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「微妙なライン」は人それぞれ〜丁度可知差異〜

このシリーズはわたしが学んだヒトの行動について、行動変容と経済学と絡めて(それを行動経済学という)勉強したことをアウトプットをこのnoteで共有していくものです。

前回は「人の幸せ」にフォーカスしましたが、今回は「認知」について。
同じくプロスペクト理論を応用したものです。


丁度可知差異とは

あることが変化したと感じられる最小の差異。その変数の大きさに比例する。

要はわかるかわからないかの微妙なラインのこと。
ミディアムロングの人が髪を切ってもわからないですが、元々ショートカットの人が髪を切ったら気付きますよね。

さて、この丁度可知差異もリチャード・セイラー氏の『行動経済学の逆襲』に記載されていました。

①100gの増加
体重が100g増加 →気づかない
ブルーベリー100g追加 →気付く

変数(上記の例だと人の体重と1個当たりのブルーベリーの重さ)が大きければ大きいほど、気づきません。

また重さだけじゃありません。

②車のヘッドライトが2個同時に切れた
→同時に切れるというよくできた話はない。

実際は1個切れた時に気づかなかっただけです。
1個ライトが切れても明るさの変化は気付きませんでしたが、もう一つ切れるとゼロになるので気がついてしまいます。


隣人同士の喧嘩

もしあなたがアパートで友人たちと集まってパーティをしていたとします。
音楽のボリュームをあげて気分良くお酒を飲んでいるとしましょう。

突然隣人が訪ねてきて、こう言います。「音量を下げてくれないか?」と。

あなたは「めんどくさいなぁ」と思いながらもボリュームを2つ下げることにしました。
あなたと友人たちは音量の変化に気付きます。

しかし、隣人がまたやってきます。「まだうるさくて寝れないよ」と。

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Photo by Somnox Sleep on Unsplash

そう、隣人にとっては2つ下げようがうるさいことには変わりはありません。
なぜなら、あなたと友人たちが持っている音の変数(閾値)と隣人の音の変数は異なるからです。

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さて、ここで怒ってはいけません。「自分たちはボリュームを下げたのに」と。
隣人が感じる変数が高かったので、ボリュームの変化に気づけなかったのです。

もしあなたが隣人でも怒ってはなりません。「全然ボリューム変わってないじゃないか」と。
あなたがパーティーではしゃいでいたことを思い出してください。同じことをしていたかもしれません。

変数は状況によって変わる

丁度可知差異は触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚などさまざまな感覚に当てはまります。(明るさや甘さ、重さ、ストレス感度、騒音など)
例を3つあげます。

☕️普段お砂糖を2杯コーヒーに入れて飲んでいる人は、1杯だと物足りないけど、2杯だと丁度いいと感じる。
一方全くお砂糖をコーヒーに入れない人が2杯でも1杯でも甘いと感じてしまう。
👫45kgの人が5k痩せたら結構見た目が変わってしまう。
100kgの人が5kg痩せようとあまり変化はみられない。
🚞電車でイヤホンから音漏れがしていて、隣の人に音を下げるよう注意された。
2つほどボリューム下げて、気分が下がっていたものの、隣の人からすれば、あまり音量が変わっていない。そしてまた注意を受ける。

自分がどんな状態なのか、環境なのかによって、自分たちが持っている変数は変わってしまいます。
変数が異なる人同士が同じ変化量を比べてみても、感じ方は異なります。
(数値として2杯砂糖が変化量であっても、いつも2杯入れる人と、ブラックコーヒーの人では変数が異なっています。)


丁度可知差異を利用する

気づくか気づかないかのわずかな差」である丁度可知差異。
この心理を利用して、長く愛されるデザインを作っているプロダクトがあります。
それがロングセラーブランド

時代の流れに合わせて、徐々にパッケージデザインを変化させて、古臭さを感じない、常に新しいブランドイメージを訴えています。
消費者はその微々たる変化には気づくけど、大きな変化でもないので、気に留めない。

しかし、数年単位で見ると、しっかりデザインは都度一新されており、自然と愛されているブランドになっているプロダクトってありませんか?(心地よい認知ですね)

以下がとても事例としてわかりやすく、丁度可知差異を利用したロングセラーブランドがなぜ生まれるのかを説明してくれています。

さらに、なぜデザインを変えるのかということも書かれています。

商品は生き物なので、他社の動向や時代の流れなどに影響され、自社の商品のポジションもどんどん変わっていきます。コンセプトやアイデンティティーのように、ずっとぶれない軸は必要ですが、そればかりにこだわって周りが見えなくなると、気づけば時代遅れになっていたという事態にもなりかねません。

実際どんなブランドが都度デザインを変えているのでしょうか。

ロングセラーに不可欠なリニューアル術「丁度可知差異」とは?より引用しました。

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いつパッケージデザインが変わったんだっけ?と言われると、その時々では全く意識していません。
しかし、こうやって年表で並べてみると、1971年から2020年にかけて大きくデザインが一新されていることがわかります。(筆者は2000年以後の記憶しかありません)

確かに、1971年のデザインは今じゃ古臭さを感じますよね。

丁度可知差異が利用されるのは、確固たるブランドイメージの認知が目的です。
大きくデザインを一新してしまうと、消費者はブランドを認識できなくなります。

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トロピカーナのリブランディングの失敗事例から見る消費者視点]より画像拝借

最近だとトロピカーナのパッケージのリブランディングがいい(悪くも)例です。
明らかに違うパッケージとして一新されたので、消費者は右側のパッケージを見て「トロピカーナ」だと認識できなくなってしまいました。



丁度可知差異は自分たちが認識できるかできないかのわずかな差のことで、その感覚は人や状況によって大きく変わってきます。
人の認知は思ったよりも鈍感であり、敏感であるということです。

では、大きな変化であればあるほど、いろんな変数を持った人に対して訴えかけられるのでは?と考えられるかと思います。

しかし、上記のトロピカーナの例など、大きく変えてしまうことによって、逆に変化に気づけず、新しい何かとして認知されてしまいます。
そこで多くのロングセラーブランドは、時代の流れに合わせて、少しずづイメージを変えています。
丁度可知差異をうまく利用した例です。

参考資料




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