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世界中にコアなファンを持つ カルト・マンガの傑作「ばるぼら」を読む。

手塚治虫と言えば「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」に代表されるように児童漫画家のイメージがあろうかと思いますが
実はそうではない作品も多数残しています。
むしろ世に知られていないだけでそうではない
異色作、問題作が多数存在する作家であり
今回はその中のひとつ「ばるぼら」という作品をご紹介します。

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この作品こそまさに異色作というにふさわしい作品で
芸術、エロス、スキャンダル、ミステリー、オカルトなど
様々なタブーに挑戦した意欲作であり
英語、フランス語でも出版され、世界中にコアなファンを持つ
カルト・マンガの傑作とも言われています。

耽美的で退廃的
手塚治虫の真骨頂である人間の本音や欲望を赤裸々に描いた
「狂気とエロスが共存」したマンガをぜひご堪能いただければと思います。


あらすじ

主人公は耽美派の天才として名声を得ていた小説家・美倉洋介
その小説の著作は海外翻訳でもされており、海外の作家とも多くの交友を持っておりもちろん世の女性からの人気も高く、地位名声共に多くのファンを持つ売れっ子作家
しかし彼には人知れず抱えている重大な悩みがありました。
それは…様々なものなどに対して性欲を抱いてしまう
異常性欲者であるということ。


外見はまるで健康体だが日夜その悩みに苛まれているという。
美倉自身それは「致命的な欠陥であり、持病である」と自覚しています。

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そんなある日、街の雑踏の中で拾ったアル中の乞食女を自宅へと連れ込む。
酒に入り浸り女としての魅力的な部分など何もないだけどなぜか気になる得体の知れない少女
臭いし汚いしいわゆるロクなもんじゃない女なのに
ひょんな事からそれ以来彼女は美倉の家に出入りするようなる。

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美倉の金を散財したり、平気で裸になったり羞恥心に欠けたお転婆娘
その女は何ができるわけでもなくただ面倒なだけの女だけど
なぜか傍に置いてしまう不思議な魅力を兼ね備えた女だった。
その少女の名前こそこの物語のヒロイン「ばるぼら」なんです。

ばるぼらを手元に置いておく間に
彼の周囲では奇妙な出来事が次々と起こり始める。

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ばるぼらは美倉の異常性欲癖の妨害をするようになっていくんですが
これがお互いに嫉妬なのか良くわからない感情のまま進みます。
彼氏でもない彼女でもないただの居候なのに
自分の性癖の邪魔をされるようになって
ばるぼらの奇行に耐えられなくなりいよいよ彼女を追いだしてしまいます。
しかし不思議なことに
ばるぼらが居ないと作品が書けなくなっているんです。


すでに売れっ子作家で地位も名声も得ていた美倉ですが
徐々に落ちぶれていき全く作品が書けなくなってしまいます。

彼女は一体なにもの?
なんで彼女がいないと書けなくなったんだ?


確かにばるぼらが側にいるおかげで書いた小説は
あっという間にベストセラーになった…。

そんな疑問からぼるぼらの秘密を探ろうとして正体を突き止めます。


そんな彼女の正体は、芸術家を成功へと導く女神(ミューズ)の末っ子であり、魔女でした。彼女と出会った人は、必ず成功を収めることになるという伝説の魔女だった。

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正体を知られたばるぼらはそこで初めて美倉の前で女を見せます。
仮面を脱いでついに美しい成熟した超絶美貌の女の正体を現すんですね。

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やがてばるぼらの魅力を認識するようになった美倉は黒魔術の世界へとかかわりを持つようになり
ばるぼらとの結婚も決意します。

しかしこの結婚式に邪魔が入り失敗に。
結果的にこれが2人の運命を分ける別れとなってしまうんです。


5年が経ち、別の女性と結婚して子供もできた美倉だったが、
小説のほうはさっぱり。
行方不明になったばるぼらが忘れられず、ばるぼらを想う日々が続きます。
そこである日ついにばるぼらを見つけ彼女と再会。
強引に求婚するが時すでに遅し…。
すでに魔女によって美倉の余命は決まっており
ばるぼらも別の芸術家の元におりすでに美倉のものではなくなっていた

しかし美倉は衝動を抑えきれず彼女を誘拐してしまいます。
しかも逃走途中にばるぼらが交通事故にあい重体
瀕死の、ばるぼらを連れ世間から逃れるようにして人里離れた小屋に隠れ
絶望の逃走生活を送ります。

死期宣告された中で自分はどのような最後を遂げるのか?
狂気の中で彼は小説を書きあげるのだがそこには衝撃のクライマックスが!

不思議で衝撃的なラストは、ぜひご自身の目でお確かめください。

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興味深いのはこのマンガの設定、主人公が作家であるということですね。
自らも大ベストセラー作家手塚治虫がこれを描いたとは非常に興味深いです
これはリアル世界を重ね合わせているといっても偶然とは言えない
トップに立つ者ゆえの苦悩と葛藤が作品として表れたと言えるでしょう。

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主人公の「異常性欲」という
歪んだ欲求を表現しているのは、
時に自らも抱える苦悩と狂気から来ている

そして「ばるぼら」の正体とは?
魔女として描かれていますがミューズ(芸術の女神)
つまりここで表現されている欲求は「創造、インスピレーション」のこと。
芸術家であれば一度は手に入れたいと望む「発想」のことですね。
アーティストはみんな「ばるぼら」を求めているんだという表現

そしてばるぼらの本質は常人には理解できないこと。
これも天才のひらめきは凡人には理解できない事を表しています。
本編のばるぼらの奇怪行動も常人には理解しがたく
これは常識人にとっては理解できない存在であるというメッセージだと思う

手に入れたいのに掴みどころのない存在
それが「オリジナリティ」であり「発想」創造の根源であると。

「魔女に魂を売っても才能を手に入れたい」
そう望む作家の本心でしょうね。


そしてラストに潜む展開はある意味で「芸術とはなんだ?」
考えさせられるメッセージでもあります。


芸術的な価値ってなに?
有名になること?
売れること?
評価されること?
はたしてどこに答えがあるんだろう?

有名人でなくても「ばるぼら」とは何者なのかを考えることが
読者を引きつける要素なんじゃないでしょうか。
「ばるぼら」=「欲求」
とはなんだということを痛烈に考えさせられます。

読む人によって受け取り方が変わってくると言う…
メッセージ色の強い作品になっております。


異常性欲、歪んだ性癖、エロティックサスペンス、芸術の葛藤、
そして欲求の渇望

そうした人間の心の内面を描かせると手塚先生は絶品ですね、
まさに唯一無二。
壮大すぎて手塚先生の意図してることの10分の一も伝わって無いかも知れませんが…

耽美的で退廃的
猟奇的でエロティックな文学作品にも匹敵する手塚作品の傑作

ぜひ一読されてみてください

ぜひこれを機に
手塚作品に触れるキッカケになって頂ければ幸いです。


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