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詩・ショートショート

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想像の世界を主にまとめています
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#ファンタジー

羽化 【詩】

大人になれなくて 間に合わせの仮面も見当たらなくて 中途半端な顔をむき出しにして ジタバタするたびに転んでいた それは本当の話? それとも御伽噺? 実はすでに脱皮したあとで 仮面なんて必要なくて 薄い膜が触れて チクチク痛むだけだった そしたら気づいた あの子の顔の隙間 大人に見せかけて オートクチュールの仮面を被って 中途半端な顔を隠して 嗤っていただけだった それは本当の話? それとも御伽噺? どっちでもいいよ それではおさきに

オーロラ・ブックストア 【ショートショート】

『あーあ、なんか面白いことないかなぁ』 職場からの帰り道、電灯がポツポツと寂しくついた商店街を歩く。 入社して3年目。仕事にも職場にも慣れた。俺の業務は毎年同じことの繰り返しだから、今年は本当に流れ作業のように過ぎ去っていった。後輩も来たことがないからずっと下っ端だし、なんというか、張り合いというものが全く無い。 『これで、いい出会いがあったら話は別なんだけど、さ』と心の中で呟く。流れ作業のくせに毎日しっかり残業があるせいで、職場以外の人間と会う時間も無い。今日は定時2

「オーロラ・ブックストア」 あらすじ

新卒3年目の「俺」は、流れ作業のような日々に嫌気がさしていた。そんなある日の帰り道、見覚えのない書店を発見する。そこはちょっと変わっていて、専用の腕時計が自分の本の好みを学習し、手に取るだけで振動で知らせてくれるらしい。そしてゆくゆくは、触らずとも本が勝手に光るという。 職場の同僚に話を聞くと、光輝く「運命的な出会い」があったという。出会いに飢えていた俺は本気で通い出すが……。 本編↓↓

起き抜けのモーニング 【ショートショート】

目覚ましの電子音が、頭上で鳴り響いた。 布団から右手を出し、ノールックでボタンを押す。全く起きる気がないときの押しかた……というわけでもなく、スヌーズを発動させすぎて癖になってしまっただけだ。といっても、今はもう1度寝るんだけど。 布団を頭まですっぽりと被ろうと、左手もちょこんと出して掛け布団の端を引っ張り上げる。そのとき、自分の目を疑った。白いはずのカバーが、オレンジ色に見えたからである。 一度、目を閉じてみる。そして開いてみた。オレンジ色である。今度は天井をしばらく

クリスマスの夜に【ショートショート】

クリスマスイヴの夜。21時。 足早にベッドへ滑り込む。本当はまだまだ夜ふかしするはずだったけど、もうどうでもいい。外界と遮断するかのように掛け布団を頭まですっぽりと被り、電気を消した。 何回か寝返りを打ちつつ、やっとうとうとしてきたところで、小さな物音が聞こえてきた。足音のようなものがゆっくりと、だが徐々に大きくなり、すぐ近くでピタリと止まった。直後、ゴトンという音がして、「バカッ」というささやき声。 この時点ですっかり目は覚めていたけど、目を開けるのは怖い。もしも泥棒

ガチャガチャ・ガチャ 【ショートショート】

週末、私はとあるガチャガチャコーナーの前で腕を組んでいた。 ここは、町に端っこにある商業施設。昔は平日も週末も関係なく人が入っていたようだが、巨大モールができてからは一気にさびれてしまった。 テナントが撤退した空間を埋めるべく設置されたガチャガチャコーナーで、以前から探していた某映画シリーズのマグネットを発見した。意気揚々と100円硬貨を3枚投入口に滑らせ、レバーを回す。 しかし、一向に出てくる気配がない。1度コインを戻し、再び入れ直して回してみるも、結果は同じ。中が減

推しテレビ 【ショートショート】

私は、やや緊張の面持ちで家電量販店のドアをくぐった。なぜなら、テレビを買うという使命があるからである。 前日の夜、急にテレビがつかなくなった。説明書とテレビそれぞれとにらめっこした結果、絶望的な状況であることがわかった。しかし翌日の夜にどうしても見たい番組がある。ということで翌日、超特急で貯金をおろし、開店直後の家電量販店を訪れることにしたのである。 無知で乗り込むのもよくないかと、一応ネットで「テレビ おすすめ」と調べてみた。しかし、液晶と有機EL、4K対応と4Kチュー

