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【手塚治虫漫画全集】全巻紹介 第15弾!313巻~336巻編

手塚治虫と言えば
ギネスブックにも載るほど膨大な数の作品を残している作家であります。
だから「名前は知っているけど何を読んでいいのか分からない」と言う方も多いと思いますし、ファンの方でも全部読んでいる方は少ないと思います。
そこでこの【note】では講談社発行の手塚治虫漫画全集をベースに
手塚作品をガイド的に紹介しています。

手塚治虫漫画全集は全400巻あり、今回はその第15弾!

313巻~336巻までのご紹介となります。
それでは本編をお楽しみください。


「ガラスの城の記録」

1970年作
ズバリ面白い!
もうこれは面白い。天才手塚治虫が炸裂していますね。
冷凍睡眠によって人工的な延命を行った札貫一族が辿る、
悲劇のSFサイコマンガ。

凄まじいイカレた一族の「殺人」「セックス」
タイムパラドックスSFサスペンスです。
前にご紹介した「奇子」のSF版といった感じですかね。

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ストーリーは
コールドスリープで20年を失った一家の話です。
冷凍睡眠に入っている間は、人は歳をとりません。
冷凍睡眠に入っている家族の管理のため
四郎とその娘のみ通常生活を送って冷凍睡眠に入らなかったので
家族の中でその2人だけは齢をとっていきます。

そして20年後…
コールドスリープを明けた家族は
20年という時間差の家族が存在してしまいます。
おばさんは18歳、兄さんは生まれたての2歳
のような奇妙な家族関係が存在してしまいます。
もうこうなると誰が何歳で家族相関図が理解できないくらいぐちゃぐちゃになっちゃいます(笑)

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「奇子」では失った時間は土蔵でしたが
今回は冷凍保存の家族一家版って感じですね

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20年という歳の差によって
とんでもないことが起こり始めます。
孫娘を犯そうとする父、
長男は四郎の娘を犯したり驚愕の近親相姦劇が展開します。

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もう完全に狂っているんです

というのも20年後のこの時代では「冷凍睡眠禁止法」が施行され
冷凍睡眠は違法とされていました。
それは「精神が崩壊」するからです。

「冷凍睡眠禁止法」
表向きの理由は戸籍偽装の防止や、税金逃れの防止となっていますが
本当の理由は、人間の精神が犯罪や殺人をなんのためらいもなく侵してしまい人間性を失うからなのです。

どうです?
ここまで描いている手塚先生の先見性と恐ろしさ
冷凍睡眠から覚めた人間の理性を超えた精神崩壊劇

こんなもん使ったら「人格崩壊」するぜってことを描いているんです。
いや~本当にありそうで怖いです。


さらにこの物語を盛り上げる設定のもうひとつのカギが
「殺人法」という法律
この時代、戦争が世の中からなくなった代わりに、
人々には欲求不満が溜まって他人を殺したがるという欲求が増大しました。

この法律では、死刑囚は刑務所が死刑を執行するのではなく
死刑囚を世間に出し、それを誰でもいいから殺すことが出来るという法律で
10年逃げきれば時効というものなんです。

人間が人間に「狩られる」という最恐に恐ろしい法律
考えただけでも身の毛もよだつ末恐ろしい設定です。
これを発想した手塚先生はまさに狂気ですね

弟の四郎を殺して逃げた一郎はこの殺人法の刑に合い世間から逃げまわるのですがこれがまた一波乱も二波乱も巻き起こしていきます。

実際作中でも自身の保身のために家族同士殺し合い
近親相姦と殺人が繰り返される超絶に破滅的な内容です

良心を失った人間の暴走と欲望が見事なまでに描かれており
今から50年前の作品とは到底思えないほど古くない、
いやむしろ先進的ですらあります。

人間性を失う危険性を究極的に高めた刺激的な作品でしたが
あえなく掲載雑誌が廃刊となり
そのまま連載終了となってしまった不遇の作品でもあります。

本当突然、「あ?」っていうとこで終わるんで
とても悔やまれる作品であります。

この先手塚先生が描きたかった世界…めっちゃ気になります。


「大地の顔役バギ」

表題作がメインとなった短編集です。

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1975年
お父さん(ジャガー)を人間に殺され、人間を恨んでいるお母さんが
我が子(バギ)の前でお父さんを殺した人間を噛み殺し復讐を果たすも逃げる際に捕まり殺されてしまう。
そのときに母より託されたのがその人間がつけていたロザリオ(首飾り)
「このニオイを忘れちゃダメ、必ず敵を討ちなさい」
最後の言葉を残し死んでいきます。

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父と母を人間に殺され
ロザリオが唯一の復讐の手掛かりとなり復讐を誓う息子バギ
一方そのロザリオには三千億ドルの価値があることを知り
バギからロザリオを奪いかえすために
日本人ハンターの麻理夫がバギを仕留めようとするのですがバギには歯が立ちません。そこでバギの母親の毛皮で造った被り物を着て
狩りに向かうとなんと動物の声が聞こえるようになり
バギと会話できるようになるんです。

