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ショートショート ポイントカードはお餅ですか

秋はどこに行ってしまったのだろうか。

9月も中旬だというのに暑さが厳しく残っている。
ただセミの声はなくなり、窓から見える田畑には綺麗に稲穂が実った。
もうすぐ刈り入れだろう。
音や見える景色はたしかに夏の終わりを告げている。

仕事のパソコンを切って、今日も近所のスーパーに向かう。
仕事が終わった時間はちょうど値切り品が多くお財布にも優しい。

店内の品々をみて廻るが、生鮮食品から惣菜コーナーまではいつもの道で、
特にアンテナに引っかかるものもなく進む。

ふと昼間の会議の会話を思い出した。
「課長はマイナポイントもう貰いましたか。」
マイナポイントとはなんだろうか。
しかし、部下にマイナポイントとは何かなど訪ねにくい。
「ああ、当然じゃないか。」
少しため息をつきながら、煙たく答えておいた。
しかしながらマイナポイントとは一体…。

「784円になります。ポイントカードはお餅ですか。」

いつのまにか、レジに並び精算が終わったようだ。
しかし、この店員も奇妙なことを言う。
ポイントカードがお餅なわけ無いじゃないか。
人を馬鹿にしているのか。

「ポイントカードはチョコレートだろ。」
肩を揺らし嘲笑い、私は答えた。

後ろに並んでいる人がさっと捌けた。

「今、なんておっしゃいました。」
店員が青ざめて目を合わせないようにして私に聴く。

レジ周りの全ての音が止まりざわざわとした後の静寂。
他の店員も店内の客も私と距離をとりこちらを見ている。

なんだ、なんなのだこれは。何が起こったのだ。
全くわからない。

「チョコレート。」

えっと、声をした方を見る。
勇気を出して告発したのはツインテールの女子高生だった。
目には涙を沢山ためて、今にも溢れ出しそうだ。

「この人はポイントカードはチョコレートだと言いました。」

声を振り絞り泣き叫び告発をすると、キャーという甲高い悲鳴と店員も店内の客も我先に脱兎の如く逃げ出した。

私は何をしてしまったのだ。
パニック映画のような店内で、1人レジに取り残された私。

誰かが鳴らした非常ベルがけたたましく店内に鳴り響いた。

「本日は申し訳ございませんが閉店します。閉店します。」
フロアを走り叫びながら、一直線にやってくる男がいた。
店長とかかれたネックプレートを首からさげている。

私はこの先の顛末を覚悟した。
「お客様申し訳ございませんがこちらへどうぞ。」

店長に腕を捕まれて、店内からバックヤードへの廊下の扉を開けた時だった。

店長がさっとネームプレートの反対側をこちらにみせてきた。

【私はあなたの味方です】

急いで書いたであろう走り書きが目に飛び込む。

「店長。これは何が起きているんです。」
「このあたりであれば防犯カメラの死角になってくるので、しかし説明している時間が無い。あなたはレジスタンスですよね。実は私もなんです。」
つかつかと歩いていたペースをゆっくりにして答える。
「もうすぐここには警察、そして機動隊がやってくるでしょう。私は隙を作って、部隊を混乱させます。なんとかあなたは、ここを出てマイナポイントを目指し政府から宝を取り返してください。」
「マイナポイント。そこには何が。」
サイレンが重なり店外が騒がしくなった。
「あなたの妹、秋さんをマイナポイントの地下牢で見ました。あなたの事も心配していました。」
「秋はそこにいたのか。最近どこにいるかと心配していたが。あなたはそこで何を。」
「もう時間が無い。あとはよろしく頼みます。」

廊下の向こうから爆発音が聞こえてきて、先から煙があがる。何人もの靴音がこっちにやってきた。

「あなたはここで、何があっても自分を信じてください。あなたに会えて良かった。」

店長は1人廊下を靴音がする方向へ走り出した。
走りながらエプロンの裏に仕込んでいた小型の爆弾に次々と安全装置を外していく。

「店長!!!」

叫びながら廊下の陰に身を伏せて姿勢を屈めた。

光を見たと思った瞬間に爆風で体が吹き飛ばされた。
「まだ息はあります。」
何人かの男女がやってきたようだが、うまく目が開けない。

「見つからないうちに早く運ぶのだ。彼こそが選ばれた。レジスタンスの希望の光なのだ。」
「助かるでしょうか。」
「助かるではない。助けるのだ。」
体の自由が効かなくなって、薄れゆく意識の中、誰かの声を聞いた。

私もこんな所で終わってたまるか。
マイナポイントを目指さないと。
秋を探しにいかないと。
秋はどこに行ってしまったのだろうか。

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