうむちゃくちゃなんで忘れてしまいましょう(笑)


というわけで抑えるのは少女クラブ版となかよし版です。

違いはというと、これが結構違うんですよ。
登場人物やストーリーも違うし
名前が違ったり国名や表記も違うところもあります。
細部に至っては説明できないくらい違っているのでここでは説明しません。


すごい簡単に説明すると
一般的に「リボンの騎士」と言えば後者の「なかよし版」で、こっちの方がより女の子らしく少女漫画らしくなって親しみやすく読みやすくなっていますね

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アニメもこっちのバージョンで採用されていますしね。
アニメも原作と違うところが沢山あるんですけどここでは触れません。

最初の少女クラブ版の方はというと元祖宝塚って感じですね。
より宝塚要素が強く宝塚臭がプンプン漂っています
イメージでいえばこの
「少女クラブ版が舞台的」
「なかよし版が映画的」な構成だと
思っていただければわかりやすいかと思います。

おすすめの読み方はなかよし版から入って少女クラブ版ですね。


このリボンの騎士も例にもれず毎度おなじみの複数回の改編を経て
いわば“最終決定版”として講談社の「手塚治虫漫画全集」に、全3巻として収録されております
手始めに読むのであればこの「手塚治虫漫画全集」がおすすめです。


まぁなんせこのリボンの騎士もなかなかに複雑怪奇ですので
コレクターズアイテム的なものもたくさん存在します。

ちょっとご紹介しておきますと

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リボンの騎士 《なかよし オリジナル版》 復刻大全集 全4巻
こちらは50数年ぶりの復刻で改編前の完全オリジナルです。

連載時そのままのフルカラー、全扉絵付き、詳細な解説と図説が収録されておりデジタル・リマスタリングされて超高画質の豪華仕様

しかも4巻目は続編の『双子の騎士』となってて
カラーページの割合がなんと、全体の約半分(156ページ)もあり、
凄まじい大全集になっています。マジですごい!

手塚先生の描く当時のカラーはハンパじゃないですからね
そのカラフルさ、美しさは、モノクロの単行本とは全く違います
めっちゃ読みたい! ボクなさらっとしか見てないんですけど
めちゃくちゃキレイなんです。もう凄まじい美しさでした。

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これはぜひ手に入れたいアイテムなんですけどいかんせん高い!
笑っちゃうくらい高いです。


手塚治虫先生ってほんと、ほとんど単行本化の際に自ら修正・改稿しちゃうんで大変。
ファンからするとありのままの姿が見たいと思うものですが
これは、「それぞれの時代感覚にマッチした作品を、読者に贈り続けたい」という、あくなきサービス精神の表れから来ているんです。

これだけ終わった作品に手を入れる作家もいませんよほんと。
結果的に雑誌連載版と単行本に、
それぞれの個性や特色ができちゃってどれが本物なのか分かんなくなっちゃうというお粗末ぶり(笑)。


このリボンの騎士も改編前の完全オリジナルですので
極めて貴重な作品となっております
機会がありましたらぜひご覧になってみてください



続いて
リボンの騎士 [少女クラブ カラー完全版] (日本語) 大型本
これこそが『リボンの騎士』の原点

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同じくめちゃくちゃ華麗なカラーによる「少女クラブ」オリジナル版を完全収録しております、
雑誌連載時そのままのカラー版ですから手塚ファン必携の豪華本ですね。

これもなかなかお高い設定になっておりますけど
まさに日本少女漫画の原点の記録としてぜひとも拝んでおきたい逸品となっております。


そんなマニアックなものじゃなくていいという方は
講談社版の単行本かキンドルでご覧になってみてください

というわけで
今回は少女マンガ史に残る傑作「リボンの騎士」のご紹介でした。

ありがとうございました。

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