カバン革命 【約1000字のお話】


テレビに映るスクランブル交差点
四方八方に歩く人々の手には
キャリーバッグが握られている


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観光や出張以外でも利用する人が増えている
きっかけは、空前の旅行ブーム
キャリーバッグの売れ行きが伸びると
これを好機とみたファッション業界が参入
あらゆる世代に向けた個性豊かな商品が次々生み出され
雑誌では1週間コーデのポイントとして大活躍し
気づけば、誰もがキャリーバッグを持っていた


キャラクターイラスト付きの小さなキャリーは
それを引きずる子どもをさらに尊い存在にし
ヴィンテージ風のシックなキャリーは
”できる人” を演出するのに大いに役立った


ちなみに近所のおばあちゃんに言わせると
「時代がやっとあたしたちに追いついた」のだそう
そんな彼女の「キャリーカート」は
椅子にもなる万能タイプだ



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しかしこのブームには1つ問題があった
タイヤによる、騒音問題である

1つだけでも存在感があるのに
それが何十もあれば、トラック以上の音量になる
街頭ビジョンは全く聞こえなくなり
天気予報の中継は全局が室内に変更となった


特に問題だったのが飲み屋街である
キャリーバッグを持った酔っ払い同士の
「ゴロゴロうるせーんだよぉ」
「おめーのほうがうるせーじゃねーかぁ?」
という不毛な争いが各地で勃発し
『キャリーバッグ禁止』を掲げる歓楽街もあったほどだ



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そんななか、立ち上がったのがスクールバッグ製作会社たちである


彼らはキャリー登校を望む中学生たちから、不満の目を向けられていた
そしてブーム以前から、 ”数年間で手放される運命” に心を痛めていた
今こそ、下剋上のとき。今こそ、老若男女に普及させるとき!


各メーカーが会議を重ねた結果


流行を取り入れたデザインシリーズ
材質にこだわった質重視シリーズ
ビジネスパーソン向けの機能性特化シリーズ


これら3種類が合同製作によって誕生した



最初は無反応だったものの、あるSNSの投稿がバズり
ネットニュースで取り上げられ
そしてついにテレビで特集が組まれることとなった
こうなると勢いはとどまることを知らず
幼子から社会人までがスクバ型カバンを持ち始め
”スクバ革命” が流行語大賞にノミネートするまでになったのである




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カバンの覇権が完全にキャリーから「スクバ」に変わった後
近所のおばあちゃんはやれやれといった風で


「あたしたちは、”伝統” を守る責務があるからねえ」


と言い残し、「あたしのコロコロ」と共に出かけていった





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