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手塚治虫「幻のSF作品」は当時の子供には理解不能だった…。

今回は生命の尊厳と人間の生への執着と欲望を描いた幻のSF作品
「ダスト8」をご紹介します。

こちらは手塚先生が
どうしても出版したくなかった作品の筆頭にこの作品を挙げるくらい
単行本化を嫌った曰くの作品でございます。

そのためファンの間では幻のSF作品となってしまった異色作を
今回は解説していきますので
ぜひ最後までお付き合いください


それではあらすじから追っていきましょう。

冒頭から衝撃の飛行機墜落事故から始まります。
堕ちたところは「命の山」と呼ばれるところで
本来全員死亡のところ、
「命の山」のカケラである石を偶然にも手にした8名だけが
生き延びてしまいます

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本来は死ぬべき人間だったのに生き残ってしまった。
これはいかんということで
「命の山」の使者が魂だけ人間に憑依して
生き残った人間から命の石を奪い返すというストーリーとなっています。

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タイトルの「ダスト8」とは生き残った8人それぞれのエピソードが描かれているところに由来しています。

それぞれのエピソードには
石を手にして再び生命を得た人間1人1人のドラマを描き
それを奪い返す使いの者たちとの人生観、死生観を描いた短編的作品を8つ
くっつけたような構成になっています

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「生と死」が織りなす人間ドラマは手塚マンガの根源ともいえるテーマで
現代版火の鳥とも言えなくないマンガなんですけど…

これが、まったく人気がなかったんですよ(笑)


なので、
元々はダスト18として連載スタートしたにも関わらず人気がないため
18人のエピソードを描く前に途中打ち切り
結果的にダスト8と改編されることになった曰く付きの作品です。

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手塚先生も
どうしても出版したくなかった作品の筆頭にこの作品を挙げるくらい
どうしようもない作品だったと回顧しています。
ちなみに残りは「アラバスター」「ブルンガ1世」「ハリケーンZ」です

アラバスターの詳細はこちらで

全集版掲載に際し
「内容の極端な変更はあまりしない建前ですが
この「ダスト8」だけはその原則を破りました」

と語っております。
ちなみにアラバスターもめちゃくちゃ原則破ってますけどね(笑)


ともかく
単行本化に大反対した作品であることは間違いありません。

そして恒例の修正が始まるんですけど今回の改編もハンパじゃありません。
これにおいては
タイトルも18から8に変えたり
エピソードの入れ替えを行ったり
キャラクターの名前や設定も変えていますし
新たなエピソードの追加もありますし

手塚先生が修正を加えるのは毎度おなじみな事ですけど
本作に至ってはラストまでもが書き換えられるという
かなり大幅な改編になっております。


おのずと初版の「ダスト18」は封印されコレクターズアイテムとなり
ファンにとっては幻の作品となってしまいました。

しかし手塚治虫生誕90周年記念出版として
2018年に復刊として解禁されました。
実に手塚先生死後30年後のことであり初版から47年後の解禁となっております。これは素晴らしい!

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雑誌連載時の内容が再現されており
未使用エピソードや未使用カットも掲載
ファンにとっては非常に嬉しい復刻版となっております。

ちなみに正式には復刻版としては謳っておりません。

それはわずか2ページだけですが改編されたページを使用しているので
正式な「復刻版」としての記述をしておりません。
しかしそれ以外はほぼ初版のまま掲載されておりますので十分改編前の作品を楽しめます


改編前と後では
完全に別物語として成立してしまっている手塚治虫の変態編集技術と
納得いかない事にはとことんこだわる変態的な執着技術を
ぜひ堪能して欲しいと思います



さて…こちらの作品はなぜ人気が出なかったのか?

