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酔っ払いメガネ  #島の話

キイチロウ君は若手唯一の正社員だ。漫画に出てくる嫌味なクラスメイトみたいな顔をしていて、いつも少しハスに構えていた。みんながワイワイ楽しそうな時にちょっと水を差すようなことを言いながらメガネをクイッとあげる。

それでも社員であるという責任からか、ぶつぶつと文句を言いながらもバイト達の面倒を見ていた。みんなそんなキイチロウ君が嫌いじゃなかった。

一時期、キイチロウ君と彼が住む借上社宅のアパートに私も住んでいた時期があった。2階のワンルームに私と別の女の子、1階の2Kにキイチロウ君と彼。

当然のように私は彼らの部屋に入り浸り、ほぼ3人暮らしのようになった。彼が不在でキイチロウ君と二人っきりでも構わず風呂に入り、暇な時はゲームをした。通勤はキイチロウ君の空色の軽自動車に乗せてもらい、その上毎日缶コーヒーを奢ってもらった。

そんなキイチロウ君は酔うとべたべたと甘えてきた。抱きついたり、私の膝枕で寝たりしながら、「あいつ(彼)に私をとられた」と何度も何度も言う。

ただの一度もキイチロウ君のものだったことはないのだけど、いつもそう言って彼に絡む。そして、「隣の部屋から物音がしても、しなくても気になって眠れないんだー」と叫んでミナモさんとマツリを爆笑させた。

ボディタッチが過剰になると、「キイチロウさん飲み過ぎですよ」と、あくまでもキイチロウ君の身体を心配するテイで彼が引き剥がしてくれたけど、「俺のオンナに手をだすな」的なものじゃないことが私はいつも不満だった。

酔っ払うと少しやっかいなキイチロウ君だったけど、本当はそこまで酔ってないんじゃないかな。私に抱きつく時のキイチロウ君の手はいつもちょっと遠慮がちで、緊張しているのがわかったから。

島の話3



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