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黒猫の紅茶 【約1000字のお話】


ハロウィンの10日前
友人から手紙が届いた

一緒にティーバッグの10個入パックも入っていて
パッケージには音符を抱きしめる猫が描かれている

”紅茶好きの かなちゃんも唸る味……かはわかんないけど笑
きっと、喜んでくれるはず!”



弾んだ文字を見ながら、心も弾んでいくのを感じた


*****

早速袋を開けると、タグが普通と違うことに気づく
黒のジャケットに黒の蝶ネクタイを着こなす黒猫が
背筋を伸ばして立っているのだ

こういう商品があることは知っていたけど
実際に手に取るのは何気に初めて
すぐにお湯を沸かし
そばあったマグカップに1個目を投入した



*****


そろそろ引き上げようかな、と思ったときだった


「にゃーん」


という声が聞こえたのである


最初は、外で猫が鳴いたのかと思った
しかし私の耳が確かなら、方向がおかしい
すると再び、「にゃーん」と一声

私は、一転して自分の耳を疑った
だって、目の前のタグから聞こえた気がしたから

今度はタグに近寄り、全神経を集中させた
1分もしないうちに、距離感を差し引いても1番大きな声で


「にゃおーん!!」


と鳴いたのである


*****


キーンとする耳を押さえていると
机の上に小さなメモがあることに初めて気がついた
見てみると、手書き風の文字でこう書いてあった


”飲み頃になると、猫が鳴いて知らせます。
1日1杯。猫は切り離して、居心地の良い箱に入れてみて。
10匹そろうと、何かが起こるやもしれません。”

ただの紙にしか見えないタグに、そんな機能があるなんて
なにより、10匹そろうと何かが起こる……?


気になって仕方がなくなった私は
快適にすごせそうな小箱を物置から引っ張り出し
日当たりの良い窓際に置いておくことにした


*****


1日1杯を忠実に守り
そして迎えたハロウィン当日
最後の「にゃーん」を聞き終え
やや緊張しながら、9匹が待つ箱に猫を入れた


その瞬間、カーテンがふわりと揺れ
10匹が風になびくようにして動き出した
そして前4匹、後ろ5匹の2列になると
最後の1匹が彼らの前に立ち、両手を上げた

一呼吸の後始まったのは、美しい3部合唱だった


みなが大きく口を開け、楽しそうに身体を揺らしている
指揮者の猫もどんどん熱が入り、腕を大きく振っている



逆に、それを見る私は驚きのあまり、硬直状態だ
ここまでくると夢にしか思えなくなりそうだけど
なぜか、この小さな音楽会は本物な気がしていた


*****


彼らが元のタグに戻った後
私はその場で、友人に連絡した

「ねえ、あの紅茶、すごいね!」
「でしょ!タグが猫になってるのが可愛いよね」
「それもそうだけど、何より声がさ」
「ん? 喉にも良かった?」
「いや、そうじゃなくて……売り場に他の説明書いてなかった?」
「んーとね、確か、タグが本物の猫そっくり! だけだったかな」
「スーツと蝶ネクタイの二足歩行だったけどね笑」
「ええ? 写真は普通の黒猫だったよ?」



……どういうこと?

私は咄嗟に、箱の中へ目線を向ける
すると指揮者の猫がウインクし、こう囁いて見えた


Happy Halloween!!






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