新しいフライパン 【ショートショート】

「ああ、やっぱりだめか」 コンロ前で溜息をつく。 目の前にはフライパン。その中で片栗粉をまとっていたはずの鶏肉は身ぐるみ剥がされ、一方のフライパンはその衣を順調に焦げつかせている。 しばらく前から異変には気づいていたものの、油の量を増やしたり、焦げつく部分を避けて炒めたり、焦げつきそうなメニューを諦めたりしながら、今日までやってきた。しかし、その間にも小さなストレスは積み上がり、遂に限界のときを迎えた。固まった片栗粉が具材の一部となったのを見て、私はこのフライパンとの別れ

路線バスに乗って 【約1000字のお話】

人も車もいない、休日の朝。 空き地の前にある、錆び付いたバス停にいるのは私だけ。 右手には線香やライター、135ml缶のビールが入った鞄。左手には仏花を2束抱え、ぼんやり突っ立ていた。 昨日夜更かししすぎたからか、睡魔がすごい。しかし降りるのは終点だ。最悪寝てしまっても大丈夫だろう。 ******* バスが到着し、整理券を取って席を探す。しかしこのとき、車内の異様な空気に気づいた。 まず、この時間帯ではありえないくらい混んでいる、というか満席だ。そしてなにより、老若

四次元カード 【約1000字のお話】

いつもと変わらない、平日の夜だった いつものように出勤し、いつものようにレジ交代をし いつものように混雑のピークを切り抜けた バイトを始めて3ヶ月 仕事も大学との両立も慣れてきた このあとはのんびりとした時間が流れるだけ…… ***** 「ちょっといい?」 60代くらいのおば……お客さんが話しかけてきた 「はい、どうされましたか」 「あのね、これが、シール貼ってるのに 割引されてなかったんだけど」 レシートを見せてもらうと、確かにすじこが定価になっている 「申

カバン革命 【約1000字のお話】

テレビに映るスクランブル交差点 四方八方に歩く人々の手には キャリーバッグが握られている ***** 観光や出張以外でも利用する人が増えている きっかけは、空前の旅行ブーム キャリーバッグの売れ行きが伸びると これを好機とみたファッション業界が参入 あらゆる世代に向けた個性豊かな商品が次々生み出され 雑誌では1週間コーデのポイントとして大活躍し 気づけば、誰もがキャリーバッグを持っていた キャラクターイラスト付きの小さなキャリーは それを引きずる子どもをさらに尊い存在に

黒猫の紅茶 【約1000字のお話】

ハロウィンの10日前 友人から手紙が届いた 一緒にティーバッグの10個入パックも入っていて パッケージには音符を抱きしめる猫が描かれている ”紅茶好きの かなちゃんも唸る味……かはわかんないけど笑 きっと、喜んでくれるはず!” 弾んだ文字を見ながら、心も弾んでいくのを感じた ***** 早速袋を開けると、タグが普通と違うことに気づく 黒のジャケットに黒の蝶ネクタイを着こなす黒猫が 背筋を伸ばして立っているのだ こういう商品があることは知っていたけど 実際に手に取る

コンビニ 【約1000字のお話】

◯月△日、天気は曇と晴れの中間 私は友人との待ち合わせ場所に来ていた しかし、本来の時間は30分後 つまり、早く来すぎたのである さすがにスマホで潰せる時間でもないし 近くのコンビニで飲み物でも買うことにした ***** この辺は馴染みがなかったが 比較的中心部だから、コンビニはすぐに見つかる そうなると、1軒目では時間の潰しようがない ということで、少し足を伸ばして3軒目に入ることにした やや小さく、他よりも若干古い角地のドアを 何の気もなしに押したのだった *

お惣菜コーナーにて 【約1000字のお話】

ああ、今日は仕事が立て込みすぎた。 昼食もままならず、縮んで干からびた胃を抱え、夜道を歩く。 晩御飯はどうしようか。卵と冷やご飯はあるからオムライスはできるけど…… うん、面倒。スーパーでお惣菜を買って帰ろう。 ***** 閑散としたスーパーの中を、お惣菜コーナー目指して歩く こういう日はガッツリしたものが食べたい カツ丼、天丼、カツカレー 豪華な弁当とか、残ってるかもしれないな ちょうど値引きもされてるだろうし ビールと一緒に……ゴクリ ***** お惣菜コー