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【映画所感】 “極私的2023年鑑賞映画TOP10”

もうすぐ2月も終わり。花粉が本格的に跋扈する季節になってからの、昨年振り返り企画。

自分の“先送り体質”が心底嫌になります。

どうしようもなく自堕落な人間が、好き勝手に映画を語っておりますが、それでも興味がおありの方は、どうぞ自己責任でお付き合いください。

2023年1月1日〜12月31日までを区切りとして、「誰が言うとんねん!」なお叱りをいただくであろうことは重々承知の上、早速ランキングしてまいります。

では、惜しくも10位に入らなかった次点の作品から。

【次点】 告白、あるいは完璧な弁護

雪、山荘、密室、殺人とくれば、本格ミステリ好きにはたまらないシチュエーション。

鉄壁の役者陣に、王道のトリックが散りばめられたシナリオ。首尾一貫して面白いので、誰にでもオススメできる。

【第10位】 死体の人

ちょっと“映画通”ぶりたい邪心が、順位に出てしまったのは事実。

それでも、しっかりエンタメしてくれる小品は、意外と稀有ではないだろうか。

出演時間の長短に関わらず、どの作品でもしっかりと爪痕を残す俳優、奥野瑛太。

彼を主演に起用という英断だけで、観る価値大いにあり。

【第9位】 1秒先の彼

今期のテレビドラマで一番面白いと評判の宮藤官九郎脚本、『不適切にもほどがある!』(TBS)。

令和と昭和を行ったり来たりして、世代間ギャップやその時代の常識・非常識を暴論でなぎ倒していく痛快なタイムスリップ・ストーリー。

本作『1秒先の彼』も同じくクドカン脚本で、時空の狭間を扱う点でも共通。もちろんドラマ同様、笑えて泣けるサイコーの作品。

さらに在りし日の、笑福亭笑瓶の姿を拝めただけでも、個人的には感動のあらしだった。

【第8位】 BAD LANDS バッド・ランズ

地元、大阪西成界隈が舞台の痛快クライムムービー。

安藤サクラが達者なのは今さらいうまでもないが、現役アイドルの覇王たる山田涼介のサイコぶりにも舌を巻く。

テンポよく話が進むので、長尺を感じさせないのも高評価の所以。

【第7位】 愛にイナズマ

2016年に発生した「相模原障害者施設殺傷事件」(津久井やまゆり園事件)をベースとし、昨年公開された映画『月』。

個人的に刺さる部分が大いにあり、ショッキングな内容にも拍車がかかることで俄然、石井裕也監督の別作品にも興味が湧いた。

ちょうどそのタイミングで、すぐに新作『愛にイナズマ』を鑑賞する機会に恵まれ、本当にラッキーだった(石井裕也のクレジットがなければ、タイトルだけでスルーしていたかも?)。

本作は、巧みな二部構成といえるだろう。

ハラスメント系のお仕事ムービーから、家族の呪縛からの解放と再生のドラマに様相は一変。

話が進むに連れ、次々に投入される若手、中堅の役者陣が贅沢この上ない。芸達者揃いなだけに、コメディ耐性も十分すぎる。

主演の二人が集うバーでのマスターを交えてのやり取りは、爆笑必至で思わず劇場で声を上げてしまったほどだ。

ちがった意味で、『月』以上に衝撃度は高かった。

【第6位】 スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース

前作『スパイダーマン:スパイダーバース』(2019)から始まったアニメ三部作の二作目にあたる本作。

今回は、前作でしっかり脇を固めていたグウェン・ステイシーが中心になって物語が進む。

グウェンの内面を知れば知るほど、魅力的なキャラクターに思えて来たのは、本当に嬉しい誤算だった。

彼女の抱える悩み、葛藤を踏まえた上での主人公・マイルスとの距離の取り方にも好感が持てるし、至極納得できる。

あまりの感動に、鑑賞後に劇場で限定販売されていた「S,H,Figuarts グウェン・ステイシー」を思わず衝動買いしてしまったほど。

【第5位】 ザ・フラッシュ

性格のまったくちがう現代と過去の自分を、エズラ・ミラーが好演。 

DCヒーローたちが一堂に介するといえば『ジャスティス・リーグ』(2017)が先にあったわけだけれども、どうにも内容がシリアスすぎて重苦しかった印象。

今作は、主人公・バリー(フラッシュ)の明るさもあって、エンタメ要素増し増し。アクションは派手だし、ドラマ部分も笑えて泣ける。

懐かしの1989年版バットマン(マイケル・キートン)の哀愁漂う復活劇だけでも十分お釣りが来るほど。

そんな中、大オチでダンディなアイツまで引っ張り出すとは…椅子から転げ落ちるとはこのことだ。

【第4位】 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3

シリーズ3作目にして、完結編。

生死の境を彷徨うロケットを救うため、“ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー”が再び結束。ロケットと因縁浅はかならぬ、最悪のラスボス・ハイ・エボリューショナリーとの戦いに挑む。

