【#応援したいスポーツ】あの日の衝動とある日の放物線
芝の囁き、新緑の匂い、砂埃の味。
3月になったばかりだが、今日は日差しが強く感じる。
球場に爽やかな風が吹き抜けると春よりも初夏の香りがした。
私は兵庫県の姫路市民球場にいた。
プロ野球で好きなチーム『千葉ロッテマリーンズ』がオリックス・バファローズと、ここの姫路市民球場でオープン戦を行うので、見に来たのだった。
私は、東京に住んでいる。
もう15年ほど前の話だ。
当時も東京に住んでいた。
何日か待てば、千葉県の本拠地にてオープン戦を行うというのに。
わざわざ何故にオープン戦を見に行ったのかは、心の奥底から沸く、突き上げるような衝動があったとしか説明できない。
スポーツ新聞でキャンプの情報をみてオープン戦の予定をみて、なんだか急に何かに強く誘われるように私は兵庫県までやってきた。
20代前半でお金に余裕がある訳でもなく、新幹線の往復料金の出費すら厳しくて、なんとか少しでも費用を安く済ましていけるようにインターネットで計画を立てる。
名前やポスターは見たことがあるが使ったことのなかった【青春18きっぷ】で、はじめて旅をしたのもこの時だ。
なんだか同じ毎日に疲れてきてしまって、なんでも良いからキッカケが欲しかったのかもしれない。
たぶん、きっとそうだ。
疲れた自分を癒したくて、なんだか、やったことの無い旅をしてみたくて。
はじめての青春18きっぷ。
はじめての夜行列車。
はじめての普通電車、乗り継ぎ旅。
この球場では、選手との距離が凄く近い。
球場内のブルペンでは先発投手が肩を作っていた。
仕切りに投手コーチなどと状態を確認して試合前の準備を念入りに行う。
他の選手も準備運動からストレッチから守備練習、打撃練習、試合前にしっかりと準備を行う。
監督やコーチは選手の一挙一動を追い確認する。
話し声や選手の会話まで聞こえてくる。
テレビで見えるスポーツ中継での映像は成功する場面の輝く一部分だけだ。
ましてやニュースなどのダイジェストとなると成功そのもの1シーンばかりが強調されてしまう。
プロの選手は自らを磨いている。常に磨いている。
きっと子どもの頃から何百回、何千回それ以上、磨き続けている。
それでいて、プロ野球選手になれるのは一握りしかいなくて、更に試合に出場できるのも人数が決まっている。
わかっていた。
子どもの時から何回も何十回も球場に足を運び、生で試合を見ていたはずだった。
わかっていかなかった。
何もわかっていかなかった。
プロ野球選手が試合にかける想い、意気込み。準備の大切さ。それを支えてくれている様々な人。
切り取られた情報だけで、理解したつもりで生の情報の大切さが認識できていなかった。
自分が働くようになって、仕事をしてお金を貰える立場になって見える映像の意味は変わっていた。
子どもの頃から準備をしている光景はそこにあって、それは私にとって試合がはじまるまでの退屈な時間だったものが、今は全く違う形で見えてくる。
生の情報が大切でも、受けとる情報。それを自分自身がどのように考えて、どのように処理をするか。
トイレに行ったり友達との談笑の時間だったものは、人生や仕事への取り組み方を教えてくれる時間に変わった。
目で選手を追いかけながら考える。私はいつから野球が好きだったんだろうかと。
小学生の私が会いにきた。
私の中に眠る埃まみれの記憶の扉を開ける。
懐かしい公園の広場だ。
まるでドラえもんのキャラクター、のび太のように下手な私。
他の友達に怒られて泣いている私。
ある日、野球が上手かったT君がプラスチックのバットにビニールテープをぐるぐる巻き出した。
「だいちゃん、これでおもいっきり素振りをしてみなよ。」
ブン、ブンと力強い音を立てて唸るバット。
「この魔法のバットを使ってボールを強く打てばホームランが打てるよ。」
全く自信が持てなかった私が、魔法のバットの魔法にかかり自信を取り戻した。
すぐに効果は現れた。
ビニールのボールを良く見て、力強くおもいっきり振る!
見たことの無いような特大の放物線を描き、ボールはどこまでも飛んでいった。
凄いじゃん。
みんなが誉めてくれる。
一緒に喜んでくれる。
そうだ。きっとあの時から。
魔法のバットは、私自身に自信をつける魔法をかけてくれた。
これからはなんでも、おもいっきり振り抜こう。
空振りでもいい。
まずはバットをしっかり持って自分を信じて振り抜こう。
あの日の喜びが生まれることもある。自信を持って。チャレンジしよう。
選手が強振した。乾いた音と共に大きな放物線を描いてボールがスタンドに入る。
大きな歓声と喜ぶ選手の表情。選手と一緒に喜ぶファンの人達。
東京から、電車を乗り継ぎ、姫路市民球場まで来て良かった。
色々な事がわかった。
大切な事がわかった。
でもこれからもきっと迷う時もあるかもしれない。
そんな時は、生で見ること、体験することを大事にしていこう。
そして感じよう考えよう。
開幕が待ち遠しい。
15年ほど前の記憶と今の私が重なった。
そして全てのプロ野球ファンも選手や球団関係者の皆さんも同じだろう。
開幕が待ち遠しい。
また選手のプレーを生で、この目で見れる日を楽しみに待ちたい。
スポーツは人生を生き方を私に教えてくれる。
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