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主客逆転のメンタルトレーニングその2 自分が消えると無心がおこる

前回に引き続き、主客逆転のメンタルトレーニングについてお伝えします。

たとえば走るという動作でいえば、普通にプレーすると「自分が地面を蹴る」という関係性です。主客逆転とは、「地面が足を蹴ってくれる」という主語と目的語が逆転した関係性のプレーです。

前回の記事はこちら
https://note.com/zen_akano/n/n642009b3dbf3

前回お伝えした陸上選手は、さらに地面が主語のメンタルトレーニングを続ける中で、今まで気づかなかったことが見えてきました。

たとえば、自分を主語にした飛び方だと、足先に力が入りやすいそうです。早く走ろう、もっと足を高く上げよう、もっと遠くに跳ぼうという「私がする」状態だと、足首や足の裏など部分に力が入るのです。

一方で、地面を主語にしていると、自然に身体の中心に軸が感じられるようになってきました。

ちなみに、陸上だけでなく、野球やゴルフなどどのスポーツにおいても「軸」の大事さは変わりません。

軸が定まっているときは、恐らく小さな力でいいプレーが出来ているでしょうし、軸がブレているときは、力ばかり入って、動きはぎこちなくなります。

ただ、多くの選手が軸に関して勘違いをしているのです。軸を作ろうとしているのです。これは、軸というのが何か1本の固定した幹のようなものをイメージしているからかもしれません。

軸は流動的なものです。だから、いつも変化します。

フローという言葉は聞かれたことがあると思います。フロー状態に入っていると、人は最高のパフォーマンスを出すことができるという理論です。

興味深いのは提唱者のチクセントミハイ博士が、フローという言葉を使っている点です。また、フローに近い状態を表現する言葉として「ゾーン」「無心」があります。

多くのアスリートがゾーンに入っている時の状態は、「流れている」と表現します。固定された状態ではないのです。

また、坐禅における無心も、心になにも無い状態だと誤解されていることがあります。禅の修行における「無心」とは、自分の中で起こっていることにただ気づくことで、ひっかかりなく流れている状態です。

この流れている状態というのは、頭では分かっても、体感的になかなか感じるのが難しいようです

メンタルトレーニングでは、メトロノームをイメージしてもらいます。

私たちは常に右と左に揺れています。まさに呼吸がそうです。

ちなみに何かこうでなければならないと考えた時点で、あなたのメトロノームはどうなっているでしょうか。

恐らく、右に偏るか、左に偏っていきます。リズムはバラバラになり、早さも不安定になります。

どこか理想の場所に「軸」を作ろうとすると、逆に軸が偏っていきます。いかに自然に流れている状態にのっていくか。

軸というのは、別に身体の中心になくていいのです。軸は常に変化しています。そのことに気づきながらプレーできるか。自然の流れを感じながら、その流れを邪魔せず、流れにのっていること。

どのアスリートに共通しているのは、調子が落ちてくると、プレーする際に「苦しさ」を感じているということです。

苦しさというのは、メンタルトレーニング的に申し上げると、エゴとの戦いで生まれる「抵抗」です。

パワーがあるときには、多少の抵抗があっても力強く進めます。なにごともパワーで乗り越えようとする人もおられるでしょう。

一方禅とは、パワーを少なくすることを修行します。まずは、人の弱さを認めることからスタートします。弱くていいのです。一つ実験をしてみましょう。

コップを強くぐっと握ってみましょう。握った感触を覚えておいてください。

では、握る力を減らして、コップに柔らかく触れてみましょう。

2つの握り方では、コップと手の関係性は違います。どちらが良いか悪いかではなく、違うのです。

グッと強い力で握ると、私が主でコップが従という関係性になります。水を飲むためにコップを使っているときは、このような握り方かもしれません。目的のために道具を使うときは、主従が強い関係になります。

ちなみに弱い力で触れると、コップの重さや材質をよりリアルに感じられることに気づいたでしょうか。また、コップに触れる動きがゆっくりになったのではないでしょうか。これは優しい状態と言えます。

それでは、さらにもう一つやってみましょう。コップがあなたの手に触れているのを感じながら触ってみて下さい。コップが主であなたの手が従です。

いかだったでしょうか?あなたの中に何か変化が起こったでしょうか。

どの触れ方が一番落ち着いたでしょうか。私は3番目です。これは、自分とコップが共存している状態です。

強くプレーしようとしているときには、周りの抵抗が強いです。これはエゴが強く状態であり、それだけぶつかってくる抵抗が大きいのです。これはねじ伏せようとしているプレーです。

人は、地面や重力があるからプレーできます。地面を主語にするプレーとは、言い換えると生かされているプレー。生かされていることを感じられているとき、周りからぶつかってくる抵抗が少ないです。これは、地面や重力と協力した「和のプレー」です。

周りの抵抗で、あなたの心の状態が分かるのです。

最近、周りが協力的でスムースに進むなあと思っているときは、あなたのエゴが周りとぶつかっていない状態です。

誤解がないように申し上げると、ぶつかるから悪いとか、抵抗が少ないからよいということではありません。周りの抵抗というのは、自分と周りの流れを知る手がかりになります。

最初に登場した幅跳びの選手は、地面が主人公のメンタルトレーニングを続けていると、ある日のこと、地面と自分が真逆にひっくり返ったそうです。

自分は地面の上を歩いているというのは、私たちの目で見えている世界です。これは上下が思い込みで固定された状態です。

一方で、主客逆転のメンタルトレーニングをする中で、どこかで過去の思い込みが外れる瞬間がくると、上下が逆になることがあります。

実は、軸というのは1本ではないのです。頭の中にある思い込みを外すことで、たくさんの軸が顕れてきます。その1つのアプローチが主客逆転のトレーニングです。

たくさんの軸が顕れている状態というのは、まさにフローであり、無心への入り口といえます。

主客逆転は、いろいろな工夫の余地があります。それぞれのスポーツでぜひトライしてみてくださいね。



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