見出し画像

【ss】銀河割り #シロクマ文芸部

銀河売り切れだった(◞‸◟)

メッセージに既読だけ付け、三つ隣の駅にある別店舗で【銀河】と別のをもう一袋を買う。

近所の人達の散歩コースになっている土手を降り、グラウンド先の川辺の葦を掻き分けた"いつもの場所"にアキはいた。

何かの跡なのか、大きなブロックがいくつか残るここは、子供の頃からの"いつもの場所"で、何かある度にここに来た。親に叱られたとか、友達と喧嘩したなんて他愛のないことから始まり、引退試合に負けた時や失恋した時も。生きていれば、悔しいこともやるせないことも沢山あるよ。

「はいよ」と【銀河】を渡すと、アキは何も言わずに袋をあけて2〜3粒口に放り込み、ボリボリ齧りながら更に一掴みプラカップに放り込んだ。酎ハイに銀河を放り込んだ、銀河ハイ。最近ここで会う時はいつもこれを飲んでいる。

「すこーしだけ甘くなるんだよね」

【銀河】は紺、青、空、藍など青色だけの金平糖で小さい頃からアキのお気に入りだ。こんな暗い夜に色の違いなんてわからないだろうに、アキはいつも【銀河】を食べている。

感情を現さずにいられない自分と違って、アキはいつも冷静で落ち着いて見える。だからといって傷ついてない訳じゃないのを知っている。

川を渡る電車はいつの間にか終電をむかえ、対岸の大型マンションの灯りが消えていく。都下のこの辺りは満天とはいかなくても、そこそこの星空が見える。川の水は少し臭くて、遠くでやんちゃな車のブレーキ音が聞こえる。

アキはボソボソと近況を語り、銀河ハイを飲みながら、【銀河】をボリボリ齧った。
途中、アキの母親に一緒にいると連絡すると、
🙏だけの返信がきた。

銀河ハイを何杯か飲み、お互い程よく酔っ払った頃、東の空がほんの少し色を変えはじめる。

「そろそろこっち」
【銀河】はもうお仕舞いにして、もう一袋を開ける。たくさんの濃紺色に、ほんの少しの紫とピンクと白の金平糖【夜明け】

陽が登り始める前の朝の土手で「じゃあ、また」と言って別れた。


※こちらに参加しています

この記事が参加している募集

#私の作品紹介

96,147件

#ほろ酔い文学

6,041件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?