ロケットの壮絶すぎる過去が徐々につまびらかにされていく過程が、何とも切なく儚い。

それだけに、ロケットにとっての新たなチーム=家族である“ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー”でともに戦うことに意味と意義が生まれてくる。

銀河に広げられた大風呂敷が、見事なまでにきれいに畳まれたことに感謝しかない。

【第3位】 バービー

冒頭の『2001年宇宙の旅』(1968)のパロディからしてよくできている。古今東西いろいろなコンテンツでこすりたおされたシーンのはずが、実に新鮮に映る。

バービー人形たちが暮らすピンク一色で彩られた世界「バービーランド」から、現実の人間界にやってきたバービー(マーゴット・ロビー)とその相方ケン(ライアン・ゴズリング)の冒険。

「バービーランド」の生活とは真逆の現実世界。

男女平等を謳いながら、実は男性優位主義な社会のことや、女性を性的な対象でしか見てこない蔑視の感情など、バービーが想像すらできなかった世界の存在が徐々に浮き彫りに。

落ち込むバービーを尻目に、しっかりとマッチョイズムに目覚めていくケンの高揚感。二人のコントラストのちがいが秀逸すぎる。

馬に跨る男、大型ピックアップトラックを乗り回す野郎ども。

目をキラキラに輝かせながら見つめるケンの姿を痛々しいと笑いながら、実は心の奥底でケンに共感する自分がいるという、自身の倫理観を疑う場面も。

性自認を深く考えることをしてこなかったシスジェンダーには、少し居心地が悪い。

それでも、「俺たち〇〇シリーズ」でおなじみの、ウィル・フェレルがマテル社のトンデモCEO役ででてきたり、バービーの元の持ち主グロリア(アメリカ・フェレーラ)の娘、サーシャのバービーに対する塩対応に納得したりと、コメディの畳み掛けもツボを抑えていて楽しい。

中でも終盤、マッチョな思考に毒されたケンたちに対する、グロリアの大演説が痛快だ。

働く女性のこころの叫びだけにとどまらず、「らしさ」にこだわる男性と関わるすべての女性に自信を与えるものだった。

フェミニズム云々と肩肘張らずにまずは観て楽しんで、ジェンダーの枠組みを飛び越えてほしい。

案外、容易いものなのかも…

【第2位】 ザ・ホエール

『バービー』以上に差し迫った現代社会の問題を、過食をやめられないチャーリーの目を通して鋭く提起してくる。

最初はチャーリーを嫌悪しながら、だんだんと共感していく自分がいることに驚かされる。

この作品の持つ力が、自分の中で証明されていくかのようだ。

【第1位】 市子

主人公・市子に、杉咲花が完全憑依。

数年に1本、出会えるかどうかのモンスター級の傑作だ!

【おまけ:ワースト】 リボルバー・リリー

凡庸で冗長、無駄な説明に「んなアホな!」な展開の数々。

こんなことになるのなら、『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』に予算の半分でも分け与えて欲しかった。

「そこのけそこのけメジャー様が通る」的な振る舞いで、上映館を抑えにかかるところもいただけない。

予告編の作り方や見せ方は心得ているのに、本編となると途端に失速。

『シン・仮面ライダー』の撮影で、庵野秀明が頑なに嫌ったアクションシーンにおける段取り。

その不自然さの意味はこういうことなのかと、『リボルバー・リリー』に教えられた気分だ。

【総評】

緻密なシナリオと、演技、演出、劇伴と、総合芸術としての『市子』は、邦画界に福音をもたらしたとさえ思えてきます。

3位以下にハリウッドの大作たちがつづけて入ったことも自分の中では珍しい傾向と言えます。

ありえないフィクションでありながら、しっかりとしたテーマ性と問題提起をエンタメ・コンテンツの枠組みの中で押さえていることに、クリエイターたちの凄みを感じました。

2024年こそは、自分の満足いくペースで「note」に原稿をアップしたいものです(現時点ですでにペースは、乱れに乱れていますが…)。

参考までに、2022年および、2021年のTOP10も貼り付けておきます。

では遅まきながら、今年もどうぞよろしくお願いいたします。


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