「ロザリオを渡せば殺すのを止める」と交渉するも
「これは父の仇討のため渡せない」
戦いながらも人間とジャガーの間に奇妙な関係が繰り広げられていきます。

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本作は、主役がジャガーと人間と両方の視点から描かれているため
自分がどっち目線で読んでいるのかわからなくなってくるんです。
どちらともに正義があるし
どちらにも殺された恨みはあるし
どっちが正しいんだろうってなるんです。
どっちがケダモノなのかわからないんですよね。
人間と獣という種族の違いの中にも、
互いの義理を通す場面があるんですけど
これには種族を越えた生物としてのルールが感じられます。
このシーン、ボク好きなんです。
たとえ自分の好きな子であってもルールのためには死で償わせるシーン

やっぱり動物ものを描かせたら手塚治虫は天下一品ですね。
ほんと生命の神秘を感じさせてくれます。

人間というワガママな生物を動物を通して
憎みでは何も解決しない、他者を思いやる、理解してあげることが
解決への道しるべになるという事を教えてくれる作品
です。
非常に読みやすいのでお子さんと読まれるのも宜しいかと思います。
もうちょっと続きが見たいなぁ


その他の短編では
「山棟蛇(やまかがし)」では手塚作品お得意の獣姦が炸裂しますし

最後の「出ていけ」これも面白い。
誰か映画化してくれないですかね。めちゃくちゃいい設定だと思います。
普通の作家ならこの設定を温めてこねくり回して磨き上げていくんでしょうけど手塚治虫って人は無尽蔵にアイデアがあるからこういうのをさらっと書いちゃう。
しかも短編レベルで。いや~もったいない

ある日しがない男のアパートに素っ裸の男女が現れます。
そして自分のことを無視して生活しだすんですね

彼等には主人公の姿も声も見えていません。
なんだこれ?と不思議に思っていると
こっちが手を出そうとすると体が擦りぬけちゃうんで
幽霊みたいな感じだということが解ります。
それでずっと住みついちゃったんですね。
目の前でセックスしだすし
だんだん同居みたいになってきて挙句には
その女にちょっと恋心を持っちゃうんです。
目の前で自分の好きな女が素っ裸で生活しているんで
我慢できなくなって自慰行為したりして
でもその女は毎夜、男といちゃいちゃして
段々腹が立ってくるんですけど、最後は…衝撃の結末が?

これ言っちゃいますよ。ここからネタバレです。


この女、実は主人公の奥さんで主人公と別れて
この男と付き合っていたんです。
というのもこの目の前に広がっていた幻影は
自分の十年後の姿を映し出されていたってオチ。

自分が惚れた女は
未来の奥さんでその女に10年後に殺されるというストーリー
どうですかこの秀逸感!

自分の未来の映像が映し出されているばかりか別れた奥さんの生活が見えるというド変態設定ぶり。
どんどん話が膨らみそうな設定じゃないですか。
2時間映画いけますよ。誰か脚本書いてくれないかなぁ。



「陽だまりの樹」

1981年作
幕末を舞台に手塚先生自身のルーツをからめて描いた大河ドラママンガ

陽だまりの樹

史実のキャラが多く出てくるので親しみやすいかと思います。
福沢諭吉、勝海舟、西郷隆盛、土方歳三、坂本龍馬
これら歴史的英雄と共に実在した手塚先生の祖先「手塚良庵」が活躍するストーリーです。
手塚良庵は、日本で初めて軍医となった人物だということで、
そのエピソードはこの作品の中にも描かれています。

ストーリーは
青年武士・伊武谷万二郎(いぶやまんじろう)は、剣豪・千葉周作の道場へ入門するんですが、入門3日目に千葉周作は死亡。
その通夜の席でいざこざを起こし、兄弟子の清河八郎と決闘することになってケガをした万二郎の手当てをしたのが
蘭方医・手塚良庵というわけです。

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手塚良庵と、もう一人の対照的な主人公とも言える、侍の万二郎
良庵とは対照的な性格の侍と医者の2人を主軸にストーリーが展開していくので、一方的な主観だけに頼らない重厚感あふれる作風になっており
その時代の空気感、政治情勢、風俗などの時代描写が見応えがあります。
改めて手塚先生の見識の深さストーリーの構成力
マンガとしての見せ方、どれも一級品と言えますね。

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相当な資料の読み込みがあったと想定されます。
というのもこの作品は数ある手塚作品の中でも唯一といっていいほど
その発想の出元が明らかになっている作品であるということ。
ルーツがここまで限定的に分かっている手塚作品は他にありません。

キッカケは偶然にも
手塚先生が医学研究者が専門誌に発表した論文を読んだことだそうです。
その論文の内容は、幕末から明治初期にかけて蘭方医として
西洋医学の普及に力を注いだある一族について書かれており、その一族こそ手塚先生本人も知らなかった手塚家の祖先だったそうなんですね。

そこからアイデアがひらめきこの作品となっていくわけです。
ひらめきもスゴイけど、クソ忙しい中でなんで医学専門書の論文に目を通していたのかマジで意味不明(笑)
そこで自らの先祖に出会うのもスゴイし
とにかくこの作品は奇妙な出会いが導かれるようにしてできた奇跡の作品。


手塚時代ものの傑作のひとつとして評価の高い作品ですので
ぜひ手塚先生の描く幕末感を体験して欲しいと思います。

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今回はここまで

次回第16弾はこちら


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