アラバスター執筆と時期も被るので手塚先生のスランプ時期であったと
いうこともひとつの要因ではありますし
現に先生自身も漫画家人生で最も暗く不愉快な時期「暗黒の時代だった」と語っておられますので確かにそれらも原因と考えられますが
アラバスターの時にも触れましたが「暗黒期」であっても火の鳥のような
後世に残るような傑作も数多く世に送り出しているので
その一言で片づけてしまうのは乱暴かなと思います。

ちょっと違う側面から見てみますと
この時代はまさに劇画ブームの真っただ中にあったんですね。
巨人の星やあしたのジョーなどスポ根ものが流行り
デビルマン、マジンガーZ,キカイダーなどの男の子が喜ぶものが受けていました。

一大ムーブメントを起こした
いわゆる手塚系と呼ばれる鉄腕アトムのような丸っこいタッチは好まれず
手塚治虫は終わったと言われていた時代背景があります。

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終わったと言われていたとはいえ
同時期には火の鳥、ブッダ、奇子、などの傑作も残しています。

しかしこれらの作風は
いわゆる青年誌のタッチ
この「ダスト8」のような少年誌タッチではなかったんですね。

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つまり同時期に発表されていたとはいえ
手塚治虫の代表作ともなる作品は青年誌タッチ
この「ダスト8」や同時期のサンダーマスクといった少年マンガタッチは
人気が低迷し、いづれも打ち切りの憂き目にあっているんですね。


そしてこの点を踏まえ良く見るとこのダスト8は
少年向けタッチと青年向けタッチが混在しており
作品としての統一性に欠け
手塚先生自身の迷いが見受けられます。
必要以上に意識していたんだなぁという苦悩が垣間見ることができます。

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タッチだけでなく内容も少し難しい感じがしますね。

実は「命の山」の使いの者が「ダスト8」ではコンビの設定であったものが
「ダスト18」ではコンビではなく
命を奪うもの、救うものとして分かれて描かれており
「ダスト8」とは真逆の設定になっています。


これにより
命を奪うものと、救うものと、生き延びようとするものの
それぞれの葛藤や苦悩が描かれており
この物語を面白くさせている要因ではあったのですが

当時の子供たちにはこういう死んでいく者の心の揺れ動く様など
全く興味のないことだったんでしょう。

生命賛歌なんて微塵も響かなかったんだと思います(笑)


当時はスポ根やマジンガーZのようなシンプルなもの
分かりやすいものが人気だったんで
はっきりいって難しすぎたんですよね。

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現代版火の鳥と例えたように「生と死」をテーマに扱ったところで
子供たちには何も響かなかった、、、
ちょっとアダルト設定だったんですね。
児童インテリマンガだったんですよ。


さらにコマ割りも最初は芸術的描写や西洋哲学思想も感じられましたが
進むにつれコマは大きくなり絵も大きく分かりやすく
少年誌向けの作風に代わっていくのが見て取れます。


というかね、、流行るわけないんですよ。こんなん(笑)
難しすぎるんですよ。
今、読んだら全然そんなことはないんですけど
当時の少年向けマンガと比較すると圧倒的な違いがあったことと思います


ですからリアルタイムでこの「ダスト18」を夢中で読んでいた子供たちは
普通の子より相当感受性が強くインテリ要素を持ち合わせていたんじゃないでしょうか。

それくらい本質的には異彩を放っていた少年マンガであったと思います


だからといってこの作品自体が
手塚先生が嫌うほど駄作であったかというとそうではありません。


実は2019年にはこの「ダスト8」
「悪魔と天使」というタイトルで舞台化されております。
主演は、観月ありささん

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全くどんな脚本になっているか存じ上げませんが
とんでもないクソ原作であったならとても舞台化の原作になるはずもありません。


やはり骨格がしっかりとして、生と死というテーマ性も持ち合わせ
人々の心に響く原作であるからこそ舞台の題材として
選ばれているのだと思います。

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ぜひこの手塚治虫の幻と言われた「ダスト8」「ダスト18」読んでみてください。

個人的には改編前の「ダスト18」の方が読みごたえがあって面白かったです。

というわけで
今回は手塚治虫幻の名作「ダスト8」「ダスト18」のご紹介でした。



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